あらためて読みたい、読み継ぎたい。児童文学作家、宮川ひろさんの作品をたどって。
児童文学作家の宮川ひろさんが、昨年12月29日にご逝去されました。
もしかしたら、宮川ひろさんというお名前だけでは、すぐにぴんとこない方も多いかもしれません。
けれども作品をたどってみると、ああ、あの作品を書かれた方だったのか!と、たくさんの方が思い出されるのではないでしょうか。
刊行された作品でみれば、1969年から2016年まで約47年間にもわたる作家活動を続けてこられた宮川ひろさん。課題図書に選ばれた作品も多く、子どもの頃に読んだ思い出が幅広い年代の方の心に深く刻まれていることでしょう。しかしその作品同士が同じ宮川さんの手によるものだということを知らない方も多いのでは・・・?
そんなことを考えながら、私たちに素晴らしい作品を残して下さった感謝と、心からの追悼の意を込めて、宮川ひろさんの作品をご紹介したいと思います。
宮川ひろさん作品紹介
4、5歳から大人まで幅広い年代の方に愛されている名作絵本!
まずはこちらの1冊から・・・
『びゅんびゅんごまがまわったら』
こうすけたちと、あまのじゃくな校長先生とのびゅんびゅんごま合戦の結果……。
自然に囲まれた小学校に通う生徒と校長先生との交流を描いています。生徒と校長先生の何でも言いあえる関係は今の時代なかなか難しいものなのかもしれません。びゅんびゅんごまを通して本気で遊んでくれるような大人もまた。子どもと大人のほどよい距離感、関係性について考えさせてくれる絵本です。
幅広い年代の読者から、たくさんの声が届いています!
絵本が娘との会話のきっかけに
小学校2年生の娘が、学校でびゅんびゅんごまを作って遊んだというのを聞き、そういえばそんな絵本があったなと思い出して読んでみました。なんだかとても懐かしい、昔の小学校の風景でした。
今の学校も校長先生と生徒の距離はそんなに遠くないと思いますが、こんな風に一緒に遊んだり、宿題の出しっこをするなんて、なかなかないと思います。ちょっとクセがある変わり者の校長先生ですが、子どもたちの宿題に悪戦苦闘している姿は、とってもかわいくて素敵です。この小学校の子どもたちがうらやましくなりました。
娘も読んだあと、「クラスでは◯◯ちゃんと◯◯くんと先生しかできないんだよ。私は全然回らなかった」など、学校の様子をいろいろ話してくれました。普段、学校の話をなかなか聞いてあげていなかったので、絵本が会話のきっかけになったのはよかったです。
(クッチーナママさん 30代・ママ 女の子8歳、女の子5歳、男の子3歳)
素敵な学校ですね
昔遊びがたくさん出てきて小1の娘は夢中になっていました。
学校の裏にある自然いっぱいの山に、子供と本気になって遊んでくれる校長先生。
今ではなかなかできない貴重なものですよね
娘も私の小学校がこんな学校、校長先生だったら良かったのに~といっていました。
ゲームにスマフォ、今の子供は刺激的な遊びが満載ですが、時代が変わっても子供が心惹かれる遊びってあるんですね。
(ときいるさん 30代・ママ 女の子6歳)
こんな学校 いいですね
林明子さんの絵本を探していて見つけました。
1982年~からあったのに、
なぜ今まで気がつかなかったんだろう。
1985年に長女が生まれたので
そのころから絵本を見ていたのに。。
表紙の背広を着たおじさんは
校長先生だったんですね。
髪型といい、表情も
近寄りがたい風情ですが
子どもの心を刺激して
とても子供をよく見ていて
見守りながら
一緒に動いてくれる先生。
びゅんびゅんごま!
自然に恵まれた環境で
こどもたちがのびのびと遊べること、
読んでいて
私もうらやましくなってきました。
こどもがスクスクと未来に向けて
元気に成長できること
それを手助けできる大人でありたい、
読み終えて そんなことを考えました。
(koyokaさん 50代・じいじ・ばあば)
こんな学校だったらいいな
もうすぐ小学校に行く息子と読みました。
息子も私もこの絵本の魅力にハマりました。
タイトル「びゅんびゅんごまがまわったら」って気になりませんか?
まわったら何があるんだろうって・・・
何があるのかは読んでからのお楽しみですが・・・
きっとニヤってしますよ(^_-)
校長先生と生徒との交流が描かれているのですが
こんな校長先生だったら学校が楽しそう!!って思えました。
校長先生って敷居が高いというかあまり身近な存在じゃないイメージがありませんか?
