ゆっくり歩いて帰る、今日だけの特別な時間?「かえりみち」の絵本
早く家に帰らなくちゃ、でも……。お散歩からの帰り道、学校からの帰り道、めいっぱい遊んだあとの帰り道。お母さんと一緒、友だちと一緒、あるいはひとりで。いつものことのはずなのに、ゆっくり歩いてみると、今日はちょっと特別みたいで。ちょっぴり不思議で魅力的な「かえりみち」、そんな時間が描かれている絵本をご紹介します。
今日だけの特別な時間?「かえりみち」の絵本
夜へと向かう風景の中、ゆっくり歩くかえりみちは特別な時間
小さなハリネズミにとって、かえりみちには見たいものがたくさん。一緒に寄り添ってくれる大きなハリネズミと、帰るべき家の存在があるからこその幸せな時間なのでしょうね。
ねえねえ、ちょっと まって…『かえりみち』
大きなハリネズミと小さなハリネズミ、ふたりは家に帰るところ。空は夕日に染まってまっかです。
「ねえねえ、ちょっと まって」
小さなハリネズミは、夕日が沈むまで見ていたいと言います。そこでふたりは眺めのいいところにすわって、しっかり沈むまで見届けます。さあ、帰らなくちゃね。でも少し行くと、今度は明るいおつきさま。さらに進むと、すごくいいにおいのお花。ホーコーと鳴くフクロウ。ホタルの群れに、数えきれないほどの星まで。
小さなハリネズミにとって、かえりみちには見たいものがたくさん。魅力的なものばかりですものね。でも、これではなかなか家には着きません。それでも大きなハリネズミは優しく寄りそった後に言うのです。
「さあ、もう いかなくちゃ。いえは もう、すぐ そこだよ」
すると小さなハリネズミは……?
夜へと向かう風景の中、ゆっくり歩くかえりみちは特別な時間。たとえ途中で寝てしまったとしても、その先に待っているのは大好きな自分の家です。小さなハリネズミは大きなハリネズミの腕の中で、きっといい夢を見ているのでしょうね。ドイツの人気絵本作家ブリッタ・テッケントラップが、美しい一日の終わりを描きます。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
今日はいつもと違う帰り道
あ、同じことやってことがある! そんな大人も多いはず。いつもの帰り道だって、一つの決まりごとであっという間に大冒険になってしまうのです。
この白い線から落ちたら…『ぼくのかえりみち』
「この白い線から落ちたら 大変なことになるんだ」
学校からのかえりみち。道路の白い線だけを通って家に帰ることを決意するそらくん。落ちないように、ゆっくりゆっくり、そろーりそろーり……。
出発したその瞬間、そらくんのまわりは異世界に!大冒険にのぞむ男の子の姿が浮かび上がってきます。すさまじい断崖絶壁、大きくてっちょっと危険な敵。さらにむかえる難関は? 誰もが「あ、同じことやったことがある」という感想を持ちながら、あっという間にこの絵本の世界に引き込まれ、思わずドキドキしてしまうのがこの絵本のすごさ。子どもたちにとって、手に汗にぎりながら見たそれぞれの場面はずっと忘れることなく頭の中に残っていくのではないでしょうか。
それにしても、最後のそらくんの表情は最高にいいですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
お母さんに抱っこされながら見る夜のかえりみちの景色は
今日はたくさん遊んで、こんなに遅い時間。みんな家に帰っている。いつもの夜に、特別な夜。私はね……
よるって、とてもしずかだな。『よるのかえりみち』
夜のかえりみち。
街頭に照らされた夜道を歩く。
窓からこぼれる光。そこに住んでいる人の気配。
家路をいそぐ親子が出会う、それぞれの夜。
しんとしている夜道は
人の話し声や美味しそうないい匂い
そして、ちょっとした物語がひそんでいるみたいです。
お母さんに抱っこされた夜の帰り道、
ウサギのぼうやは眠くなってきました。
お父さんもお迎えに来てくれて、
お家についたらぼうやはぐっすりと眠りにつきます。
なにをおもっているのでしょう。
それぞれが思い思いに過ごす夜の時間は、
静かにゆっくりと流れていきます。
『もりのおくのおちゃかいへ』が印象的なみやこしあきこさんの夜の絵本。
大切な小石を一つずつ確かめるように置かれた言葉を
夜の空気がしっとりと包み込みます。
みやこしあきこさんの描く優しい夜は、ちょっぴりドラマチック。
夜の静かなひと時、おやすみさないを言うまでの魔法の時間。
この絵本を開いてみましょう。
心の中にそっと夜が広がります。でも仄かにあたたかい。
……おやすみなさい。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
学校からのかえりみちにはキケンがいっぱい!
「ほうかごスペシャル探検隊」。なんてワクワクするネーミングなのでしょう。彼らの手にかかれば、同じ帰り道なんて一日もないのかもしれません。
目的地目指して出発だ!『アブナイかえりみち』
学校のかえりみち。本部での会議を終えた、ぼくたち「ほうかごスペシャル探検隊」は目的地目指して出発だ!冒険の始まりは校門前の商店…ではなくて「ンラズスとりで」。凶暴な部族に襲われないように無事に通り抜ければ、今度は「地獄の平均台」。左に落ちれば激しい川に流され、右に落ちればジャングルに。「ひゃあーー!!」4号が落ちてしまった。慌てて駆けつける隊員たち。「チマンホいちば」では2号がオババーンぞくに囚われた。そして、みんなは逃げ出して…!きみたち、こんな感じでちゃんと目的地「チンダ・ダラハ」に到着できるの?
こんなハチャメチな世界を、男子の頭の中に忠実に描き出しているのは、人気絵本作家山本孝さん。実際の帰り道と、大冒険の世界を見比べれば見比べるほど笑ってしまいます。見立て方はダイナミック、そして細かい。作者の熱さが伝わってきます。一体「チンダ・ダラハ」とはどこだったのでしょうか。
そういえば、毎朝「すごい夢をみた…」と呆然とした顔で起きてくる我が家の息子。夢の中でこんな冒険を繰り返しているのか。忙しいはずです。今度詳しく聞いてみなくちゃ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
優しいこぎつねと一緒に手をつないで歩けば
迷子になるほど不安なことはありません。でも優しいおともだちに出会えてよかったね。ほっとした気持ちになったら、おやすみなさい。
このみちかな。あのみちかな。『かえりみち』
「あーん。おうちが わかんないよう。」
のはらのまんなかで、おんなのこがないています。
そこへ、こぎつねがやってきて
「ね。なみだをふきな。いっしょに さがしてあげるよ。」
しんぱいそうに、そう言ってくれたこぎつねと
おんなのこはてをつないでおうちを探します。
このみちかな。あのみちかな。
おんなのこは無事おうちに帰りつきますが、
こんどはかえりみちに、こぎつねがまいごになってしまいます。
こぎつねの次はこぐま、次はこうさぎ。そして最後は・・・?
あまんきみこさんのやさしい文章と、『わたしのワンピース』の西巻茅子さんの絵が、ほのぼのしたお話にぴったり。
まいごになったけど、しんぱいそうに一緒にかえりみちを探してくれるひとに会って、ほっとしたり、ねむる前にしあわせなきもちで「また会いたいな」と思い出したり。
子どもが大好きな「くりかえし」絵本でもあります。
思いやりが次々つながって、最後は、みんな笑顔。
「おやすみなさい」で終わるので、ねむる前にお布団で読むのもおすすめですよ。
一日の終わりに子どもと読むと、ほーっと心がゆるむ絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
すっかりこんな時間、早く帰らなくちゃ。
ちょっと怖い「かえりみち」の絵本も。誰かがついてくる音がするなんて、ゾッとする。でもこの流れ、どこか変じゃない?
ひた、ひた、ひた……『ついてくる』
遊びに夢中になってたら、すっかりこんな時間。早く帰らなくちゃ。男の子の帰り道は、狭い路地を通り、草がうっそうと茂る橋の下をくぐり、薄暗い山道へと続く。
「ひた、ひた、ひた……」
「かさ、かさ、かさ……」
静かな道中に聞こえてくるのは、不気味な音。うしろに誰かがついてくる? なあんだ、のらねこにビニール袋。それでもやっぱり不穏な空気は変わらない。
「くわ、くわ、くわ……」
「ぴち、ぴち、ぴち……」
なんでそんな暗いところ所を通るの? そんな怖そうな道、どうして平気なの? 読んでいるこちらの緊張は、どんどん高まってくる。大丈夫かな、平気かな。すると……。
真っ黒なページに浮かびあがるのは、意味ありげな言葉の響き。夕方の美しさとはまた違う空気の色。空に浮かんでいるのは、月!? 絵本全体からこれでもかと醸し出してくる危険な雰囲気。ページをめくるたびに襲ってくるのは、不安と小さな安堵の繰り返し。でもなんだかこの流れ、どこか変じゃない?
読み終わった後に残るのは、やっぱり怖さ? それとも安心感? 不思議な魅力で惹きつけるこの絵本、ちょっとクセになってくるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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あなたの記憶に残っている「かえりみち」はどんな時間だったのでしょう? ちょっと思い出しながら読んでみるのも楽しいですね。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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