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あなたが「今」好きな絵本3冊は、なんですか?

【vol.2】肩の力を抜くって大事だね<書店員・兼森理恵さん>

 

あなたが「今」好きな絵本3冊はなんですか?

ふいにこんな質問を投げてみたとしたら、どんな答えが返ってくるのでしょう。
この質問を投げかける相手の条件は「絵本の読者」。絵本ナビ編集長・磯崎による連載企画。

絵本を通して「今」が見えてくる

手応えを感じた初回に続き、第2回に登場してくださったのは……? 

「連載へよせて」全文はこちら>>

お話を聞くのは…

 

兼森理恵(かねもりりえ)さん

 

書店員。1976年東京都生まれ。1999年ジュンク堂書店入社。池袋本店、新宿店を経て、現在、丸善・丸の内本店勤務。児童書担当。 書店業の傍ら、絵本レーベル「らいおんbooks」にも携わる。

第2回に登場してくださったのは、東京・丸善丸の内本店児童書担当の兼森理恵さん。書店員の枠を超え、書評や講演だけでなく、編集者として絵本の制作にも携われている兼森さん。磯崎との交流は10年以上も前から。直接一緒に仕事をする機会はあまりなかったのだけれど、昨年11月に対談イベントに呼ばれることになり、コロナ禍における書店の状況や心情についてお互いにじっくりと話をさせて頂く機会がありました。(「対談! リアル書店員&ネット書店員〈見えないものを見る~コロナ禍の書店と本の未来を紡ぐ〉」)その縁もあり、この企画への出演をお願いしました。その頃には状況が良くなっているだろうと予測をしていたのに、2回目の緊急事態宣言が出て事態はさらに深刻になるばかり。そんな中でも絵本の話をしようと取材は始まりました。

肩の力を抜くって大事だね

―― 今日はよろしくお願いします。私の中では、いつも児童書や児童書業界について熱く語ってくれる兼森さんは「闘う書店員」のイメージ。そんな中でどんな絵本を選ぶのかな、って思っていたら……

 

あんまり闘ってなくない?(笑)昨年、磯崎さんと話をしていた頃より、少し緊張の糸が溶けてきたというか。

―― そんな兼森さんに、さっそく質問を投げかけてみたいと思います。

あなたが「今」好きな絵本3冊は、なんですか?

この取材のお話をいただく前、昨年(2020年)のクリスマスの時期、急に「わたしのあしを あたためてくれるねこ」というフレーズが浮かんできて、それが頭から離れなくなって。なんだったかな……と思いながら、何度も繰り返し呟いていて。それがこの絵本でした。1冊目です。『ゆきのねこ』(ダイヤル・カー・カルサ・作 あきのしょういちろう・訳 童話館出版)。

「かわいくて大きなねこを おつかわしください」

ゆきのねこ

ま冬の森のはずれ。エルシーはたったひとりの生活をしています。ある夜、神様におねがいしました。
「かわいくて大きなねこを おつかわしください」。
朝になると、ゆきでできた大きなねこが“ニャーオ”!エルシーはしあわせでした。しかし「けっして ゆきのねこを家にいれてはならない」という神さまとの約束をやぶり、ゆきのねこは溶けてしまいます。泣き悲しむエルシーに神様は言いました。
「ゆきのねこは、今でもあなたの友だちです。ちがうかたちで ですけど」。
ゆきのねこは生きました。今でも、今日でも、森のはずれの小道をたどるなら、お日さまの光をうけて宝石のようにきらめいているゆきのねこに、きっと 会うことができるのです。

『ゆきのねこ』発売されてから20年以上も経っているんだけど、私ったら、なんでこの絵本の存在を忘れていたんだろう、と。読むと、一文一文がちょっと長いなって思うけれど、それが何だかお祈りの言葉の様でもあって。主人公の女性エルシーの、切々とした願いというのが伝わってくる。絵も、ステンドグラスを思い起こさせる、シンプルで象徴的な感じで。もともと、こういう宗教的な雰囲気の絵本は好きなんです。

 

