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子どもに伝えたい「生きる力」。「生きること」を真っ直ぐに語る、はまだひろすけの名作『ひとつのねがい』

撮影場所:東京都小平市 東京ガス ガスミュージアム

「生きる力」ときいて、あなたはどんなことを思い浮かべますか? 一流企業に就職できる学力? 世界で活躍するスポーツ能力? それとも、周囲の人と仲良くできるコミュニケーション能力でしょうか。

確かにそれらの能力があれば、現代社会で上手に生きていくことができるでしょう。でも人が、その人らしく生きていくためには、もっと「根本的なもの」が必要なのかもしれない……そんなことに気づかせてくれる絵本が、『ひとつのねがい』です。

ひとつのねがい

いつもだまって道を照らしている街灯。その街灯は、長い間ひとつの願いを持ちつづけていました。──一度は星のように輝きたい──そんな大それた願いを抱く街灯が、自分のつとめに無心に専念したとき、思いがけない幸福が訪れるのです……。「幸福」はどこから来るのか、探してみませんか?おはなしは、「泣いた赤おに」で知られる浜田廣介が20代に書いた、知られざる名作です。しまだ・しほのこまやかでセンスのある絵によって、作品に新たな息吹が吹き込まれました。

年寄りのがい灯を支える思いとは?

物語の主人公は、町はずれの小路の角に立つ、一本のがい灯です。しっかりと建っているように見えますが、もう足はよぼよぼ。「風が荒れたら、おしまいだ」と、がい灯は思っていました。

 

年老いて倒れるのは仕方がないと思ったがい灯でしたが、あきらめようとすればするほど強くなる、ひとつのねがいがありました。

「一生に、たった一度でいいから、星のようなあかりになってみたい」

そのねがいがあるからこそ、何年もひとつのところに立ってきたのです。

その機会に恵まれないまま、秋も終わりに近づき、ただでさえぼんやりしていた灯りは、いよいよ寂しく、みすぼらしくさえ見えてきます。

ある、雲がさわいだ晩のこと。がい灯は、自分の周りにやってきたこがねむしや蛾に、自分が星のように見えるか聞いてみました。

 

「へん、見えるもんか。そんな光が」

ちっぽけな虫にそう言われ、がい灯はつきおとされた気持ちになりました。しかし、失望で沈む心の中で、静かに湧き上がる強い思い。その思いが、がい灯に変化をもたらします。

 

果たして、がい灯の願いは叶うのでしょうか?

読み手によって感想は千差万別!

『ひとつのねがい』は、良質の物語がみなそうであるように、読み手の年齢や置かれた状況によって、さまざまな感想があります。そのレビューの一部をご紹介しましょう。

やり遂げた人生は尊い。


落ち着いたシンプルな表紙の絵を見て、一緒に読む相手に6歳の娘を選んだものの、読んでいくうちにこれは幼児向けではない、小学生の長男と読むべきだったか、いやむしろ大人向け、私向けではなかったかと思い始めました。

町はずれに立っている一本のがい灯がこの絵本の主役。
ずいぶんよぼよぼの年をとったがい灯ですが、そのがい灯の持ち続ける願いが一冊の本を通して描かれ、そしてがい灯が最後を迎える時で物語も終わります。
一見とっても無理なように見えても、みんなからバカにされても、他からどう思われようとブレることなく、それでも強く持ち続ける願い。そしてそれが達成されたときに一生を終えたがい灯。
外野の声や周りの目線を気にすることなく、自分がよいと信じる子育てをしていいんだよって私に語り掛けてくれているようで、最後ちょっと涙目になりました。
そして、最後は悔いなく終わったであろうがい灯の一生。最後はヨレヨレヨボヨボでも、その志を遂げた終えた一生がとってもとっても、尊いものに思えました。

30代・ムスカンさんのレビューより抜粋

最後まで精一杯生きる

 

2年前に大病を患い、今は通院治療になったものの体調も以前とはまるっきり変わってしまった私にとって、外灯の存在が自分とリンクしてしまって、胸にこみあげるものがありました。

人は誰しも体の衰えを感じたり、命の期限をなんとなく見てしまったりしたとき、まだ何かこの世に残したい、やり残したことはないかと考えるものではないでしょうか。

 

願いをかなえたいというがい灯の想い、無理しなくても細々と生きていくのではなく、今できることを精いっぱい生きようという気持ちに、
今の私だからこそ共感できたのではないかと思います。

温かい言葉をかけてくれた少年だけでなく、相手にしなかった虫たちの存在も、すべてががい灯の最期の力を振り絞る源となっているのだと思います。

私はがい灯からエールを送られたような気がしました。私の余生のバイブルとして繰り返し読みたい一冊です。

40代・きゃべつさんのレビューより抜粋

あなたの光に気づける心

 

