直接ふれると世界の見え方も変わる!?「身体感覚」が呼びおこされる絵本
思い出してみてください。土の上をはだしで歩いた時の、あのひんやりとした感触。水の中にもぐった時の開放感。目の前が真っ暗で何も見えなくなった時の心もとなさ。もちろん、人によって感じ方はさまざまです。けれど、想像しているだけで、なんだか身体がムズムズしてくるよう。
そんな風に、自分の中の「身体感覚」が呼びおこされるような絵本が次々に登場しています。気持ちよさそう、うらやましい、まねしてみたい!例えすぐには実行できなかったとしても、自分の感覚と重ね合わせながら、楽しんでみてくださいね。なかには味わいたくない感覚もあったりして……!?
読んでいるだけで「身体感覚」が呼びおこされる絵本
はだしで踏みしめる地面、足の裏で感じる地球。
そういえば最近ははだしで外を歩く機会なんて、ほとんどなくなりましたよね。
足のうらで地球を感じる!『はだしであるく』
あ、あ、カラスがスイカをつついてる。こらぁ! ガァッと鳴いて飛びたったカラスを追って、女の子ははだしのまま畑の外へ。道路の上をはだしで歩くと、ちっこい石が足の裏にくいくいあたる。あれれ、どこも全部感触がちがう。ふんわりしてたり、硬かったり、じんめりしていたり、乾いていたり。足の裏をべったりつけて歩くと、道路の王様になった気分!
公園までやってくると、はだしの足の裏は土の上。川の土手から一気に川へ。ひんやりした川砂が、足の甲の上をすべっていく。川の音がする。風の流れる音がする。立ちどまって目をつぶってみると……。
はだしで踏みしめる地面、足の裏で感じる地球。女の子の様子を見ているだけでドキドキしてしまうのは、はだしで歩くことなんて最近なかったから? それともどこかで記憶しているあの感触を思い出したから? 直接触れるだけで、世界の見え方が変わる。呼び起されるのは身体感覚。その強いメッセージを石川えりこさんの描く柔軟でダイナミックな絵によって、気持ちよく受け取り、体験することのできる1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
おひさまのひかりでいっぱいになる、夏の日のプール
こんな風に自由に泳げたら気持ちがいいだろうな……!そんな気持ちで読んだってきっと楽しいはず。
くちからごぽごぽ、はなからごぽごぽ『あわ あわ わあい!』
ザップーン! くちからごぽごぽ、はなからごぽごぽ。
ぶくぶく、ぼこぼこ、あわ あわ あわ わあい!
おひさまのひかりでいっぱいになる、夏の日のプール。わたしは泳ぐ、ちょうちょになったり、イルカになったり、ロケットになったり。弟はまだ泳げないからプールのそばでパシャパシャしてる。でも私は頭をぶんぶん、友だちとバッシャン、水の底までもぐって、ブグブググルンとちゅうがえり。
突然かみなりが鳴って大雨、どこもかしこもずぶぬれだ。あーあ、仕方ないから雨やどり。音も遠くなり、雨もやんだら……さあ、またお楽しみの時間!
それはそれは楽しそうにプールの中を泳ぐ女の子。画面中にあわと水しぶきがいっぱい。みんなで楽しんだり、ひとりの世界に入って陶酔したり、色々な泳ぎ方をためしてみたり、やることがいっぱいの大忙し。全身を使った自由なポーズ、大小様々なあわの形、どんどん広がる空想の世界。見ているだけでも気持ちのよくなる、プールの絵本。林木林さん翻訳による言葉の響きも心地よく。暑い夏の日にぴったりな1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
不思議で楽しいまっくら遊び
何も見えないくらいの暗闇。実はこの感覚だって、最近あまり味わっていないのかも。
暗闇だから、楽しめる『まっくらあそびしようよ!』
「わ!まっくら」
今日は、きょうだいでおばあちゃんちの屋根裏でお泊り。あかりを消すと何も見えないくらいまっくらで、なんだか落ちつかない。
「ねえ、おにいちゃん。まっくらすぎて、ねむれない」
そこでおにいちゃんが自分の荷物から取り出したのは、懐中電灯。
「これで まっくらあそびをしようか?」
壁に映し出されたのは、大きな汽車とクマの影。さらに色々な形の影が大きくなったり小さくなったり。ゆうらゆうら揺れて、生きてるみたい。あっという間に映画館に変身。おにいちゃんは、もっとたくさんのライトやカメラも取り出して「ライトアート」をしようと言う。光をつかってぐるぐる、カシャ! カメラに写っていたのは……?
