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miku 46号 2016年秋号

しつけと虐待の境界線

「たたく」ではなく「言葉」で伝え、自立へと応援しよう

子ども虐待のニュースの中で、「しつけのつもりだった」という言葉が後を絶ちません。また、日々の育児の中で、親自身が「どこまでがしつけなのか」と迷うことも少なくないようです。虐待との境界線は、どこにあるのでしょう。子ども虐待に詳しい山梨県立大学教授の西澤哲先生に伺いました。

西澤 哲先生


山梨県立大学人間福祉学部・福祉コミュニティ学科教授。日本子ども虐待防止学会理事。虐待などでトラウマを受けた人々のカウンセリング等も行う。『子ども虐待への挑戦』(共著。誠信書房)、『子ども虐待』(講談社)など著書多数。

しつけとは、子どもが“不快”から“快”になる働きかけを行うこと

2016年6月に起きた、北海道の山中で男の子が置き去りにされた事件をはじめ、子どもの虐待に関するニュースでよく聞かれるのが、「しつけのつもりだった」という親の言葉。しかし、本来、「しつけ」と「虐待」は全く違うものです。  
 
そもそも「しつけ」とは、子どものセルフコントロール力(自己統制能力)を養うために、親が行う行為のことをいいます。たとえば赤ちゃんは、「おなかがすいた」「眠い」など自分が“不快”な状態の時、泣いたりぐずったりして大人の手助けを求めます。そこで、ママやパパが声をかけ、授乳や抱っこをして“快”の状態に戻るための手助けをする。これが「しつけ」です。
 
心身の発達とともに子どもの“不快”の内容は変わっていきますが、肌のふれあいや言葉で、その都度“快”の状態になる手助けを繰り返すことが大切です。そうすると、成長と共に、思い通りにならないことがあって“不快”でも、ママやパパの言い聞かせによって、がまんしたり、気持ちを落ち着かせることが少しずつできるようになる。これがセルフコントロールです。

しつけと虐待の違い

しつけ

<定義> 

 

 ・親が、肌のふれあいや言葉かけによって、子どもが「不快」から「快」の状態になるよう繰り返し手助けをしていくこと。

<子どもとの関係 >

 

子どもの「横」に立って気持ちを受け止め応援する

<子どもへの影響 >   

 

親に愛されている、大事にされていると感じ、自立につながる

虐待

<定義> 

 

・親が日常的にたたいたりどなったりして、力づくで子どもをコントロールすること 
・親が日常的に自分の感情にまかせて子どもの存在価値を否定するような言葉をぶつける

<子どもとの関係>

 

子どもの「上」に立ってコントロールする

<子どもへの影響>

 

親の顔色をうかがって行動する。または「良い子」として認められることをあきらめ、自己肯定感が低くなる

「しつけ」と「虐待」は根本から異なるもの

「虐待」は、親が権力をふりかざし威圧して子どもを押さえつける行為です。泣いている子どもに「うるさい!静かにしなさい!」とどなりつけたり、たたいて泣き止ませる。これは、親が子どもとの関係を利用して優位な位置に立ち、精神的な満足感を得ているだけのものです。
 
「しつけ」も「虐待」も、「子どもが泣き止む」「(して欲しくない)行動をやめる」という“結果”は同じですが、そのプロセスは全く異なります。子どもが言うことを聞かない時、「厳しく叱る」「たたく」という行為は、子どものためではなく、親が無意識のうちに子どもを支配するためにしていることです。「しつけ」と「虐待」は、「根本から異なるもの」なのです。

虐待を受けて育つと「自分は悪い子」という自己イメージが

虐待を繰り返してしまう親の中には、「自分自身が幼い頃、親から日常的にたたかれたり厳しく叱られたりしていた」という方がいるのも事実です。加えて、経済的な事情や「仕事と家庭のバランスをとるのが難しい」などといったストレスが積み重なることも、虐待につながる要因のひとつとして考えられています。しかし、そもそも、たたいたりどなりつけることで成立する親子の関係などありえません。また、「体罰などで子どもの行動をコントロールするのは、子どもの育ちに有害である」ことは、心理学や脳科学分野におけるさまざまな実験により、実証されています。
 
