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miku 50号 2017年秋冬号

育休取得とパパの子育ては当たり前「男を2週間でパパにする」フランスの子育てセミナー「フランスの子育てのヒントを日本に生かすには」

緊急現地取材

 

合計特殊出生率1・93(2016年)のフランスは、「2週間で男を父親にする国」。絵本ナビが発行する育児情報誌miku編集部では5カ国目の海外取材先としてパリを選び、2017年6月に取材を決行しました。

そのときのレポートをお届けします!

ナビゲートしてくださったのはパリ在住で『フランスはどう少子化を克服したか』著者の高崎順子さんです。

高崎順子さん


ライター。東京大学文学部卒業後、出版社に勤務。2000年に渡仏し、パリ第4大学ソルボンヌ等でフランス語を学ぶ。ライターとしてフランス文化に関する取材、執筆のほか、各種コーディネートに携わる。著書は『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリ生まれ プップおばさんの料理帖』(共著・新潮社)など。2児のママ。

 

入院中に行われる3日間のパパトレーニング

 

里帰り出産がまだまだ多い日本。里帰りしない場合も、祖父母が赤ちゃん誕生後のママのサポートすることが少なくないようです。フランスではパパが育児家事して産後のママをサポートするのが当たり前。祖父母のサポートを受けられる人は多くありません。
 
会社で働くパパには赤ちゃんの誕生後に、3日間の出産有給休暇が与えられます。これは1946年に制定され、休暇中の給与は雇い主が負担します。フランスでの出産入院は通常3泊4日程度。そしてこの入院期間をママと基本的に終日一緒に過ごし、ママのサポートをすることがまずはパパ育児の始まりになります。
 
基幹病院であるアルマン・トゥルソー病院の「親になるためのサポート・スペース」を運営している小児看護師サンドラさんに話を聞きました。

 

「出産後3~4日の入院中、パパは宿泊する人も多く、その場合は病室に簡易ベッドを用意。入院しない場合でも、自宅に戻って赤ちゃんとママを迎える準備(家の掃除をしたり、ベビーベッドを組み立てたり)を手早く済ませ、日中はママと赤ちゃんのサポートをする生活が中心になります。
 
病室では抱っこの仕方や、おむつ替え、沐浴、ミルクの作り方、へその緒のお世話なども、助産師から直接夫婦で学びます。助産師は1回目はやり方を見せて、その後はできるまでサポート。産後のママはあまり動くことができないため、助産師は「ママは疲れているの。あなたがやるのよ!」と叱咤激励し、できるだけパパに赤ちゃんの世話をしてもらいます。

 

「親になるためのサポート・スペース」運営

 

 

 

アルマン・トゥルソー病院 
小児看護師サンドラさん
 

 

9年前にこの病院はロスチャイルド病院と合併し、基幹病院的な役割を担うようになりました。母子保護センターと提携して、産後うつや虐待防止のために予防的な関わりを重視しています。助産師、看護師、産科医、麻酔医や母子保護センターのメンバーなどが日常的に関わっているため、連携も取れており、必要に応じてほかの専門家につないでいます。
 
妊娠中には8時間(2時間×4回)の「親になるための講座」があり、それとは別に「アトリエ」を行っています。アトリエは妊娠中や産後のパパママ向けの講座。ママ向けにはリラクゼーション講座を行ったり、パパ向けには出産準備講座を行っています。この病院では15種類の講座を企画しています。
 
講座の中では、母親アシスタントや保育ママなどの子育て支援の情報提供や、子どもと一緒に行かれる場所などの紹介も行っています。ベビーマッサージや月1回集まって親同士が不安を語り合う会などもあります。
 
双子以上の複数の子どもを授かった親向けの講座や、人工授精をして妊娠した人向け、早産児の親向けなどの講座も企画しています。特に子どもが小さいうちは、外との関係を持ち続けることが大切です。参加意識を高めるために、料理講座なども行っています。

病院の個室。ここで赤ちゃんの沐浴などを学ぶ。パパは床に簡易ベッドを敷いて宿泊。
 

出産準備講座や親向けの講座が行われるアトリエ。

Avec la collaboration aimable de Madame Sandra Caserio, Puéricu ltrice Coordinatrice de l ’Espace Parentèle de l ’Hôpital Armand-Trousseau, AP-HP