どんな場所でもあっという間に遊び時間にしてしまう「きょうだい」が活躍するのは、はたこうしろうさんの絵本シリーズ。今回の舞台は暗闇です。暗闇そのものを楽しむ方法から、ひかりのお絵描きまで。巻末に準備するものも書いてあります。不思議で楽しいまっくら遊び、挑戦してみようかな。これなら長い夜だって楽しみになっちゃいそうですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
たった数分の出来事のはずなのに
こんなに必死に時間を駆け抜けたら、時空のゆがみで不思議なことが起こる、なんてことが本当にあるのかも!?
長い?短い? 今朝のぼくは…『がっこうに まにあわない』
7時47分。ぼくは玄関をとびだし、ゴウゴウと走り出す。このままだと学校に間に合わない。今日は遅れちゃいけない訳がある。
ランドセルを背負い、帽子をかぶり、必死な形相で地面を蹴りあげ、いつもの道をまっすぐ駆けていく男の子。ところがなんだか変だ。何かが変だ。ワニが潜む水たまり、壁の高さを越えるほど大きな犬たち、ぐにゃぐにゃまがる歩道橋。51分、52分、53分……あせればあせるほど、景色が、時空が、ゆがんでいく。だけど今のぼくはそれどころじゃないんだ!
たった数分の出来事。けれど、彼の中では永遠に続くかと思われるほどの長い道のり。もどかしく、心が折れそうになるけれど。「どうか気をつけて、ちゃんとまわりを見て、だけどあきらめないで」手に汗をにぎりながら、でもこんな世界をどこかで懐かしく思い、応援をしながらページをめくる。すると最後に待っていたのは、時間を忘れるほど素敵な……。
日常の中で刻まれる平凡な時間を、強く印象的で魅力的な景色として描き出してしまうのは、人気の絵本作家ザ・キャビンカンパニー。凝縮した時間の中で繰り広げられる物語は、年齢に関係なく多くの読者の心を揺さぶります。この緊張感と開放感、どっぷりと浸ってみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
感情だって、身体に影響してくるよね
なんだか元気にふるまいたくない、遊んでも楽しいと感じられない。これって?
モヤモヤ、イライラ、どうなってんだ?『ごきげんななめな おさるさん』
朝、目がさめると……。
ジム・パンジーは、なにもかもが気に入らないことに気づきます。こんなに素晴らしく晴れた日なのに! おひさまは照りすぎるし、空はあおすぎる。バナナは甘すぎるし、友だちは心配してくれる。モヤモヤ、イライラ。どうなってんだ?
「たぶんきみは、ごきげんななめなんだよ」
ジャングルの仲間たちは、ジムの気分をかえてやろうと、色々な楽しい遊びに誘います。歌ったり、ブランコしたり、土の上で転げまわったり。散歩したり、寝っころがったり、あしぶみしたり。水遊びしたり、笑ったり、おふろに入ったり。なんて素敵な仲間たちなのでしょう。でも、しかめっつらしたジムは言うのです。
「きげんわるくなんて、ない!」
だけど、一人になったジムは……。
そうだよね。どんなに天気がよくたって、どんなに友だちが優しくたって、「ごきげんななめ」になってしまう日はあるものです。自分ではコントロールできないからこそ困ったものです。それでも、素直に奮闘するジムの姿はとても愛らしくて、ちょっと可笑しくて、どこかで見たことあるような? 自分の姿にほんのり重ね合わせながらも、思いっきり楽しんで読んでくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
ほかにも色々!「身体感覚」を刺激してくれる絵本
実際に同じ体験ができなかったとしても、その感覚を味わうことができる。それも絵本の大きな魅力の一つです。それでもやっぱり。身体をめいっぱい動かすことを忘れずにしなくては、ですね。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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