『50年後のボクたちは』ドイツ児童文学からとんでもなくカッコいい映画がやってきた!
14歳、ちょうど息子と同じ年齢。だけど、映画が始まればいつの間にか、10代の頃を思い出しながら夢中になっている自分がいました。「今ある全てから抜け出したい、飛び出したい」と思っていたあの頃。交わることはないと思っていたタイプの友人との出会い。環境は違えど、マイクの気持ちは痛いほど伝わってきます。
観おわった後、ふと悩みます。
「この映画を14歳の息子にみせるべき?」でも、それは本人が決めること。驚くような現実も、すべてを壊したくなるかもしれない衝動も、本人が受け止めて、考えればいいのです。自分でこの映画に出会い、何かの衝撃を受けてくれれば…と、母親はちょっと離れて願うことにします。
磯崎園子 (絵本ナビ編集長)
ドイツで220万部超の大人も巻き込んだ、大ベストセラーが映画化!
2017年9月16日(土)公開がスタートした『50年後のボクたちは』。原作は、ドイツ国内で、YA(ヤングアダルト)という児童文学でありながら、大人も巻き込んだ社会現象を起こし、220万部以上という驚異的な売り上げを記録。26ヵ国で翻訳されたベストセラー小説『14歳、ぼくらの疾走』です。社会派で、オリジナル映画に定評のある監督、名匠ファティ・アキンが映画化した本作は、すでに公開前から話題になっています!
14歳の少年たちが巻き起こすひと夏の大冒険。
多かれ少なかれ、大人だったら誰しもが過ごした思春期の、あのもどかしい、やるせない気持ち。その年齢にしか味わえない子どもでもない、大人にもなりきれていない、何もかもが思い通りにならなくて、だけど、一度走り出したら止まらない衝動を抱えながら過ごしていた日々。年頃の子はもちろん、大人には絶対見てほしい特別な映画です。
思春期、ヤングアダルト(児童文学)、教育、ドイツの現状など、切り取ればいろいろな表情を見せてくれるこの映画をより楽しむために、みどころをご紹介します!
ドイツでは推薦図書に指定!学校の授業にも取り上げられている原作
原作者ヴォルフガング・ヘルンドルフの遺作『14歳、ぼくらの疾走』
ドイツで大変なブームを巻き起こしたこの作品の原作者である、ヴォルフガング・ヘルンドルフは、2013年に48歳という若さでこの世を去っています。2010年に脳腫瘍が発見され、その直後もともと短編として書いていた作品を2か月間、1日1章を書くペースで、作者が最期に完成させた小説でもあるのです。
「本書は50年後にもなお、私たちが読みたいと思う小説であり続けるだろう」とドイツの全国紙も大絶賛。彼が、死を目前にしてどうしても書き上げたかった遺作が、しかも彼の小説の中でも最高傑作であるという、ドラマチックな背景も手伝い、子どもの児童書コーナーだけにとどまらず、大人の本売り場にも並び注目されました。
映画『50年後のボクたちは』の話題の原作本はコレだ!!
主人公のマイクは、ベルリンのギムナジウムの8年生。家庭は不穏だし、学校では、ただ目立たずにいる。退屈な毎日だ。そこへ、へんな転校生がやってくる。チックという名だ。マイクは不良じみたチックと、行きがかり上、旅にでることになる。それも、オンボロ車を無断で借用して。破天荒なチックのやり方に、はじめは面食らっていたが、その自由気ままな心根に、マイクは魅力を感じる。二人の人生にとって忘れがたい旅がはじまる。ドイツ児童文学賞、クレメンス・ブレンターノ賞、ハンス・ファラデ賞を受賞。現在16カ国で翻訳されている。ミヒャエル・ゾーヴァ装画。
児童書が革命をおこす?!現実と向き合う、世界の子どもたちの応援歌
原作はもちろん、実写化された映画の中では、14歳の主人公の飲酒や車の運転、お母さんのアル中やお父さんの浮気など、日本人ならハラハラしてしまう内容もありますが、ドイツの学校では、この話題となった小説を推薦図書として認定し、授業で取り扱っています。その内容をクラスで議論したり、また実写化された映画をクラスで鑑賞して話し合うことが積極的に行われているそうです。そこには、子どものことは、子どもで考える、現実問題をきれいごとに終わらせないという姿勢があります。
日本では、特に子ども達へ向けた作品の表現にはとても慎重で、実際に制限されたものになっていますが、幼い頃から「厳しい現実と向き合い、常に自分の価値観を問い、考える」というドイツ流の教育論は、ついファンタジーの世界に逃げ込み、現実から目を背けてしまいがちな日本人には耳の痛い話かもしれません。
作品中に登場するマイクとチックもゲームが大好きな今時の子どもたちです。
