松岡享子さんの功績を振り返って。子どもと本をつなぐために。
子どもの本の世界を豊かにするために
昨年(2022年)1月25日、子どもの読書活動の発展と普及に尽くされた児童文学者であり、東京子ども図書館名誉理事長として長く務められた松岡享子さんが逝去されました。
自ら創作を行う作家として、また諸外国の優れた作品を日本に紹介する翻訳者として、また図書館員の育成や日本にストーリーテリングを広めた第一人者として、子どもの本の世界を豊かにするために、多くの大人や子どもたちに働きかけてこられました。その長年にわたる日本の児童文学、児童文化の発展に尽くした功績から、2021年度には、文化功労賞にも選ばれました。
本記事では、松岡享子さんが残してくれた作品やたくさんの言葉をご紹介しながら、その功績を振り返ります。
松岡 享子(まつおかきょうこ)
1935年神戸市に生まれる。神戸女学院大学英文学科、慶應義塾大学図書館学科卒業。1961年渡米。ウェスタンミシガン大学大学院で児童図書館学専攻後、ボルチモア市立イーノック・プラット公共図書館に勤務。帰国後、大阪市立中央図書館を経て、自宅で家庭文庫を開き、児童文学の翻訳、創作、研究を続ける。1974年、石井桃子氏らと共に財団法人東京子ども図書館を設立。2015年まで理事長を務めた後、同館名誉理事長。文化功労者。著書に『子どもと本』『えほんのせかい こどものせかい』創作に『なぞなぞのすきな女の子』『とこちゃんはどこ』、翻訳に『しろいうさぎとくろいうさぎ』、「うさこちゃん」・「パディントンの本」シリーズなど多数。
写真提供:(公財)東京子ども図書館
評論・エッセイ:松岡享子さんの考えに触れるなら、まずこの3冊から
松岡享子さんのご活動や思いを知りたいと思った時に、まず手に取りたい3冊をはじめにご紹介します。「子どもの本」に関わるお仕事や活動をされている方や、子どもたちの読書について日々悩んだり、考えられている親御さんには、共感したり、学ぶことばがたくさんあることでしょう。作家として、翻訳者として、図書館員として、実際にたくさんの子どもたちに触れ合って観察を続けてこられた松岡享子さんならではの珠玉のことばが詰まっています。そのことばをいくつか抜粋させていただきながらご紹介します。
松岡享子さんの「子どもと本」への限りない信頼と愛があふれる一冊
財団法人東京子ども図書館を設立、以後理事長として活躍する一方で、児童文学の翻訳、創作、研究をつづける第一人者が、本のたのしみを分かち合うための神髄を惜しみなく披露します。長年の実践に力強く裏付けられた心構えの数々からは、子どもと本への限りない信頼と愛が満ちあふれてきて、読者をあたたかく励ましてくれます。
<目次>
一章 子どもと本とわたし
二章 子どもと本との出会いを助ける
三章 昔話のもっている魔法の力
四章 本を選ぶことの大切さとむつかしさ
五章 子どもの読書を育てるために
あとがき
文中で挙げた人名、書名、その他について
昔話の本
東京子ども図書館について
東京子ども図書館のブックリスト
「子どもを本好きにするには、どうすればよいか」というお尋ねを受けることがよくあります。わたしの答えは、いつもきまっています。生活のなかに本があること、おとなが本を読んでやること、のふたつです。実際、子どもを本好きにするのに、これ以外の、これ以上の手だてがあるとは思えません。(「二章 子どもと本との出会いを助ける」P53-54より抜粋)
どんな本を‥‥‥というおたずねに対して、わたしがいつも答えとしてあげる原則は、まず、自分が好きな本を選ぶ、ということです。絵本は、子どもが読むものではなく、おとなが読んでやるものですから、読み手になるおとながその本を好きでなければ困ります。子どもは、本の内容や、絵のスタイルよりも先に、おとながその本に対して抱いている気持ちを敏感に感じ取るものです。」
(「四章 本を選ぶことの大切さとむつかしさ」、P155より抜粋)
