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絵本をもって旅に出よう~絵本と過ごす、いつもと違う1日~

【絵本と旅に出よう】主役と脇役が入れ替わる絵本パラレルワールド

主役と脇役が入れ替わると、新しい物語がはじまる絵本

心地よい風の中、広大な場所へ出かけてください。できれば、いろいろな人がいるところ。

ジョギングしている人。家族でキャッチボールしている人。凧揚げしている人。読書しながら寝転んでいる人。昼寝をしている人。犬と散歩している人。恋人同士でフルーツを食べさせ合いっこしている人。あなたにとって、彼らは脇役の人たち。今見ている風景の一部です。でも、そこへあなたに向かってボールが転がってきたら...?

突然フレームインしてきたこの人はあなたのドラマに意味のある人になるかもしれません。そして、その人にとっても...。


「絵本と旅にでる」をテーマに、いろいろな場所で絵本を読む実験です。絵本をひらくと訪れる、いつもと違う日常に新しい発見があるかもしれません。その1つの目的に「視点」を変えることがあります。さて、今回の旅では、どんな風に世界が見えるでしょうか。

たくさんの人がなにかをしています。風景に見えるその人たちについて考える。

実は主役がたくさん存在する、何通りのドラマもある絵本

当たり前なのですが、自分を脇役だと思って毎日生活している人は、いませんよね。どんな人も自分の眼を通して自分のドラマを体験しているからです。でも、絵本では、脇役だと思っていた「あの人」も実は主役なのだと教えてくれます。

よく知っている絵本が、読んだことのない違う絵本に見えてきたらしめたもの。

 

絵本『はじめてのおつかい』(福音館書店)は、子どもに読み聞かせをしてあげたり、自分が子どもの頃読んだという人も多いのではないでしょうか。臨場感溢れる主人公のドキドキと緊張感に胸がキュッとなったり、「本当によく頑張ったね」という子どもの「はじめて」を優しく見守るお母さんの気持ちになったりしながら、絵本を読み進めた人がほとんどではないでしょうか。

では、主人公の少女がいる風景の中に溶け込んでしまった、脇役に焦点をあててこの絵本を読み返してみましょう。

 

そこにはどんなドラマがあるのかしら。

子どもの視点からは、こんなにお店の中のものたちが高くそびえたって見えています。

さて、主人公のみいちゃんとは別に何ページにもわたって登場している「黒猫」がいるのをご存知でしょうか。

店先の赤い公衆電話の前で寝ているこの黒猫、みいちゃんの視界には入っていないものの、実に動きがあります。気持ちよく寝ていたところ、嫌いなクルマの排気ガスで目を覚まし、こわいおじさんがやってきたら、店先から飛び降りて向こうの通りへ移動しています。そして、また店先に戻ってきて眠っています。

意外と子どもたちの方が気づいてるかもしれませんね。大人になると、物語の本質ばかりをとらえようとして、他のところへ視点が及ばなくなるようです。

 

この黒猫はどこからきてどこに向かっていくのでしょう。黒猫を追って絵本を読み進めると全く違う物語が登場しますよ。

あ、やっぱりいる。あんなところに。向こうにわたっちゃいましたね。どこに行くのだろう。
はじめてのおつかい

子どもがいつか必ず経験する、はじめてのおつかい。ひとりのおかあさんが、子どもの体験をもとにつくったお話を、さわやかな絵本にしあげました。

黒猫の行動を追ったことで、なんだか視点が変わりましたよ。

今はみなさんの目もまったく違う目になっているはず。一度、目覚めるといろいろなことが気になります。

 

絵本の中に登場する掲示板に、迷い猫のポスターが貼ってあるのに気づきましたか。ポスターによると、ひらたさんの家の茶トラの猫ちゃんが迷子のよう。特徴は、赤い首輪をしています。早く見つかるといいですね。もしかしたら、近くにいるのかもしれません。

 

見つけてあげたい!と感じたら、絵本の中で、迷子の猫ちゃん探しのお手伝いをしてみましょう。意外なところで、自由を楽しんでいるかもしれません。絵本を閉じたあとの物語では、きっと、飼い主さんのもとへ無事に保護されているはず。

 

そして、余談ですが、掲示板をもっとよく見てみましょう。なんと、林明子さんが先生をされている絵のお教室の情報まで。素敵な町ですね。町の隅々まで見ていると、もっと、みいちゃんの住んでいるこの町のことも知りたくなりませんか。

掲示板を見てみると、気になる迷子のお知らせが。

是非、絵本の中で迷子の猫ちゃん、見つけてくださいね。

確かあのページで、のんきに塀をお散歩してるのをどこかで見かけたような...!