虐待を受けて育った子は、「良い子」として認められることをあきらめ、「自分が悪い事をすることで周りの人から認められたい」といった“悪性”のアイデンティティを築いてしまうことがあります。また、セルフコントロール力が養われにくく、ささいなことで激しい怒りを爆発させてしまうこともあります。
 
子どもをたたいたことがある人も、そうでない人も、わが子への日頃の接し方を振り返り、「しつける」ことについて改めて考えてみましょう。 

「たたく」のではなく「言葉で伝える」努力を

子どもをたたいてしまうなら、たたきたくなる原因=子どもの言動を、「たたく」という方法でなく具体的な「言葉で伝える」努力から始めてみましょう。言葉で伝える時は、「ダメな子ね!」など子どもの人格を否定するのはNG。「どんな言動にイライラし、困っているのか」を自分の気持ちとして子どもに具体的に伝えるのです。たとえば、朝、幼稚園に送り出したいのに遊びをやめずにいる時は、「もう幼稚園に行く時間だよ。ママはあなたを園に送っていきたいの。遅れるとあなたが悲しい思いをするから、ママもいやな気持ちになっているのよ」という具合です。
 
言葉に出すことで親の気持ちも少しは落ち着きますし、子どもも親が何にイライラしているのかがわかります。そして、夕方時間があるときに、「明日時間通りに行けるようになるにはどうしたらいいかな」などと子どもと相談し、親子で問題の解決方法を考えてみましょう。
 
しつけの本質は、いたってシンプルなものです。まず最初に「子どもは親とは別の人格である」と認識すること。たとえば大地震が起こったりペットが死んでしまったり、身の周りで何か悲しいことや悪いことが起こると、「その原因は自分にある」と認識してしまうようなところが、子どもにはあります。
 
その子なりの感じ方や考え方を受け止めながら、肌のふれあいや言葉で安心感を与えてあげる。それだけでいいのです。そして、きつく叱りすぎたと思ったら、「どなってごめんね」と、すぐにあやまれば許してくれ、親子関係も修復できるでしょう。子どもの「上」に立っておさえつけるのでなく常に「横」に立って気持ちを受け止め、自立への道を応援していきましょう。
 
もし、近所や身の周りで虐待と思われる機会があったら、その保護者との関係性にもよりますが、可能なら「大変ですね」「何かお手伝いできることはありますか?」などと声をかけてほしいと思います。その保護者は、孤立し、困っていることが多いものです。難しい場合は子ども家庭支援センターや児童相談所などに連絡しましょう。

しつけと虐待についてのQ&A

Q こちらが望むような行動をとってくれず、イライラしてついどなってしまいます。

 子どもは、親とは別人格の一人の人間です。周りに迷惑をかける行動をとったら、やみくもに叱りつけるのでなく、その子の行動を受け止め「どういう気持ちでしちゃったのかな?」など、その理由を聞きましょう。「わからない」と答えたら、「わからないのね。じゃあ一緒に考えよう」と言ってあげればよいのです。きちんと向き合うことで、子どもは自分が大事にされたと感じ、改善するようつとめようとするものです。

Q「虐待かな?」と思った時声をかけると、言い返されそうでためらってしまいます。

  子どもを日常的にたたいたり感情的にどなったりしてしまう人は、何らかの理由でその人自身が傷つき、困っていることが多いものです。せっかく声をかけても「放っておいてください!」と言い返されてしまうかもしれませんが、何もせずにみているより何倍も価値があります。私たちは、人と人とのつながりの中で生きています。子育てには、地域に住むたくさんの人の目や手が必要です。おせっかいと思われても、「大変ですね」など、ひと言声をかけてあげたいものです。

Q パパに「厳しく育てろ」と言われてたたいています。このままでいいのでしょうか。

  育児の方針や育児に対する考え方は、知らず知らずのうちに自分の親から影響を受けることもあります。父親で、厳しくしつけることにこだわりがある場合は、自分自身の育てられ方が起因し「子どもをどなったりたたいたりするのはOK」と考えるケースも見受けられます。夫婦でお互いの考え方や生育環境についても話し合い、小さい頃自分が親からされた悲しかったことやつらかったことを吐き出してみましょう。そして自立へと応援するために、どのように声がけしたらいいのか夫婦で考えてみるといいですね。

 

イラスト/犬塚円香 取材・文/長島ともこ

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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