息子はまだ校長先生という存在がわかっていませんが、校長先生っておもしろいって言ってました。好感をもってくれたようです。
そのイメージのまま学校に行って おもしろい校長先生が本当にいてくれたらいいな~と思いました。
子供たちが楽しそうに遊んでる場面 ウキウキした気持ちになります。
是非 親子で楽しんでみてください。
(はるのひよりさん 40代・ママ 男の子6歳、女の子4歳)
ご紹介させていただいた以外にも、絵本ナビには現在までで68件ものレビューが届いています。内容を見てみると、校長先生と子どもたちの交流の素敵さに感動する声やこんな学校あったらいいなという声、またびゅんびゅんごまを始めとして、竹馬、くびかざり、タンポポびな、くさぶえなど自然遊びの楽しさが詰まっていて、子どもたちに伝えたい、親子で読みたいという声がたくさんありました。
1983年の課題図書(低学年の部)に選ばれていたこちらの作品、ちょうど私自身がこの時低学年だったので、この本を読んだ時のことが強く思い出されます。本をきっかけに学校でびゅんびゅんごまを作って、意外にびゅんびゅんごまのこまになる部分の丸い形を切るのが難しかったなあとか、みんなで回す練習をしたことが楽しかったなあとか。大人になった今読み返すと、なんて素敵な校長先生なんだろうと思うのですが、子どもだった当初は、難題ばかり出してくる校長先生がにくたらしいなと思ったりもしてました。
そんなことを思い出させてくれる『びゅんびゅんごまがまわったら』。絵本ナビでも絵本クラブの5歳コースに選定させていただいていますが、これからも多くの子どもたちに宝物のように愛され続けていくことでしょう。
宮川ひろさんの原点となる作品はこちら
『先生のつうしんぼ』
古谷先生は、給食のにんじんが食べられません。あるとき、先生がこっそりにんじんをすてるところを見てしまった吾郎は、自分だけで先生のつうしんぼをつけてみることにしました。
※最初の刊行年である1976年の課題図書となり、翌年には映画化もされた作品です。
私自身は、『るすばん先生』は子どもの頃に読んだことがなく、『先生のつうしんぼ』はなんとなく高学年の時に読んだような記憶がうっすらあるぐらいなのですが、今回『先生のつうしんぼ』をあらためて読んでみて、今から40年以上前の1976年に書かれたにも関わらず、まったく内容に古い感じがしなかったことに驚きました。何よりもお話自体がとにかく面白くて面白くて一気読みです。おそらく今よりもずっと先生の立場が上にあっただろう時代に、『先生のつうしんぼ』というタイトルだけで当時は衝撃があったのではないかと想像しつつ、3年生の主人公吾郎の担任の古谷先生の人柄に惹かれてどんどん読ませられてしまいました。クラスの子どもたちに弱いところも見せられる人間的な魅力溢れる古谷先生。現代の子どもたちが読んでも思わず笑ってしまい、どこかほっとして読むのではないでしょうか。ぜひこれからも読み継いでいきたい作品です。古谷先生の結婚話にまつわるエピソードは、大人にも面白く読めておすすめですよ。
最後は、小学生に大人気のこちらの作品です。現在の中高生も小学生の頃読んだ思い出があるのでは?
『しっぱいにかんぱい』
表紙には、リレーのバトンを持って走る女の子。運動会でしょうか。タイトルが『しっぱいにかんぱい!』ですから、何か嫌な予感が…?