それでも、今まで知っていた自分の世界から飛び出したことで、頭の中よりも刺激的で魅力的な現実の世界へと向き合い、新しい自分を発見していいきます。映画に登場する2人の疑似体験を通して、きっと心の中にもやもやをためて悩んでいた子どもたちに新しい風を吹き込んでくれることでしょう。何よりも、ひとりじゃないんです。同じように体験を共有する仲間との出会いが、それまでの日常をガラッと変えくれる、そんなことが誰にでも起こり得るんだと教えてくれます。なんとも心強い映画です。それは子どもだけに限らず、大人にも効き目がありそうです。単なるノスタルジックなロードムービーでは終わらない、未来への希望を強く感じさせてくれる映画、きっと見た人たちすべての価値観を揺るがすに違いありません。
ドイツの今がまるわかり!エコ運動に移民問題!見れば見るほど面白い映画
9月9日に行われた、下北沢B&Bトークイベント「ロードムービーとヤングアダルト小説の深い関係」では、登壇者の金原瑞人さん(翻訳家)、マライ・メントラインさん(翻訳/通訳/エッセイスト)、神島大輔さん(ドイツ研究者)が公開直前の本作品について、珍しく日本に入ってきたドイツの現代版ロードムービーで、まさに今のドイツの現状がよくわかる、文化的にも社会的にもとても面白い映画なのだと、語られていました。
マイクたちが車で疾走する景色には、風力発電機が立ち並んでいたり、土地開発をするマイクのお父さんの仕事内容から、エコ運動や動物愛護活動が盛んなドイツの様子がよくわかったり、マイクと仲良くなるチックが移民であることなど、ここかしこにドイツのあるあるが映画に残されています。貧富の差がはげしく、移民も多いエキサイティングな街ベルリンから南東へ走る、自然あふれる景色も印象的です。
トークショーでは、職業がドイツ人という、メントラインさんは、「原作も映画も好き。ドイツの作品としては珍しく繊細な作品で、人生観が古くならない普遍的な映画なので、大人にも子どもにも人類におすすめしたい!」と絶賛。トークショーの質疑応答で、息子と見ることを相談された親御さんには、「小学高学年以上の子は、親に隠れてこっそり見てほしい。そして、親は親で見てほしい。思春期の子どもが親と見れないのは恥ずかしくて当たりまえ。こっそり親に隠れてみるのはヤングアダルト(YA児童書)の本質で正しい見方ですよ。」と回答されていた翻訳家の金原さん。そして、ドイツ研究者の神島さんは、「今、ドイツの移民パワーがすごい。移民からみた今の面白いドイツを見てほしい。また、近年、子ども達への啓蒙が難しいのではないかと感じられていた児童文学に希望を与えてくれた作品だと思います。」と、それぞれこれから映画をみる人たちへ熱いメッセージを残していたのが印象的でした。
いかがでしょうか。この映画の背景を知っただけでもかなり気になりますよね!
でも、本編はこれ以上に面白いですよ。是非、大人は、忘れつつあった14歳の自分を思い出しながら、マイクとチックのスリリングな冒険を追憶し、子どもたちは未来の自分の扉を開くために、それぞれが映画館で鑑賞してもらえたらいいなと思います。
映画『50年後のボクたちは』作品概要
14歳のマイクはクラスのみだし者。同級生からは変人扱い。しかも母親はアル中で、父親は浮気中。そんなある日、チックというちょっと風変わりな転校生がやって来る。夏休み、2人は無断で借用したオンボロ車”ラーダ・二-ヴァ”に乗って南へと走り出す。窮屈な毎日を飛び出して、全く違う景色を目にしていく2人。やがて無鉄砲で考え無しの旅は、マイクとチックにとって一生忘れることのできないものになっていくー。不器用で、まっすぐで、どこまでも走り続けられると思っていたあの頃。誰もが通過する、永遠には続かない「14歳」という一瞬の煌めきを瑞々しく捉え、かつての自分を思い出させてくれる爽やかで切ないロードムービーが誕生した。
作品タイトル:『50年後のボクたちは』
監督・共同脚本:ファティ・アキン
脚本:ラース・フーブリヒ
原作:ヴォルフガング・ヘルンドルフ(「14歳、ぼくらの疾走」小峰書店)
出演:トリスタン・ゲーベル、アナンド・バトビレグ・チョローンバータル、メルセデス・ミュラー
配給:ビターズ・エンド
2016年/ドイツ/93分/ビスタ
公式サイト:www.bitters.co.jp/50nengo/
Facebook:www.facebook.com/FatihAkin.movie/
Twitter:@50nengo_movie
ヒューマントラストシネマ有楽町、
富田直美(絵本ナビ編集部)
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