【編集長の気になる1冊】私が育ててしまったのは…? 『こはるとちはる』
「そこで、つまづいちゃえ。」
学校の帰り道、前を歩くまりちゃんの後ろ姿を見ながら良からぬことを考える私。
「ついでに靴だって脱げちゃえばいい」
嫌な事ばかり思い浮かぶ自分にあきれながら、でもその理由は明快なのです。
まりちゃんが人気者だから。
まりちゃんのまわりで、いつも男の子が嬉しそうに笑っているから。
今だって、ほら。
頭の上に小さな黒い闇を渦巻かせている私の目の前で、なんて素敵な笑顔。
こんな気持ち、ひとに言えるわけがない。
だから自分の体の中にそっとしまい込む。
そして心の中ではっきりと自覚した「それ」を、私はどんどん育てていく。
近所に住む私と同じ名前の一つ年下の女の子が、私よりずっと可愛い。同じクラスの大人しそうなあの子が、どうやら成績がすごくいいらしい。習い事で私より上手なあの子は、学校でも人気者なのだとか。どうして? どうして?どうして?
そうして、そのまま大人になってしまった私は……。
こはるとちはる
わたしはショートケーキがいちばん好き。
ちはるちゃんも「やっぱり ショートケーキだよね」って。
それだけじゃない。
好きな服も、好きな色も、髪型も。
「こはる」と「ちはる」、名前に「はる」が入っているところまで同じ!
ふたりともはる生まれだからね。
「こはるちゃんと ちはるちゃんて、ふたごみたい〜」って言われて、なんだか嬉しくなっちゃった。
それなのに……。
好きな人まで同じだなんて。
同じことで、こんな嫌な気持ちになるなんて。
この気持ち、どうしよう。
大人気の作家と画家の組み合わせが毎回大きな話題となる「恋の絵本」シリーズ。第4弾は、白石一文さんと北澤平祐さんによる、まさに「現代の感覚に響く」恋のお話です。
北澤さんの描く、ささやかだけれど、甘くて華やかで夢のような女の子の日常風景。好きなものにかこまれるってこんな感じ、好きなものを共有できるってこんな感覚! 一瞬で子どもたちの心を虜にしてしまう、そんな絵の世界にすっと入ってくるのが……小さな一点の曇り。なんだか残酷です。だけど、好きな人ができるってこういう事でもあるのです。大人になるまで、ずーっと付き合っていかなければいけない感情なのです。
でも、こはるちゃんはまだ子ども。早急に答えなんか出さなくてもいいですよね。ちょっぴりほろ苦いこの気持ちと、上手に付き合っていけたらいいな。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
こはるちゃんの心に芽生えたのは誰かを思う「恋ごころ」。
私が大きく育ててしまったのは身勝手な「嫉妬心」。
似ているようで、ちょっと違う。けっこう違う。
そんな私がどんなに恐ろしい大人になってしまったかと言えば、そうでもない。それは自分の中の「嫉妬心」を少しずつエネルギーに変える術を身に付けてしまったから。今では、とても上手に仕事に生かせているのです。意外と大丈夫なものみたい。
じゃあ、私が「恋ごころ」に出会ったのはいつなのかといえば。
それは確かずーーっと後のことで……(続く)。
「恋の絵本」シリーズ
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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