やっぱり私もがい灯です。星のように光ることを夢みながら、うすぼんやりとともっている、中年のがい灯です。
けれど私も若かった日に、こがねむしやがのように誰かを心ない言葉で傷つけたことはなかったかしら。チクンと痛む心に、自分のありようを悔いながらも、じっと立っているほかありません。
傷つきながらも静かに立つ、そんなひとつのがい灯に気づいてくれた、少年の優しい心に、私も救われた思いがいたしました。
がい灯の感激が、私の心をあたたかく励まします。
たとえどんな自分であろうとも、私は私の役目を果たそうと、顔を上げる心意気が、私の小さな灯を支えるのですね。
大事なことを、そっと教えてくれたお話です。

50代・もとうめちゃんさんのレビューより抜粋

がい灯のねがいは私の願い?

 

ちょうど現在の私の心境がこの主人公の外灯と重なります。何のとりえもない中で、一生懸命生きて来ましたが、一体自分の使命とはなんなんだろうと自問自答する日々が続いています。誰かの役に立つことと、自分の願いがぴったり重なったらさぞ幸福でしょう…!
外灯にとって役目を全うすること。それは人間にとっては死を迎えることと同じように思われます。そういう意味でもこの作品は年齢制限のない、普遍的なテーマを扱っていると思います。

60代・フランスのねこさんのレビューより抜粋

こんな存在なら本望

 

作者名につられ、ふと手にとった。挿絵の明暗の中で、闇の扱いが気になった。雪のように降り注ぐ星々のきらめき。遠くからはぼんやり、近くをこうこうと照らす街灯。小さな子には暗さはどうかなあ、と一瞬と惑う。立って読みつつ、これは「じじ・ばば」の心の願いではと直感。あと数か月で仙台の小学校に移る年長の孫娘と、その妹にも読ませたい。手渡し、三度読み聞かせた。いつか街灯のこと思い出してくれるかなあ。

70代・さるたひこさんのレビューより抜粋

この作品の原題は『たった一つの望み』。童話雑誌「良友」の編集をしていたはまだひろすけ(浜田廣介)さんが、大正81919)年9月に同誌に掲載するために書いた物語だそうです

『一つの願い』は、昭和231948)年に『広介童話選集・中級』(国民文芸社)に収められていますが、絵本になったのはこれが初めて。2017年の廣介生誕120周年の節目に、しまだ・しほさんの絵で生まれ変わりました。しまだ・しほさんの絵の魅力が、おはなしをさらに引き立てています。

特筆すべきは、しまだ・しほさんの線と色使いです。絶望に叩き込まれる暗転の黒。それまでがやさしくてあたたかなタッチだっただけに、あの黒はだれもがビクッてなるでしょう。そしてそこから、夢がかなったときの歓喜の黄色の爆発。無垢な少年の輝く笑顔と唯一がい灯の存在を認める父親の暖かく丸い背中の線。天に召されたがい灯のしあわせの黄色。白く優雅な蛾。普遍的なテーマのお話に、しまださんの絵が乗ったことで、古臭く説教っぽくなく、かといって子供じみた擬人化もせず、ノスタルジーはそのままという、ある意味決して子供向けではない、全人的境地の作品にしたのだと思います。

50代・京都の山ちゃんさんのレビューより抜粋

しまだ・しほさんは、絵本の制作中に東京都小平市にあるガスミュージアムを訪れ、庭に立つガス灯をひとつひとつていねいに、時間をかけて観察していたそうです。絵本で描かれた「がい灯」は、ガスミュージアムの受付前にある魚尾灯と同じだそうです。

ご興味がある方 は、いまも大地に立ち続けている「がい灯」に会いに行ってみてください。

ガスミュージアムのHPはこちらです。

いかがでしたか?

 

『泣いた赤おに』や『りゅうの目のなみだ』をはじめ、生涯1000編におよぶ童話や童謡を世に送りだしたはまだひろすけさんは、「人間を本質的に善なるものととらえること、子どもにとって糧となるものが、大人にとっても意味のあるものになる」という信念を持ち、作品を書き続けたそうです。

 

また著作のあとがきで、子どもたちへこんな思いを残しているそうです。

〈人間のさびしいすがたを、児童諸君にそれとなく知らせるということも、わたくしは、むだではないと思います。(略)孤独の感じをあじわうことから、人間同士になくてはならない親しみ合いが、だいじなものであることを、児童諸君は、おのずからに知るであろうと、わたくしは考えているのであります〉。

ひろすけ幼年童話文学全集「作者のことばより」引用

 

 

素朴な語り口で綴られたおはなしは、みな温かく、味わい深いものばかり。100年を経てなお、みずみずしい感動を与えてくれる『ひとつのねがい』。秋が深まりゆくこの季節にぴったりのおはなしです。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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