 

退院してからの11日間が「父親休暇」

 

退院前には、そのほか、母子保護センターからの説明があります。家に帰るときの準備、子育てグッズ(危険なもの)や、0歳児のやけど予防、抱っこひものしくみなども教えてくれます。産後サポートの説明も行われます。フランスでは出産後12日以内に助産師の訪問診察を受けられますが、この診療費は医療保険で100%カバーされているため無料です。子どもの医療保険加入手続き(18歳までは親の保険に付随する)、新生児定期検診などの案内もあります。
 
パパは、ママの入院中に3日間の「出産有給休暇」を終え、その後11日連続の「子どもの受け入れ及び父親休暇」に突入します。この2つの休暇を合わせた2週間が一般的に「男の産休」と呼ばれています。これは2002年に施行され、すばやく社会に浸透。特に世論の反対はなかったそうです。

 

労働法と社会保険法に定められているため、雇用主が拒むことはできません。正しく運用しないと、雇用主への罰則もあります。育休中は8割の給与保証があります。

 

2012年には新生児のパパの約7割が男の産休を取得。公務員だけなら取得率はほぼ9割に達しているとのことでした。

保育園不足をカバーする母親アシスタント

パリ市の保育園

©Sophie Robichon/ MAIRIE DE PARIS
©Sophie Robichon/MAIRIE DE PARIS

ビルの中や一軒家など、さまさまな形の保育園があります。親の働き方によって、預ける時間帯や曜日も違います。保育園は「子どもが健やかに成長する場所」であり「保護者の負担を軽減するところ」。そのため布団カバーやエプロンの持参は不要。登園初日に持参するのは記名付きの着替え一式と上履き、ストロー付きマグ程度。送迎する親は基本的に手ぶらです。

妊娠中やパパママ向け講座「アトリエ」のリスト

 

・フランスの法律。母性について
・出生届の出し方
・子どもが生まれるとはどういうことか
・無痛分娩について
・陣痛から退院まで
・新生児期からの栄養(粉ミルクについて)
・母乳アトリエ(産前/母乳の仕組み、産後/授乳時のポジション、パパにできること)など

10回の産後ケアが無料で受けられる

 

産後90日以降から10回、無料(医療保険100%負担)で骨盤底筋及び腹筋のリハビリ治療を受けられます。日本では「膣の引き締め」「産後の充実した夫婦生活のため」と理解されていることも少なくありません。しかし、目的は産後に骨盤底筋・腹筋を緩んだまま放置すると、尿漏れの原因になるほか、高齢に差し掛かった時に内臓脱落が起きやすいため、予防策として行われています。具体的には膣に圧力計を入れ、理学療法士の指示を受けながら下腹部と骨盤底筋に力を入れるトレーニングをします。また自宅でできる腹筋トレーニングも習います。

 

保育園不足をカバーする母親アシスタント

一番左がパリ市児童局局長フィリップ・アンスブーさん、右隣の女性がパリ市家庭児童局所轄域内運営・推進責任者アンヌ・ドンゼルさん。

 

パリ市児童局のみなさんに話を伺いました。「パリ市の保育の特徴は、集団保育と個別保育の2本立てになっています。集団保育は公的なものは450園あり約2万4000人、私立や非営利団体の保育園では約9000人の子どもたちを保育しています。このほか保護者が運営に携わる「親保育園」もあります。公立私立に関わらず、保育園はすべて認可を受けています。認可基準に見合っているか調査・監督を行うのは、自治体管轄の母子保護センターです。
 
パリ市には母子保護センターが約120件あり、60人の医師がセンターに携わっています。母子保護センターは、地域の親子の相談に応じたり、乳幼児健診を行うほか、保育園の巡回も行っています。このほかにおもちゃ園(児童館)もあります。
 
パリの保育園は0歳~3歳の子どもを、親の都合に合わせて週1日~5日まで預かっています。時間は基本的に7時半~18時半です。0歳~6歳児の一時預かりは8時半~17時半までです。」
 
