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miku 51号 2018年春号

「非認知能力」って?どうしたら伸ばせるの?

人生を生き抜いていく力を育む!

大人になってからの社会的、経済的な成功にも影響があると言われている「非認知能力」。非認知能力とは、どんな力なのでしょうか?家庭でどのように関われば、伸ばすことができるのでしょうか?白梅学園大学学長の汐見稔幸先生に伺いました。

汐見稔幸先生

 

東京大学名誉教授、白梅学園大学、白梅学園短期大学前学長、「臨床育児・保育研究会」代表。専門は教育学、教育人間学、育児学。『さあ、子どもたちの「未来」を話しませんか』(小学館)『保育所保育指針ハンドブック』(学研)など著書多数。

非認知能力とは、自分の情動を上手にコントロールする力

「非認知能力」。聞き慣れない言葉ですが、ひと言で表すと、「自分の情動を上手にコントロールする能力」です。より具体的にいうと、①失敗しても「大丈夫」「次はきっとできる」など、自分自身だけでなく他者に対しても“ネガティブ”を“ポジティブ”に変換できる力 ②目標に向かって粘り強く頑張り、最後までやり抜こうとする力 ③「こうやったらどう?」「いいね、じゃあこれは?」など、他者を受け入れながら上手に関わるコミュニケーション能力、この3つを兼ね備えた力ということが言えるでしょう。

 

以前は、子どもの頃から計算が早く正確にできる、字が書けるなど、IQ(※)で測れる力=「認知能力」が高い人が、“すぐれた人”であると認識されていました。しかし最近では、幼少期に「非認知能力」を身につけておくことが、大人になってからの他者との関わりや幸せ感、経済的な安定につながると考えられ、世界で注目されています。

ペリー就学前プロジェクトの効果(40歳時点)

就学前プロジェクト IQの比較

ヘックマン博士が研究した「ペリー・プリスクール・プロジェクト」の調査結果。プリスクールの教育を受けたグループは、受けなかったグループに比べ、大人になってからの学歴や年収、持ち家率などの度合いが高くなっています。また、教育を受けた直後は高くなったIQ=「認知能力」は、その後数年で差がなくなっています。

 

※IQとは 知能検査の結果得られる知能の尺度のひとつ。知能検査で測定した精神年齢を暦年齢で割り、100をかけた数で表す。

アメリカのヘックマン博士の研究結果が背景に

なぜ今、「非認知能力」が注目されているのでしょうか?
 
この背景のひとつに、2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの代表的な研究者・ジェームズ・ヘックマン博士の研究結果があげられます。

 

ヘックマン博士の研究テーマは、「ペリー・プリスクール・プロジェクト」というもの。アメリカのミシガン州で1960年代から始まり、現在も続いている調査です。

 

調査の対象は、研究開始当時、幼児教育を受けることができなかった貧困世帯の3~4歳の子どもたち100人あまり。この中の約半数の子どもに、週に5日、1日約3時間のプリスクールに2年間通ってもらったことに加え、教師による週に1度の家庭訪問を行いました。

 

そして、プリスクールに通ったグループと通わなかったグループの子どもたちそれぞれが、その後の人生にどんな変化が起こるのかを追跡調査したのです。その結果、40歳の時点で明らかな違いが現れました。プリスクールに通ったグループは、通わなかったグループに比べて、収入が多い、持ち家率が高い、学歴が高いなどの特徴が見られたのです。

 

この結果を見ると「プリスクールに通って教育を受け、IQが伸びたから」と思ってしまいますが、そうではありません。プリスクールに通った子のIQは、通った期間は急激にのびていますが、全員が小学校に入学して9歳ごろになると、プリスクールに通ったグループと通わなかったグループのIQの差はほとんどなくなっています。

 

プリスクールで教育を受けた子どもたちが大人になっても幸せでいられるのは、「プリスクールに通って、IQで測れる力=『認知能力』を伸ばしたから」ではなく、「プリスクールに通うことで教師をはじめとする周りの大人のていねいな関わりに触れ、『非認知能力』を身につけることができたから」というのが、ヘックマン博士の理論です。

非認知能力についてのQ&A

Q  かんしゃくをおこしやすいわが子。かんしゃくをおこされると私もかっとなって、厳しく叱りつけてしまい ます。

 

子どもがうまれもった気質には、個人差があります。かんしゃくをおこされると親もイライラしてしまいがちですが、子どもの「悪いところ」ばかりでなく「いいところ」に目を向け、「○○ができなくてくやしかったのかな?」など、子どもに寄りそい、まずは共感してみましょう。

 

 

 

Q 日本では、どの園でも「非認知能力」を伸ばす取り組みを行っているの?

 

A 日本でも「非認知能力」が注目され、2017年3月に改訂された「学習指導要綱」には「認知能力」と「非認知能力」を合わせた「資質能力」を伸ばそうとされています。現状では「すべての園が積極的に取り組んでいる」とは言えませんが、「これらの流れをくみ、少しずつ変わろうとしている」段階です。

Q 早期教育に興味があります。小学校に入学する前に計算や文字を習わせたいと思っていますが……。

 

A 習い事は、それぞれの家庭で子どもの興味や特性を考えた上で始めたいもの。ただ、ヘックマン博士の研究結果でもわかる通り、幼児期から計算や文字などの「認知能力」を鍛えても、それが小学校以降も飛躍的に伸び続けるとはかぎりません。幼児期は、子どもとたくさん遊びながら、気持ちをコントロールする力やがまんする力、人と関わる力を身につけていかれるよう心掛けましょう。

毎日のていねいな対応が非認知能力を高める

私たちは、「文字が読める」「うまくブロックを積み上げられる」「図形がわかる」など、目に見えてわかる「認知能力」を重視しがちです。しかし、うまくいかない時にあきらめず「こうしてみよう」「この方法がだめならあの方法でやってみよう」など目標を達成するまでがんばったり、がまんしたり、周りの人と上手に関わったりできる力である「非認知能力」を幼児期にていねいに育むと、その力はその子の心のベースになります。大人になった時、社会を生き抜いていける力につながるのです。

 

日本では、就学前のほとんどの子ども達が、幼稚園や保育園、こども園に通います。これらのことを考え合わせると、子どもが通う園の先生の子どもとの関わりはもちろん、地域との関わり、そして親としての子どもへの関わり方がとても大切であることが改めてわかるでしょう。

 

乳幼児期、子どもの「非認知能力」を伸ばすために、親は何をしたらよいのでしょうか。あまり難しく考える必要はありません。赤ちゃんの時から、わが子をていねいに、やさしく、温かく育てること。それにより子どもは、「自分は愛されている、大事にされている」ということを肌で感じ、「生きるって面白い!」「生まれてきて良かった!」と、親や周りの大人への安心感や信頼感、自己肯定感を育んでいきます。

 

2、3歳になり言葉でコミュニケーションができるようになったら、子どもの個性を受け入れて尊重し、「○○ちゃんはこう思ったのね」「△△がしたかったのね」などと、その場その場で気持ちに共感すること。子どもとたくさん遊び、遊びの中で失敗したら「こうしたらどう?」などと励まし、頑張りを持続させてあげられるような関わりを意識してみましょう。いろいろな友だちといろいろな場所で関わる機会を作ることは、多様性の認知につながります。思う存分遊ばせましょう。このような経験を日々積み重ね、少しずつ蓄えられた“心の財産”が「非認知能力」の根っことなり、生きる力につながっていきます。

 

「非認知能力」はのびしろが大きいもの。自分がやりたいものを見つけた時にどんどんのびていきます。これまでのわが子との関わりを振り返りながら、焦らず気負わず、親子で成長していきましょう。

 

イラスト/サカモトアキコ 取材・文/長島ともこ

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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