まるで映画そのもの。12人が主役で脇役のパラレルワールドな絵本

ちょっとした「視点」を変える訓練ができたところで、さぁ、次の絵本へ。

ここで、誰もが脇役で誰もが主役という不思議な絵本をご紹介します。絵本の下半分には、町の様子。上半分には主人公の12人がそれぞれ主体となって1日を過ごしています。早起きして職場に向かう人、徹夜明けで昼間に眠る人、いろいろな職業、年齢、性別、そして動物や銅像までもが登場し、時には主役となり、誰かの脇役となり、つながって離れて生活しているのです。

 

何気ない1日ですが、ある事件が起きます。その事件によっていろいろな職業の人がどんな働き方をしてそれぞれと関わっているのかを知ることができます。何回読んでも読みたりない、そのたびに発見がある絵本です。

主人公の12人たち。さぁ、誰の1日を追ってみますか。
それぞれの家の配置と、見えてる景色も立体的にイメージできるようになったらすごい!
夜になると、事件が起こります。その時12人はなにをしているでしょう?
ライオンを見ている赤ちゃんと赤ちゃんを見ているライオンに気づきましか。

動物園を脱走したライオン。ライオンが見ている景色とライオンを目撃した赤ちゃんの景色。ここで二人の視界がつながります。それぞれのいろいろなドラマが同時に起きているということがよくわかります。絵本の中での関係性が、実際の世の中で起きている事象にも紐づけられて、他人と思っていた脇役の人たちのそれぞれの人生が想像できるようになるのです。

 

例えば、今いる大きな公園にいる人たちを見ていても、ああ、あの人、今日はなにかいいことあったのかな?

赤ちゃんのはじめてのおでかけなのかな?一体、なんでその本を読んでいるの?凧揚げをするには今日は風が強すぎましたね。なんて、急に目の前にいた人たちが風景ではなく、人として認識されはじめるのです。とても不思議。

12にんのいちにち

サッカー好きの男の子、パン屋さん、消防士、テレビのレポーター、看護師さん、赤ちゃん・・・・・・。ある町の12人の一日を2時間ごとにたどった、楽しい絵さがし絵本の労作!

まわりに住んでる人が気になってくる絵本

「ご近所さんの顔も知らないで生活する」ことが可能な今の時代。

お醤油きらしていたって、ネットでお買い物もできますし、映画館にいかなくても映画も見れます。でも、同じコミュニティで生活している人たちの人生を知ることは、もう1つ新しい世界が自分の中で1つ増えること。人と関わりあうことは、厄介なことも増えるけど、それ以上に喜びが倍増することだってあります。もし、近くにいる人が違う県からやってきた人だとしたら?ましてや異国や全く異なる文化圏の人だとしたら、どんなに刺激的な発見があるのでしょうか。そんな他人に興味が俄然わいてくる絵本が、『マドレンカ』 (作・絵:ピーター・シス 訳:松田 素子 出版社: BL出版) です。

※残念ながら、現在この絵本は品切れ重版未定となっております。

表紙カバーをはずしてみると、こんなマドレンカが!初めて気づきました。

他にもなかなか会えないご近所さんが気になる絵本

おとなりさん

森のおくに、家が2けんたっています。赤い屋根の家には、にわとりがすんでいます。青い屋根の家には、だれもすんでいません。ある日、外に出たにわとりは、びっくり! となりに誰か引っ越してきたようです。ところが、おとなりさんは、なかなか姿をあらわさず……。正体のわからないおとなりさんとのすれちがいが楽しい絵本です。

絵本の中の個性的な脇役の登場人物にも自分が主役の物語があるかもしれないと思うと、だんだんとみんなが主役に見えてくるから不思議なのものです。1ページしか登場しなくても、その世界の中で彼らは生きています。だって、登場人物の情報が足りなかったら、自分で想像すればいいのですから、物語は無限大!どれだけ時間があっても足りません。もっともっと知りたくなります。

 

『だいすき、でも、でもね』(文研出版)では、登場人物たちがそれぞれ物語の主役というだけではなく、「好き」という視点が加わってくるからさらに面白い。その主人公が何に興味があって誰を好きなのか、登場人物同士の複雑な関係性を教えてくれます。なかなか両想いにならないこの気持ち。いろいろな人が主人公に見えてくると、とても深くて興味深いのです。

永遠に続く片思いが面白い訳。気になりすぎて最後まで一気読みです。
決して主人公が主人公にならない物語。
次のページでは、主人公は飼い猫のバニラに。そして、バニラが好きなのは・・・。
だいすき、でも、でもね

まいちゃんがだいすきなのは、こねこのバニラ。でもバニラがだいすきなのは、青いクッション。でも、でもね、青いクッションがだいすきなのは……。13年度読書感想画中央コンクール指定図書

いかがでしたか?

最初は大きな公園でちょっぴり寂しくて、ひとりぼっちだったのに、なんだか周りで遊んでいる人たちまで親しげに見えてくるから本当に絵本の力はすごい。もちろん、お家で読んでいても十分に感じられることかもしれません。でも、やっぱり外だからこんなに心が敏感になって、いろいろなものが見えてくるような気がしてなりません。

 

みなさんも是非、絵本と旅にでてみてください。絵本はきっと違う表情で、新しいことを教えてくれますよ。

家に帰ると、忘れかけていた枯れた紫陽花から新しい主役が顔をだしていました。

富田直美(絵本ナビ編集部)

米ペンシルベニア州フィラデルフィアで20代を過ごす。現地の大学で経営学を専攻、就職。帰国後は映画のタイアップや、家庭用ゲームの映像制作に関わる。その後、エンターテイメントの分野で外資系ライセンスビジネスに従事。絵本好きが高じて2012年から絵本ナビに入社。これまでの経験を生かし、ユニークな視点で大人も子どもも楽しめる絵本や洋書の魅力を紹介。2歳児のママ。

【連載】「絵本で楽しむ英語の世界」を絵本ナビスタイルで執筆中。https://style.ehonnavi.net/post-series/28403

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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