パリには20区あり、それぞれの区によって事情が異なるため「保育園共通電話番号」を設置したそうです。私立保育園との個人契約はどうしたらいいのか、必要な書類は何かなど、さまざまな疑問に答えてくれます。

 

パリ市内の保育園の分布図・資料と高崎さんの取材ノート

 

パリ市では働く親も増えているため、まだまだ保育園が足りないのが現状です。ただし、フランスでは3歳から全員が学校に行くため、待機児童問題で困っているのは2歳までの子を持つ親だけです。逆に言えば保育園に入れなくても、保育サービスなどを利用して2歳までを乗り切れば共働きを継続することができるということです。
 
保育園不足をカバーしているのが個別の保育サービス。ベビーシッターや「母親アシスタント」です。ベビーシッターは民間のサービスですが、母親アシスタントは簡単に言うとベビーシッターの進化系。1977年に母子保護センターが子守の認可制度をスタートして、母親アシスタントと名称が一新されました。社会保障制度の枠組みに組み込まれたため、費用の一部が自治体から補助されます。自治体主催の無料の60時間研修を受けると、資格が与えられ、自宅で子どもたちを保育します。預かる人数は1~4人で、審査結果により決められます。

 

フランスでは3歳未満の子を持つ約7割の女性が働いています。パパが子育てすることはもちろん、保育園や母親アシスタントが仕事復帰を支えているといえるでしょう。

 

現地に滞在しながら思ったのは、今まで編集部で取材した各国の中で一番子育てが大変そうというイメージ。地下鉄は階段ばかりでエスカレーターやエレベーターはほとんどついていません。歩道は石畳も多く、ベビーカーを押しながら歩くのは大変なところも少なくありません。

 

それでも、日本人ママたちが口をそろえて言っていたのは「フランスは子育てしやすい」ということ。それはパパと一緒に子育てするのが当たり前だったり、子育て支援に国からの財源がちゃんと充てられていたりということもあります。でも一番は、コミュニケーションが豊かで、個人を尊重し、子育て家庭にやさしいという文化かなと思いました。

 

ベビーカーでバスに乗るときには手伝ってくれたり、さっとスペースをあけてくれる。カフェ文化のため、通りがかりの人も気軽なコミュニケーションが盛んですが、各家庭の子育てを干渉しない。そんな距離感が子育てしやすさを感じさせているように思います。

母親アシスタント

マリクレールさん

 

公園で子どもを遊ばせていたカメルーン出身の母親アシスタント。フランスに住んで約20年とのこと。自身は4人のママで一番下は4歳。わが子は3カ月から預けて、母親アシスタントの仕事を続けているそう。生後3カ月から3歳までの子どもを預かっています。現在は2人の子ども(別々の家庭)を保育。ハンディキャップの赤ちゃんの勉強もしているベテランの母親アシスタントです。公園にはベビーカーに2人の子どもを乗せた母親アシスタントやベビーシッターが集まっています。

ベビーシッター会社

ジェニファーさん

 

ベビーシッター系の資格は2000年代で多様化しており、親たちには選択の 幅が広がっているのと同時に、「誰に任せるか」を見極めるための情報収集 能力も求められている状況です。「こちらの会社ではパリだけで500人のシッターさんを管理し、ユーザーとマッチングしています」とベビーシッター会社Educa Zen のジェニファーさん。

パリ在住の日本人ママたち

マシュー・ミションパパ&早馬愛ママ

 

パパの生まれはフランス。4年間大阪で暮らしたとのこと。2009年に結婚し、5歳と10カ月の男の子がいます。パパの仕事はエンジニア。月曜~金曜の9時~18時勤務。ごくまれに19時まで残業があることがありますが、通常は定時で帰ることができます。  
 

マシューパパのお母さんは4人の子どもを育てる専業主婦。お母さんは専業主婦でしたが、パパの妹が生まれたときにお父さんが育休を取ったそう。子どもが生まれると父親が育休を取るのは当たり前というのは、小さいころから意識付けられていたようです。