雪深い森のはずれの中、たった一人で暮らしているエルシーは、「夜に、わたしの足をあたためてくれる、かわいくて大きなねこを、おつかわしください」と神様に願う。家にはひとかけらの食べ物もないから、お腹の空かないねこを、って。結構ワガママだよね(笑)。でも、神様は「部屋には入れないで」という条件付きで叶えてくれる。このねこが、想像以上に大きくてふわふわで、可愛くて……!ところが、彼女は約束を破ってしまう。雪から生まれているからね、部屋に入れたら溶けちゃう。この展開も「あるある」だなって思うけど(笑)、気持ちはすごくわかる。でも、この絵本がすごいなって思うのは、話がこれで終わらないっていうこと。神様は彼女の大切にしていた存在の面影を、ちゃんと彼女のそばに残していってくれる。

―― 悲しいけれど、なぜか心が満たされる。不思議な絵本。でもこれ、たった一日の出来事なんですね。

 

そう、エルシーが「ゆきのねこ」と出会って別れてしまうまでは、たった一日。だけどその一日がなかったら、彼女はこの暮らしに耐えられなかったんじゃないかと思う。寂しいけれど、ひとつの願いが聞き入れられたことで、彼女は生きていける。糧になるものがあるだけで、人って生きて行けるんだと思う。

 

―― なるほど。それが彼女の場合、ねこの存在だったのかもしれなくて。

 

実はね。私、この絵本を思い出すまで、家で無意識にこの子(ぬいぐるみ)をなでていて、仕事場でも気が付けば空中で何かをなでる仕草をしていて。変だよね(笑)。でも、なんだろうこれは。私は何をなでているんだろう…って、ずっと頭の中がフワフワ、モヤモヤしていて。そんなとき、家の本棚の中にあったこの絵本のことを思い出して。読んでみたら「あ、ここにいた!」って。もちろん、絵本の中のねこを実際になでることはできないけれど、お話という形になって、私に見せてくれている。不確かだったものが、確かになった瞬間というのかな。このあたたかくて、寄り添ってくれる優しいもの。手で実体を確かめられる、その安心感。私はこの感じを求めていたんだな、と。

 

―― 求めているものに対して、身体が先に反応していた、ということ?

 

思い出すきっかけはフレーズだったかもしれないけど、手がすでに動いていたみたいで(笑)。だから、この絵本と再会したときにすごく落ち着いた気持ちになれて。心と体って連動しているんだな、って改めて。

そういって見せてくれたのは、絵本『こんとあき』に登場するこんのぬいぐるみ。なでながら、「今すごく犬が飼いたいです」と兼森さん。(旦那さんが猫アレルギーなので……)願いまでシンクロしている!?

―― いつか兼森さんの願いも叶いますように……。では、続いて2冊目を教えてください。

 

2冊目は『かぼちゃスープ』(ヘレン・クーパー・作 せな あいこ訳 アスラン書房)です。

三人で作ったスープは世界一の味!

かぼちゃスープ

森の中の家に、ねことりすとあひるの三人が、いっしょに住んでいた。 三人が、毎日決まった手順で作るかぼちゃスープは、世界一の味。 ところがある朝、あひるが「ぼくがスープをかきまぜる!」と言ったから、三人は大げんか。ついに、あひるは家出した。 三人の友情と、スープの味はもとに戻る?
1999年ケイト・グリーナウェイ賞受賞

―― 読めば必ずかぼちゃスープが飲みたくなるこの絵本。もともと好きだったんですか?

 

そう、この絵のあたたかい雰囲気が大好きで。これも、ずっと家の本棚にあった絵本。仲良しの3人のやり取りがとても可愛いんだけれど、中でも家出をしてしまうあひるのお話が楽しくて。刺激や変化を求めて行動を起こしてしまう、その展開にとても共感していたんだよね、かつての私は。

 

―― でも今は違う?

 

今読み返してみたら、お話が始まってすぐのこの場面。

「この家じゃ けんかなんかは 起こらない。  役目がちゃんと 決まってる。  みんなが みんな 幸せだ」

3人が仲良く暮らしている、というだけで心を掴まれてしまう。そんなお話じゃないはずのに! 猫が材料を切り分けて、リスがかき混ぜて、あひるが塩で味付けをして、世界一美味しいかぼちゃスープが出来上がる。このいつもの繰り返しでみんなが幸せな気持ちになっているということに、ぐっときてしまう。更にいいなって思うのは、たとえあひるのワガママでみんなに心配をかけていたとしても、今まで積み重ねてきた幸せな日常に思いを馳せて、猫もりすも涙をこぼす。あひるは大丈夫かな、と心配をする。ああ、なんていい関係なんだって。

私も、以前は好き勝手な生活をして、いつも旦那さんに怒られたりしていたんだけど。でも、結局いつも許してくれていて。そういう帰る場所があるってありがたいな、日常を大事にしなくちゃな、なんてしみじみと。といいつつ、家にきちんといたらいたで、毎日なんかしら怒られてるのですが(笑)。

―― 兼森さんがこの絵本を選んだ理由として、私は勝手に「もっと友だちに会いに行きたい」「密なつながりが欲しい!」という願望を込めているのかな、って思っていたけれど。

 

いや、どちらかというともっと内側を向いているのかも。家族だったり、仕事仲間だったり。どんなことを言っても、どんな状況になっても、一緒にいてくれる人がいる、仕事をしてくれる人がいる。それって、当たり前のようで当たり前じゃないことだな、と。以前は、外へ外へっていう気持ちがあったし、破天荒なあひるのことしか見えていなかったけれど、この状況下というのもあるし、年齢を重ねてきているということもあるのかな。

 

―― なんだかまっとう!(笑)

 

うん。むしろ、こういう状況下でも、ちゃんと密な関係を保つことが出来るということがわかってきた。それが安心感に変わったのかもしれない。安心して、自分の気持ちと向き合えるようになってきたのかな。

 

―― 確かに、ほんの半年前の兼森さんは、もっと切羽詰まっていたよね。

 

その頃は、それまでの価値観が大きく揺らいで、不安で押しつぶされそうになっていたのに、言葉にもなっていなかった。だけど磯崎さんと話をしながら、そのモヤモヤしていたものが言語化されていくと、少しずつ元気になってきて。まだまだ状況は良くなる気配がないけれど、以前なら「ああ、できないな」と諦めていたことも、なんとか相手に気持ちを伝えたり、場所や方法を考えたりすることができるようになってきたのは大きいかもしれない。


―― 内側を見られるようになったという話。それって、すごく大事なポイント……いい選書ですね。続いて、最後3冊目も教えてください。

3冊目は、『うみべのこねこ』(宇野克彦・作 西川おさむ・絵 ひさかたチャイルド)。これもすごく好きな絵本で、他のメディアでも紹介したことがあります。特に、こねこがしっぽをピンと立て、颯爽と海辺から旅立っていく最後の場面がとても良くて。

「ぼくも空をとんでみたいな」

うみべのこねこ

海辺に捨てられたこねこが、かもめを見ていいました。「ぼくも空をとんでみたいな」すると、「いたい!」かにがお尻を挟んでこねこを跳びあがらせたのです。かにと友達になったこねこは、いっしょにかもめを助けたり、海に落っこちたり。そして思いがけず空を飛ぶことに…。
一つ夢がかなったこねこは、希望を胸に歩き出します。

子どもたちが自分の世界を広げながら、前に進んでいく、そういう成長の物語がしっかりと描かれている。子どもたちの心に寄り添ってくれる凛々しい絵本として、客観的に読んでいた。だけど、今回改めて読んでみると全然違う印象を受けて、自分でもびっくりして。

 

―― というと?

 

なんというかこの抜け感がいい。もちろん、西川おさむさんの描く絵の雰囲気の魅力っていうのがあるんだけれど、お話にも気負いがないというか。この“かに”なんて、何かを教えてやろうという気もない。今なら、そういうのが見えてくる。だけど、この出会いによって、二人には色々な出来事が起きて。そして最後はいさぎよく別れる。もう一生会わないんじゃないかって思うけど、それが素晴らしいな、って。

 

人間の世界でもそう。「全然違う世界を見せてくれた人」がいたとしても、その後ずっと交わることがない人っている。だけど、その経験がこんな風に1冊の絵本になってしまうくらい、それはそれで大事なことであって。この絵本の中のこねこも、知らない世界だったはずなのに、最後にはまるでそれが自分の庭の様に迷いなく歩いていく。後ろも振り返らずに。それがとってもかっこいい。生きていくって、こういうことじゃないかなって思った。

 

―― 自分と重ねる部分はあった?

 

この絵本が一番自分ごとのように読んだかもしれない。自分を奮い立たせなきゃって、ずっと思っていたけれど、それが今少し抜けて。そうすると、世界も少し違って見えてくる。目の前で起こる出来事を素直に受け入れ、柔軟に対応していって。その些細な積み重ねが全て自分の経験値になっていく。当たり前のことだけれど、それが自分を前に進ませてくれる。前に進んでいくっていうことを、もっと勇ましく捉えていたけど、自分の思うままにやっていったらいいのかな、っていうのが伝わってくる。そういう意味でも、読み方の変化が一番大きかった1冊でもあるのかな。

颯爽と海辺をあとにするこねこの姿が凛々しくてかっこいい。

―― 子どもたちの背中もこんな風に見えることってありますよね。頼もしいな……。さて、3冊を振り返ってみると、全てに猫が登場している! それ以外でも、この3冊に共通したテーマはあったと思いますか?

 

うーん、「寄り添う」なのかなって思いました。自分に寄り添ってくれるものを大事にしながら、そういうものを受け入れながら、拠りどころにしていけたらいいな、って。

 

―― 兼森さんは、仕事柄、普段から選書という作業は、数限りなく行いますよね。今回はどうでしたか?

 

普段は、もっと戦闘態勢というか(笑)。売りたいものや、知ってもらいたい作品っていうのを選書したり、お店に並べたり。もちろん、それが楽しくてこの仕事をしている訳ですけど。でも今回は、あえてお店じゃなくて自分の家の本棚から選んでみよう、と。今の自分を鏡のように映す3冊なんて本当にあるのかな?って半信半疑だったけど、すんなり選べてびっくりした。 自分の心の形を知るというのは、絵本の中にひしめく感情を救いとって触ることなんだなと。3冊を改めて読んで思いました。素晴らしい機会をありがとう。みんなやるべきだね。

 

―― そう言ってもらえると、本当に嬉しいです

半年前に選んでいたら、また全然違う選書になっていたんじゃないかな。あの頃は変化についていけないっていう自分がいたけれど、今はコロナが収束するのはまだもうちょっと先だというのがわかっている。だとしたら、これが日常になっていくのかもしれない。「起きちゃった、変わっちゃった」と思っていたら身体がもたない気もするし。意気消沈しているわけじゃないけれど、全てのことを柔軟に受け止めながら、粛々と毎日を暮らしていきたいのかな、って。

 

書店で働いていても、本屋に訪れてくれる人は少なくなったし、話しかけられることも極端に減って。だけど、今だから出会うお客さんがいる。特別な心持ちで話しかけてくれる人がいる。そういうタイミングや出会いに寄り添いながらやっていければと、ちょっと楽観的に思っています。

―― 兼森さんは、子どもたちにとっての児童書が、どんな存在であって欲しいと思いますか?

 

私は子どもの頃から絵本や読み物が当たり前にある環境だったので、自分を助けてくれて当たり前の存在だと思っていた。でも、今は本が助けてくれるというよりも、本がつなぐ縁っていうものを大切にしてもらいたいな、って思っています。本を通して誰かと話したり、つながったり。面白いと思ったら、家族にでも友達にでも、声に出して伝えてみて欲しいな。そうすることで、その気持ちが確かなものになる。それだけで強くなれる気がするから。

 

※丸善・ジュンク堂書店では、現在こんな企画が開催されています!
BOOK FUN LETTER 2021 ~好きな誰かに、好きな本のこと、手紙を書いて伝えよう~

 

―― これからの兼森さんは、絵本をどう読んでいきたいと思っていますか?

 

この仕事をしているから、定期的に絵本を読み返すことも多いけど、今回選んだ3冊は何年も放置していた。こんな風に好きだったのに放置している本があるなら、もっと読み返したいなと思った。それは楽しい発見。

 

―― また読み返した絵本がたまったらお話を聞かせてくださいね。そのときは腕に犬を抱いているかも?

 

犬の話ばかりになってるかな。「犬の飼い方」とか「犬の図鑑」とか……。

 

―― その話はいらないかな(笑)。今日はありがとうございました!

最後にこの1冊!

「らいおんbooks」レーベルで兼森さんが編集者として携わった作品をご紹介します。

今だからこそ、読んでもらいたいというこの絵本。

「いとしいラミラ。旅に出たら、泣いても助けは来ないでしょう。

 泣きたくなったら、歌いなさい。

 できるだけ、いつも笑顔でね。」

 

このフレーズが大好きで、今も私の支えになっています。

肩の力を抜くのって大事だね。「今なにができるかな」っていうのが見えてくる。

子どもたちにもそれは伝えたいな、私もそうするからさって。

取材・文 磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

編集・看板イラスト 掛川 晶子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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