身近にいる子どもにであれ、図書館員としてであれ、だれかに本を選ぶときに働くのは、基本的に親切心ー多少のおせっかいのまじった愛情ーだと、わたしは思っています。
(「四章 本を選ぶことの大切さとむつかしさ」、P191より抜粋)
子どもたちの豊かな心を育むために、大人が持つべき心構えを伝えるロングセラー
日本の児童図書館員の草分け的存在、松岡享子氏が、子どもと本が楽しく出会うためにはどのようなことが大切かを、実際に出会った子どもやお母さん方とのエピソードも交えて語った評論集。その全体から、本と子どもへの深い愛情が伝わってきます。1978年の発行以来、長らく読み継がれてきたロングセラーの改訂新版。時代の変化に合わせた表現の改訂や理解を助ける言葉を加え、「子どもの本とお話のリスト」も付いて、よりいっそう読みやすくなっています。
心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。だが、サンタクロースが占めていた心の空間は、その子の中に残る。この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎えいれることができる。
(P10)
~わたしは、次第に「ユーモアのセンス」を以前よりずっと大事なものに思うようになった。ユーモアのセンスをささえているのが、単なるとんちの才ではなく、ありきたりの見方にとらわれず、違った角度からものごとをとらえることのできる頭の柔軟さや、少々いためつけられてもはねかえす強靭な精神、さらにはまた自分の愚かさをも含めて、人間性を暖かく包む心なのだということもわかってきた。それは、ただ人生に彩りをそえるものというよりは、もっと人間の生き方に本質的なかかわりをもつものだといえる。
(P22)
本を読ませようとするのはいいが、目先きの効果をねらった読書を強いて、子どもを本ぎらいにしてはつまらない。おとなも、子どもも、本を読むときは"上を向いて"いよう。そして、心が、より高い、よりのびやかな世界に向かって開かれているようでありたい。
「子どもが読書の楽しさを発見する為に大人は何を手助けできるか」を解説したロングセラー。
「ちいさなうさこちゃん」「パディントン」シリーズの翻訳などで知られる著者の松岡享子さんは、長年児童文学の翻訳や研究をし、図書館や家庭文庫で大勢の子どもたちを観察し続けてきました。そんな松岡さんが、「子どもが読書の楽しさを発見する為に大人は何を手助けできるか」という事を著したのが本書。1987年に単行本が刊行され、24刷まで版を重ねている大人気のロングセラー本が文庫化されました。
本書では、子どもが最も喜んだ34冊を紹介し、読み聞かせのコツや優れた絵本を選ぶポイントを解説。また、松岡さんが東京子ども図書館の「おはなしのへや」で子どもたちに語りかける様子や、バラの咲き誇る図書館の素敵な外観などを撮り下ろしたオリジナルページもカラーで多数、追加収録しました。
『おさるとぼうしうり』『おやすみなさいのほん』『ぐりとぐら』『三びきのやぎのがらがらどん』『ちいさいおうち』……可愛い絵本の写真がたっぷりと入っていますので、見て楽しく読んで面白い絵本ガイドです。
おとうさんやおかあさんが子どもに本を読んでやるとき、その声を通して、物語といっしょに、さまざまのよいものが、子どもの心に流れこみます。そのよいものが、子どもの本を読むたのしみを、いっそう深く、大きなものにしているのです。
(35P)
~子どもの読書の場合でも、考えることよりさきに感じることがじゅうぶんにされなければならないと思うのです。
(49P)
~幼い子どもが最初にふれる本は、人生に対して肯定的で、日なたのあたたかさと明るさを備えていなければいけないと思う者です。そして、絵本の評価の際にも、あたたかさを特に大事に考える者です。
(85P)
わたしたちにできることは、子どもが本と出会う機会をできるだけ多く作ってやる(中略)こと、わたしたちの本に対する愛着を惜しみなく分かつこと、それさえすれば、あとは、子どものなかにある、よいものに手を伸ばそうとする力と、よい本の中にある子どもに訴えかける力とを信じて、両者の結びつきが新たな力を生み出すことを期待する、それ以外にないのではないでしょうか。
(90ページ)
他にも読みたい、松岡享子さん評論・エッセイ・翻訳書
作家としてのお仕事
松岡享子さんは、自ら創作を行う作家としても、数多くの絵本や物語を残して下さいました。ラインナップを見ると、あの絵本もこの物語も! と驚かれることでしょう。
絵本作品
まずご紹介したいのは、『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』。悔しくも遺作となってしまいましたが、お亡くなりになった後での刊行とあって、松岡享子さんの不在をさみしく感じていた私たちにとって発売のお知らせは大変嬉しいものでした。
本の帯と最初のページには、松岡享子さんが大切にしていた下記の言葉が記されています。
「『暮らす』ということが大事。いそがしく、たのしくね」
『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのいそがしい毎日』(2022年4月発売)
小さな家に仲良く暮らす、えんどうまめばあさんとそらまめじいさん。二人ともとっても働きもの。今日もおばあさんは思い出します。
「庭のえんどうまめのつるに、ぼうを立ててあげなきゃ」
すると庭の草がぼうぼう。抜きおわった草を見て、うさぎたちに食べさせてやろうと思いつきます。ところが、うさぎ小屋の金網が壊れています。修理をしなくっちゃ。おじいさんに頼み、二人で作業小屋に行くと、目の前には穴のあいた作業着がぶらさがっていて……。
そうなのです。困ったことに、二人は何かをやっている最中でも、他にやりたいことが見つかると、すぐに始めないと気が済まないのです。だから大忙し。一日の終わりになると、二人はへとへとです。でも、なんだかとっても楽しそう。そうそう、暮らすってこういうことなんですよね。
松岡享子さんが、降矢ななさんと一緒に最後に残してくれた物語。えんどうまめばあさんとそらまめじいさんのドタバタする姿は、ユーモラスで可笑しくて可愛らしくて。「順番通りにいかなくたって、何とかなるもの」……そんな言葉が聞こえてくるようです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
次に紹介するのは、1982年の刊行から40年以上読み継がれるロングセラー。林明子さんの絵とともに、楽しいおふろ時間での子どもの空想の世界がのびのびと描かれています。
次はこちら、絵さがし絵本の元祖ともいえる、子どもたちをたちまち夢中にさせてしまう一冊! かこさとしさんの絵が特徴的ですが、お話は松岡享子さんが手がけられています。
他にも! 松岡享子さん/作の絵本作品
創作物語
ちょうど絵本から物語に移っていく時期の子どもたちにぴったりの、心が動く楽しいお話をたくさん書いてくださいました。大人が読んで子どもが耳から聞くのに心地良い日本語で書かれているのも特徴です。絵本も物語も、大人が子どもにたくさん読んであげてほしいという松岡享子さんの思いが感じられます。
『なぞなぞのすきな女の子』『じゃんけんのすきな女の子』
なぞなぞ遊びは好きですか? 答えるのも楽しいけれど、なぞなぞを出すのも楽しいですよね。特に答えられないような、なぞなぞが出せたら!
この本は、そんな、なぞなぞが大好きな女の子が主人公のお話です。女の子は、一緒に遊べるお友達を探しに森に出かけ、はらぺこオオカミと出会います。お母さんとなぞなぞ遊びをいつもしている女の子は、オオカミにぴったりの、何やら長いなぞなぞを出しました。オオカミは一生懸命考えるのですが、長いなぞなぞに、答えがいっぱい出て来てしまい…あらら? なぞなぞの答えは一つ、ですよね。さあ、オオカミは答えられるでしょうか?