フランスではママが専業主婦でも家政婦さんを雇うのは珍しくありません。マシューさんの実家にも家政婦さんがいたので、洗濯を畳んだりすることもできなかったそう。だからこそ、愛ママは子どもが生まれたらパパをイクメンに育てようと思ったそうです。


「フランスでは自由と平等をとても意識します。そして女の人が強い(笑)。だから家事や育児は嫌な顔せずにするのが当たり前です」「会社の同僚も育休を取得していたので、子どもが生まれたら今度はボクの番だと思っていました」とパパ。

 

平日の夜はパパが上の子の本読みや宿題を見て、下の子のお世話は主にママが担当。フランスではかなり活用されている食洗器はもちろんあり、洗濯やごみ捨てもパパが積極的に行っています。

フランスの母子手帳

パリ在住の日本人ママたちにお話を伺いました!

佐藤明子さん(6歳男の子、5カ月女の子)、神田史子さん(6歳男の子)、東野愛さん(6歳女の子、3歳女の子)、吉田佳織さん(6歳女の子、4歳女の子)、早馬愛さん(5歳男の子、10カ月男の子)

 出産について、びっくりしたこと、そうなんだと思ったことは?

 妊娠中、夫の実家に帰省していた時に出血してしまい、帰省先の病院でそのまま出産になりました。かかりつけの病院ではなかったので心配でしたが、かかりつけ医に連絡を取ってくれて無料で出産できました。
出産するのは病院なのですが、妊娠中のエコーや血液検査は医師から処方箋をもらって町の診療所などで検査してもらいます。切迫早産でしたが「家で安静に」というだけでした。病院には3 カ月に1 回くらいしか行きませんが、パパが一緒に行っている人がほとんどです。妊娠中に8 ~ 9 回の親学級がありましたが、こちらも基本的にパパが一緒に参加します。

 退院後、どのようなサポートがありますか?

 産後、助産師さんに家に来てもらいました。帝王切開の部分を医療用クリップで止めていましたが、それを家でそのまま助産師さんがはずしてくれたのでびっくりしました。赤ちゃんの体重を測ったり、子育ての相談も聞いてくれます。
退院時にはピルを処方されます。そして産後10 回の骨盤底筋を回復するためのリハビリがありました。運動療法士が担当してくれましたが、器具やボールを使って引き締めの運動を行います。器具は自分で購入する場合もあります。

 

 ミルクや離乳食で違いはありますか?

 離乳食は日本の場合、お粥からですが、こちらは野菜のピュレから。ニンジンやブロッコリーなどを細かくゆでてすりつぶして与えます。ピュレにする便利な機械もありますが、販売されているものを使う人も多いです。ミルクは液体ミルクや粉ミルクを使っている人が多いですが、液体ミルクは温めませんし、粉ミルクは水で作って与えている人も多いです。

 学校について驚いたことは?

 満3 歳になると全員公立の保育学校に入れるのはいいですね。しかも無料です。給食費は別料金で、給食を食べるか自宅に戻って昼食を食べてまた学校に行くかを選択できます。給食を食べる昼休みが11:30 ~ 13:30 ですが、この間は担任の先生ではなくアニマトー(男性)&アニマトリス(女性)というお世話係が担当してくれます。水曜日は11 時半までなのですぐにお迎えに行かないといけないですが。学校の後は別料金ですが、ギャルドリ(学童)があります。

行事はほとんどなく、年1回ケルメス(バザーのお祭りのようなもの)があります。学校で遠足の引率の希望を保護者に募ることがありますが、親が学校行事に関わる機会が少ないので、人気が殺到しています。

 子育てについての印象は?

 パリは子育てしやすいですね。でもママたちがグループになったりママサークルを作ったりというのはほとんど聞きません。べビーカーや赤ちゃん連れでバスに乗るときは、さっとスペースをあけてくれたり、手伝ってくれますが、大丈夫だと言えば放っておいてくれます。そして常に「どうしたいのか」を確認されます。冷たいわけではないけれど適度にあっさりしている関係や距離感が、子育てしやすいのかもしれません。

バスの大きな中央ドアは降車専用。ただし、車椅子とベビーカーはここから乗り降り可能。

 

取材・文/高祖常子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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