「おねえちゃんは、けさも牛乳をのんだだけでした。そのまんま口もきかずに自分の部屋へ、ひっこんでいってしまいました」という始まりの文から、予想通り?何かショックな出来事がおねえちゃんの身に起こったことがうかがえます。ゆうべから何も食べていない、というおねえちゃん、このおねえちゃんこと6年生の加奈は、前日の運動会のリレーで失敗をしてしまったのです。落ち込んだ加奈には、おとうさんやおかあさんの慰めの言葉も全く届きません。弟の達也は心配でおろおろするばかりです。そこに、おじいちゃんから1本の電話が入ります。おじいちゃんにお昼によばれて集まったのは、親戚のおじさん、おばさんと、いとこの洋とまなみ。ふとしたきっかけからみんなのしっぱい話が始まります。洋のしっぱい、まなみのしっぱい、弟達也のしっぱい、おばさんのしっぱい、そしておじさんのとんでもないしっぱい…。それぞれ大変な思いをしたけれど、今は笑いながら明るく語る姿を見て、加奈も自分のしっぱいを語り出すのでした。
大人になればしっぱいの1つや2つは当たり前。けれど子ども達にとっては初めて経験するショックな出来事でしょう。このお話は、そんな子ども達を励まし、勇気づけてくれる頼もしい存在です。
読者の声より
みんな失敗するから
長男が好きな「びゅんびゅんごまがまわったら」の宮川さんの児童書だと知り、
図書館で借りてきました。
達也のお姉ちゃん・加奈は6年生。
運動会のリレーのアンカーで1位にゴールしたけれど、失格に。
翌日、おじいちゃんに呼ばれて、姉弟が親戚の集まりに行くと・・・。
褒めることに比べて、なぐさめることって本当に難しい。
この本もきれいごとなお話だったら嫌だなぁ、と思いつつ読み始めましたが、
おじいちゃんの家で話された失敗談は、どれも現実味があり、ぐいぐい引き込まれました。
特に、おじいちゃんの失敗談では
失敗をごまかそうかと逡巡したり、
謝るしかない自分を責める気持ちが語られ、泣けてしまいました。
私も、普段から自分の失敗談を話題にしておこうかな。
みんな失敗するから、失敗しながら大きくなれ!の想いをこめて。
そして、身近な学校生活を描いたこんな作品に触れることも、
ちょっとは彼の力になってくれるかな?
長男は一人読みで集中して読んでいました。
小学生とその親御さんにおすすめです!
(ランタナさん 40代・ママ 男の子8歳、男の子6歳)
失敗を恐れる我が子へ!
我が家の一人息子は、何事でも失敗を恐れ、超保守的な子供です。
で、この夏休みに課題図書にもなっている『しっぱいにかんぱい!』を買って子供に読んでみたのです。
子供は、最初主役の加奈に共感して落ち込んでるようでしたが、いろんな人の失敗話を聞いて、ニコニコ顔になっていました。
その後、自分でも本を読みだし、読書感想文を書いていました。
小学一年生の我が子には少し難しいかな・・・と思いましたが、毎日すこしずつ、五日ほど掛けて読み切っていました。
感想文には、本を読んで「僕もがんばります!」って書いてました。
そんな我が子のように保守的な子供にピッタリです!
(あもすけさん 40代・ママ 男の子7歳)
しっぱいを責めたりしない!
本を読み聞かせた後、
「友だちのしっぱいを笑ったりしない。」
「ぼくは、しっぱいを責めたりしない!!」
「誰だって、しっぱいはあるよね。」
と、9歳息子と7歳娘の会話です。
「お母さんはしっぱいしたあなた達をすぐに叱っちゃうね。」
それも、おかあさんのしっぱいです。
「いいんだよ。しっぱいにかんぱい!」って、明るく言えるお母さんになりたいな。
しっぱいを食事ものどを通らないほど苦しく思う姉
姉を思う弟の気持ち
励まそうとするおじいさん、
みんなのしっぱいエピソード、
失敗を乗り越えようとする気持ち、
いろんなことを考えさせてくれる1冊。だからこそ、読書感想文推薦図書に、選ばれているのかな?