いい考えを出すには、手を頭にあてて目をつぶって考えるといいのよと、アドバイスする女の子。オオカミが目をつぶって考えているうちに、逃げてきてしまうなんて、何て頭がいいんでしょう! 間が抜けたオオカミとおりこうな女の子の楽しいお話が2話入っています。オオカミの表情がユーモラスで、くすくす笑ってしまいそうですね。(そうそう、女の子のお母さんのなぞなぞの出し方もとてもすてきなので、こちらにも注目下さいね。)
本の見返しにも、楽しいなぞなぞがたくさんのっているので、ぜひお子さんと挑戦してみてくださいね。このお話はもともと、作者の松岡享子さんが、人形劇のために作ったそうですよ。手袋や布でオオカミ、女の子、うさぎなどを作って演じてみても、楽しそうですね。
(長安さほ 編集者・ライター)
とてもじゃんけんのすきな女の子がいました。だれとでもじゃんけん、何を決めるにもじゃんけん。だから、おとうさんもおかあさんも少々あきれ顔。暑い夏の日、留守番中の女の子は、とても大事なことを決めるじゃんけん勝負をすることに…!さてその相手とは?
松岡享子さん/作の物語
翻訳家としてのお仕事
諸外国の優れた作品を日本に紹介する翻訳家としても、力を注がれました。こちらのラインナップも、長く愛されるロングセラー絵本がたくさんありますね。
絵本の翻訳作品
『くまのコールテンくん』
「はやく、誰かが自分をうちにつれていってくれないかなあ」
大きなデパートのおもちゃ売り場に並んでいるぬいぐるみや人形は、みんなそう思っています。くまのコールテンくんもそう。でも、緑色のズボンをはいた小さなくまのこを買っていこうとする人はなかなかいません。
そんなある日、コールテンくんは自分のボタンが片方とれていることに気がつきます。そして夜になると、デパートの中を探しに出かけるのです。初めてのエスカレーターや家具売り場。大きなベッドに警備員さん……。 結局ボタンは見つからなかったのだけれど、次の日の朝、コールテンくんのところに女の子がまっすぐやってきます。昨日もやってきたあの子です!
好奇心旺盛なくまのコールテン君と、彼を一目で好きになり、自分のおこずかいをはたいて買いに来た女の子との心のふれあいを描く、アメリカ生まれの傑作絵本。
「ぼく、ずっと前から家で暮らしたいなあって思ってたんだ」
コールテンくんの素直な言葉の一つ一つやその表情や行動、どれもがとっても愛らしく、読んでいる誰もが彼の事を好きにならずにはいられなくなります。幸せな出会いって、見ているだけでも嬉しい気持ちになれるんですね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
『しろいうさぎとくろいうさぎ』
白いうさぎと黒いうさぎは、毎日いっしょに遊んでいました。でも、黒いうさぎはときおり悲しそうな顔で考えこんでいます。心配になった白いうさぎがたずねると「ぼく、ねがいごとをしているんだよ」と、黒いうさぎはこたえます。黒いうさぎが願っていたのは、白いうさぎといつまでも一緒にいられることでした。それを知った白いうさぎはどうしたでしょうか? 結婚式の贈り物に選ばれることも多い、優しく柔らかな2の匹うさぎの物語。
2022年5月に「ブルーナの絵本」シリーズから、くまのぼりすが主人公のお話3冊が発売になりました!
松岡享子さんの翻訳絵本作品、他にもたくさん!
物語の翻訳作品
松岡享子さんが翻訳された海外の物語には、思わずくすりと笑ってしまうようなユーモアがたっぷり含まれています。
『くまのパディントン』
みんなに愛されるおかしなクマのシリーズ1作目
ブラウン夫妻が初めてパディントンに会ったのは、パディントン駅のプラットホームでした。だから、クマには珍しい「パディントン」という名前が付けられました。暗黒の地ペルーから、1人で移民してきて、身寄りもなく駅の隅に佇んでいましたが、親切なブラウン夫妻にひきとられ、縦横無尽に活躍します。一度読み始めたらやめられない、おかしなおかしなクマのパディントンのお話の第1作目です。
『がんばれヘンリーくん』
ヘンリーくんは小学3年生。どこにでもいるごくふつうの男の子です。
ある日、街角でやせこけた犬を拾いこっそりバスに乗せて帰ろうとしたら、とちゅうで犬が大あばれ。
それ以来、ヘンリーくんのまわりには、つぎつぎにゆかいなドタバタがおこります!
他にも! 松岡享子さんによる楽しい読み物の翻訳作品
昔話の再話(編集)、翻訳作品
グリム、アンデルセン、アジアの昔話など、世界の昔話の編集や翻訳にも力を注がれました。
『グリムのむかしばなし』(のら書店)の原書である『Tales from Grimmu』は、松岡享子さんがアメリカで児童図書館員の第一歩を踏み出された際、お話の時間にグリムを語るときに使っていた1冊だったそうです。
『グリムのむかしばなし1』『グリムのむかしばなし2』
『ヘンゼルとグレーテル』『ねことねずみがいっしょにくらせば』『かえるの王子』『なまくらハインツ』『やせのリーゼル』『シンデレラ』『六人の家来』の7話を収録。生き生きとした再話とユーモアあふれる絵が魅力です。
『100まんびきのねこ』などで知られる絵本作家・ワンダ・ガアグが再話し、挿絵をつけた珠玉のグリムのむかしばなしの2巻目です。収録作品は、「ブレーメンの音楽隊」「ラプンツェル」「三人兄弟」「つむと杼と縫い針」「なんでもわかる医者先生」「雪白とバラ紅」「かしこいエルシー」「竜とそのおばあさん」「漁師とおかみさん」です。訳者の松岡享子さんによるあとがきでは、ワンダの生涯とグリムへの想いが解説されています。
声に出して子どもたちに語ることを意識した訳文が魅力の、「子どもに語る」シリーズ(こぐま社)
東京子ども図書館発行の、子どもと本について学ぶテキスト
子どもと本について学ばれる人のために
東京子ども図書館では、図書館活動、研究活動から生み出された成果を収めたさまざまな出版物を発行されています。そのうち松岡享子さんが書かれた本をご紹介します。
お話のもつ力やお話をすることの意味とは?
当館名誉理事長・松岡享子のふたつの講演「お話について」「お話のたのしみを子どもたちに」を収録。お話のもつ力やお話をすることの意味を原点からていねいに語りかけます。
ことばの力を子どもがもち続けるために、おとなはどうすべきかを丁寧に説き明かした2つの講演などを収録
子どものことばの力が弱くなってきた? 子どもがことばを獲得していく姿を検証しながら、そのことばの力を子どもがもち続けるために、おとなはどうすべきか、わかりやすい例をあげながら、丁寧に説き明かします。2つの講演録などを収録。
子どもたちを引きつける昔話を、より深く理解するために
東京子ども図書館では、おはなし ― 肉声で子どもたちに物語を語って聞かせること―が、読書へのいちばんたしかな、いちばんたのしい道であるという信念のもとに、さまざまな活動を行ってきました。機関誌「こどもとしょかん」に、おはなしに関する評論や記事を数多く掲載してきたのも、その一つです。ここに、これまでに掲載された評論のうち、バックナンバーの要求がもっとも多かった三篇を収録して一冊にまとめました。
・人格形成における空想の意味 小川捷之
・昔話と子どもの空想 シャルロッテ・ビューラー/森本真実訳・松岡享子編
・昔話における“先取り”の様式――子どもの文学としての昔話 松岡享子
語り手たちは、物語そのもののおもしろさとふしぎさ、それを聞く子どもたちの目のかがやきや笑顔に助けられて、活動をつづけています。が、さらに自分たちの語る物語や、語りという営みについて学ぶことは、活動の意義をより深く理解し、活動への意欲を一層高める助けになります。この冊子がそのお役に立つことを願っています。松岡享子
ストーリーテリングを学びたい方のためのテキスト
東京子ども図書館では、お話を語って聞かせることが、子どもたちをたのしく読書に導く、有効な手だてであると信じ、設立以来、お話に力をいれてこられました。お話とは、昔話などの物語を、語り手がすっかり覚えて自分のものとし、本を見ないで語るもので、ストーリーテリングとも呼ばれています。同館では、語り手としての心構えなどを学ぶ講習会が開かれ、全国から多くの方が学んでおられます。
そんな日本のストーリーテリングの第一人者であった松岡享子さん。実際の講習会に加えて、ストーリーテリングについての基本的な問題を取り上げてていねいに論じた入門書のシリーズを残してくださいました。語り手を目指す方必読のシリーズです。
ストーリーテリングをはじめる時にまず読みたい一冊
お話とは何か、なぜ子どもたちにお話を語るのか、語り手を志す人へのアドバイスなどを述べた、お話の入門書です。
レクチャーブックス お話入門シリーズ
「愛蔵版おはなしのろうそく」シリーズ
「愛蔵版おはなしのろうそく」シリーズは、日本をはじめ世界各地の昔話、創作物語、わらべうた、手遊びなどを約10編ずつ収めたアンソロジー。元になっているのは、子どもたちにお話をとどける語り手用のテキストシリーズ「おはなしのろうそく」です。
松岡享子さんが創作、翻訳されたお話も多数入っております。
人気の「エパミナンダス」や「おいしいおかゆ」のお話が入った1巻はこちら
●収録作品
エパミナンダス/こぶたが一匹…… /かしこいモリー/おいしいおかゆ/くまさんのおでかけ/ブドーリネク/スヌークスさん一家/ぼくのおまじない/十二のつきのおくりもの/森の花嫁/なぞなぞ
2023年3月6日発売の『この本読んで!2023春号 86号』は、松岡享子さんの総力大特集です。
総力大特集「松岡享子さんがのこしたもの」松岡さんの思い出、松岡さんが手がけた作品のご紹介、巻末には松岡さんの著作リストも
内容紹介
総力大特集「松岡享子さんがのこしたもの」
翻訳家であり、児童文学作家であり、図書館員を育てた、松岡享子さん。子どもたちに良質な本を手渡すことが、どれほど大切なことかを体現し、私たちに教えてくださいました。
いつも素敵な笑顔だった松岡さんの思い出を、さまざまな方々に伺いました。
松岡さんが手がけた作品もたっぷり紹介しています。巻末には、松岡さんの著作リストも。
インタビュー&寄稿:大社玲子、小関知子、汐崎順子、関谷裕子、髙橋樹一郎、中野百合子、張替惠子、降矢なな、間崎ルリ子、松岡恵実(五十音順)
特集「第4回 親子で読んでほしい絵本大賞」
絵本の目利きである、JPIC読書アドバイザーの投票により選ばれた10冊を推薦コメントともにご紹介します。好評の「この本読んで! 読者賞」も発表します。
ミニ特集:「ポカポカ春の絵本」
冬が過ぎて陽の光があたたかくなってきたころに読みたい、春の息吹にふれるような絵本を集めました。
そのほか、「新刊絵本100冊」や「子どもたちの未来とSDGs絵本」、「保育者のたまごたちと絵本」、童話&YA新刊案内、対象別おはなし会プログラムは、オールカラーで表紙も掲載しています。
連載は、長谷川義史さんのイラストエッセイ「絵本作家のブルース」、富安陽子さんの書きおろし児童文学「カギじいさん」、直木賞作家・中島京子さんのエッセイ「おいしい絵本」、おはなしおばさんの藤田浩子さん、「保育者のたまごたちと絵本」、「支援の必要な子と絵本」など。
巻末付録に、おはなし会に役立つ季節の絵本カレンダーもついています。
おわりに
私たちに多くの作品を残してくださった松岡享子さん。創作された絵本や物語はこの先もずっと、たくさんの子どもたちと大人を楽しませてくれるでしょうし、評論やエッセイやレクチャーブックスは、子どもの本に関わる、児童図書館員、学校図書館員、教師、保育者、児童館職員、文庫関係者、お話ボランティア、学生さんにとって、頼もしい指針として寄り添い続けることでしょう。
これからも作品を通して松岡享子さんの精神やことばに触れられることは大きな喜びであり、この先もしっかり学ばせていただきたいと思います。松岡享子さん、本当にありがとうございました。
秋山朋恵(絵本ナビ副編集長)
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