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絵本ナビ編集長の気になる1冊

おわりからのはじまり。

 

「……あ、おわった」

 

これは、宿題が思ったより早く出来ちゃったわけでも、仕事が迅速に片付いた訳でもありません。何かを派手にやらかしてしまった時の心のつぶやきです。世界の終わりを感じつつ、体中の力が抜けてしまった時の最後の言葉です。

 

なんでしょう、年齢に関係なく、ふいにやって来るこの「全てがおわった」感。頭の中にもやがかかって、次になにをしたらいいかなんて考える余裕もありません。ツライです。ここは「せかいのはて」なのでしょうか。乗り越える方法なんてあるのでしょうか!?

 

…でも待って。自分の顔をよく見てみて。
なんだか盛大にやらかしてしまった時ほど、ちょっと顔が笑ってません?この事態、面白がってません? 実は予測してたんじゃないの!? こんな事がいつかは起きるんじゃないかと感じながら、うっすら世界の果てのその「むこうがわ」を期待して、無意識に自分で進んでいったんじゃないの?

 

実際にはそんな計算高い人、大人だってなかなかいませんよね。やっぱり落ち込むものです。だけど「せかいのはて」の「むこうがわ」。その存在を感じる事が出来たなら、かなり救われる子もいるんじゃないかと思ったのは、この絵本を読んだとき。

おわりからのはじまり。

せかいのはてのむこうがわ

ちょっぴり内気な「ぼく」は、自転車が大好きな友だちの話にもっと入りたいけれど、いつも仲間はずれ。
でも、ぼくには「せかいのはて」と呼んでいる秘密の場所があるんだ。
そこに行くと、いやなことも全て忘れ、空想の世界にひたることができる。
「せかいのはて」の向こう側では、恐竜のいるジャングルもあれば、中世のお城がそびえていたり、未来都市が広がっているんだ。
でも、ある日、その向こう側へ本当に行ってみようと思い立ち、ぼくは、自転車でぐんぐんとこぎ出して…。

少年が自分の世界をおし広げる瞬間をみずみずしいタッチで描き出したのは、たなかやすひろさん。
この作品で第31回日産童話と絵本、グランプリ絵本大賞を受賞されました。
空想していた風景と現実の風景が絶妙に重なっているところが見どころです。
曇っていた「ぼく」の気持ちが、探検を通してさわやかに晴れていく展開、
そしてさりげないラストシーンも本当にすばらしい。
これは思春期にさしかかる子どもたちにもオススメしたいですね。

 

(長安さほ  編集者・ライター)

年齢が若ければ若いほど、「むこうがわ」の世界はとても大きく広がっているもの。見つけるまでに時間がかかることはあるでしょうけどね。そのきっかけが大事なのです。

 

大人になってくると、「…おわった」からの立ち直りの早いこと。すぐに「むこうがわ」の世界を見つけてしまいます。そのスパンが短すぎて、悲しいかなもう誰も興味を持ってくれないんですよね。

磯崎園子 (絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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