宮川ひろさん、「びゅんびゅうごまがまわったら」も大好きですが、この1冊も宝物になりました。
(ハッピーカオリンママさん 30代・ママ 男の子8歳、女の子7歳、女の子4歳)
こちらにもたくさんのレビューが寄せられています。皆さんからの感想を読んだだけでも、何か強く励まされる気がします。『しっぱいにかんぱい!』は、2009年の課題図書低学年の部にも選ばれ、そこから毎年、夏の読書感想文の本としてもとても人気のある作品です。また絵本ナビでも絵本クラブの2年生コースに選定しています。
『しっぱいにかんぱい』は、「かんぱい!シリーズ」の1作目。シリーズには他にも「うそ」「ずるやすみ」「わすれんぼう」「けんか」「0てん」「ひいき」「ないしょ」「あまのじゃく」「なきむし」をテーマに10作品があり、そのどれもが子ども達が直面するであろう身近な問題を取りあげています。宮川ひろさんは、つまずいて大きくなろうよ、というメッセージをこのシリーズに込めたそうです(童心社HP参照)。
対象年齢は小学校低学年とありますが、中学年も高学年も、中高生もそして大人まで励まされる温かな作品です。
「かんぱい」シリーズ最新刊紹介
最新刊の失敗テーマは・・・「なきむし」
"3年生になって初めての遠足に熱を出し行けなくなった咲は、泣く泣くじいちゃんの部屋で休むことに。部屋のかべには、咲をずっと見守ってきた「おかめ」「ひょっとこ」のお面がかけてあり、おかめおばさんとひょっとこおじさんは、咲の寝顔を見ながら、心に記録してきたビデオを観ていきます。それは、元気な産声の誕生、保育園へ入園、妹が生まれておねえちゃんになったときなど、いっぱい泣いて大きくなった咲の成長物語です。
全部読みたい!「かんぱい」シリーズ全作品紹介
二年生の信也は、大ばあちゃんが大好きです。
でもこの頃、時々おかしなことをいう大ばあちゃん。
信也を、昔戦争で亡くなった弟の信夫だというのです。
困った信也は近所の植木屋のおじさんに相談にいきます。
雄介は、ちょっと失敗したことがきっかけで、学校でいじわるをされるようになりました。
ある晩、お風呂でそのことを話すと、お父さんが「じゃあ、あしたは、ずるやすみをしよう」というのです!
『しっぱいに かんぱい!』『うそつきに かんぱい!』に続く第3弾。
お母さんが病気で長く入院することになって、まゆみは、おばさんの家でくらすことになりました。おみまいにも行けないさびしい思いのまゆみに、転校した先の新しい先生は、「わすれんぼうになろう」というのです。クラスの友だちのわすれんぼう、校長先生のわすれんぼう、みんなのわすれんぼうに出会って、まゆみもだんだんわすれんぼうになることができました。いつも子どもたちをあたたかい目線で描く宮川ひろの「かんぱい!」シリーズの第4弾。
3年生になって、クラス替えがありました。新しい先生は「けんかもいっぱいして、仲よくなろう」といいます。そこで和人は「けんかとめ係」を考えたのですが……。
けんかをして、言いたいことを言いあうことで、友だちがどんな風に考えたり感じたりしているかを知ることができるはず。なかなか、けんかができない今の子どもたちに、あたたかいエールをおくります!
算数のテストで61点の哲男。おかあさんの顔がうかんでため息がでます。友だちの明は国語のテストで20点。ふたりが相談したおじさんは「0てんにかんぱい」というのです!? それに「かあちゃん病」という病気があると。
3年生になった一也の担任は、先生になったばかり新任先生。そして、クラス替えをした3年2組には、学校で給食が食べらず、声も出せないさなえちゃんという女の子がいました。一也と佳行、ひとみは、先生やさなえちゃんの「ひいき」係をつくります。家では普通にしゃべれるのに学校では声が出ない場面緘黙症の女の子が、少しずつ給食が食べられるようになり、クラスに居場所ができ、声も出るようになっていきます。子どもたちの温かい関係に心をうたれる、「かんぱい!」シリーズ最新刊!
三年一組の担任・八木省吾先生は、ボール箱でポストを作り教室にかけます。そのポストに顔をかいて「太郎」という名前まで付けます。クラスの子どもたちは太郎くんあてに手紙を書いて入れます。うれしいこと、こまっていること、先生にいいたいこと、ないしょのこと、なんでもいいのです。太郎くんと先生はそれを読んで返事を書きます。手紙でのおしゃべりがきっかけで、さまざまな問題や悩みも解決されていきます。
夏休み間近のある日、おばあちゃんから孫たちに「いじわる教室」の案内が届きます。ドキドキ、ワクワクしながら参加した4人を待っていたいじわるとは……草むしり、昔ながらのせんたく、五右衛門風呂の水くみなど、やりたくないいやなことばかり。でもおばあちゃんは「わたしはあまのじゃくだからね」とけろりと言って、手をゆるめません。子どもたちも音を上げそうになりながらも必死にがんばって、ひとつひとつを達成していき、終わりは「おばあちゃんのいじわるにかんぱい! あまのじゃくにかんぱい!」となります。
これからも、宮川ひろさんの子どもたちに対する温かな眼差しは、作品を通して多くの大人や子どもの心に響いていくことと思います。これからも大切に読み、子どもたちに伝えていきたいと思います。
(絵本ナビ 児童書担当 秋山朋恵)
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |