中高生向け・夏の読書感想文におすすめ 人生に立ち向かう勇気をくれる本
産経児童出版文化賞(翻訳作品賞)受賞作
戦中のイギリスを舞台にした『わたしがいどんだ戦い1939年』と、その完結編『わたしがいどんだ戦い1940年』
『わたしがいどんだ戦い1939年』(評論社)という本を知っていますか?
アメリカの作家、キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリーが書いた児童向けの読み物で、2016年ニューベリー賞オナー作(次点)に選ばれました。日本では2018年の青少年読書感想文全国コンクール(高校生部門)の課題図書となり、産経児童出版文化賞翻訳作品賞を受賞しています。
人は誰しも思いどおりになる人生を生きているわけではなく、どこかで何かと戦って、生きているもの。でも、ときどき、その現実に押しつぶされそうになったり、がんばるのをあきらめたくなることが、あるのではないでしょうか。本書の主人公、エイダが、家族との関係に傷つきながら、けっして人生を選ぶことをあきらめない姿は、わたしたちの心を揺さぶります。
2019年には、完結編となる『わたしがいどんだ戦い1940年』が刊行。この2冊を訳した大作道子さんのコメントとともにご紹介します。夏休みの読書に、興味を持った方は、手に取ってみてくださいね。
『わたしがいどんだ戦い1939年』
自分らしく生きるための、少女の戦い
物語の舞台は、第2次世界大戦が始まった1939年のイギリス。母親に虐待されていた足が不自由な少女エイダは、ひそかに歩く練習をして、弟と一緒に疎開児童の列に加わった。ロンドンを離れ、緑豊かなケント州の村で、新しい環境に戸惑いながらも必死で生きていく。シュナイダー・ファミリーブック賞(2016年)、産経児童出版文化賞翻訳作品賞(第65回)受賞。
翻訳者・大作道子さんに、コメントをいただきました!
大作:『わたしがいどんだ戦い1939年』を訳すことになったきっかけは、以前出版社に持ち込んだ作品が、偶然この本と同じように、馬と、足が不自由な女の子が出てくる戦時中の物語だったことです。
評論社の編集者さんが『わたしがいどんだ戦い1939年』の訳者を選ぶとき、似た設定の物語を持ち込んだ私を思い出して声をかけてくれたのでした。
作品の舞台は第二次世界大戦がはじまった年のイギリス。右足が不自由だったため、10歳までロンドンのアパートの部屋に閉じ込められていたエイダが、学童疎開を利用して母親の虐待から逃れ、田舎の田園地帯で暮らしはじめます。ポニーに出会って乗馬を覚え、里親のスーザンにも恵まれ、トラウマに苦しみながらも、少しずつ成長していく物語です。
翻訳依頼を受けたとき、この作品がアメリカでニューベリー賞次点となったことは知っていたので、こんなに評価の高い作品を訳す機会に恵まれるなんて、訳者として幸運だと思いました。けれども、訳しながら、つらい場面では、本当に息苦しくなるときもありました。とくに、エイダが母親に、床下の狭い場所に閉じ込められる場面はつらかったです。
でも、親友のマギーとのほのぼのした場面や、エイダがはじめてクリスマスの意味やお祝いを知る場面、ロンドンに戻ったときの空襲で、防空壕内で知らない人にエイダが親切にしてもらうところなど、好きな場面も数えきれないくらいあります。
この本は2018年の青少年読書感想文全国コンクール高校生部門の課題図書に選ばれ、私も入賞作をいくつか読ませてもらうことができました。「エイダに力をもらった」と書いている子たちの作文を読んで、本当に嬉しかったですし、私のほうこそ力をもらいました。
読者の声より(一部抜粋)
親子関係がむずかしいのは、それが切っても切れないものだからだ。
虐待を受けてきた子どもが普通の生活を獲得するのは並大抵ではないことをこの話は教えてくれる。
無知や迷信がまだまだ残る時代、そして戦争が生活を脅かしていく時代に、たくましく自分を変えていこうとする少女の姿に勇気をもらった気がした。
エイダを見守るスミスさんや村の大人たちの関わりもいい。
(はなびやさん 50代・ママ 男の子16歳)
戦争を機に母親の元から逃げ出したエイダですが、母親が彼女に今までしてきた仕打ちは大きく影を落としているのだなと感じさせました。
実の母親と離れることがむしろ幸せっていうことは正直ありますよね…。
あたたかい人々に出会えて変わるエイダでよかったです。
(みちんさん 30代・ママ 女の子6歳・4歳・0歳)
完結編『わたしがいどんだ戦い1940年』
1940年、第二次世界大戦が続くなか、エイダは足の手術を受け、歩けるようになる。生活は厳しさを増すばかりだったが、新しい友と出会い、自らの心の傷と戦い、家族のきずなを深めながら成長していくエイダ。『わたしがいどんだ戦い1939年』の感動の完結編。
大作:続く『わたしがいどんだ戦い1940年』では、足の手術をして歩けるようになったエイダの姿が描かれます。でも、足は治っても、エイダのトラウマはかんたんにはなくならない。トラウマから立ち直るのは時間がかかるのだとわかるように、エイダの言動や悩む姿が丁寧に描かれています。読者の中には、周囲にあれだけよくしてもらっても依然として疑い深いエイダをもどかしく感じる人もいるかもしれません。でも、虐待を経験した子が、どんなことにつまずき、どんなことに悩むのか……。エイダに寄り添って読んでもらえたら嬉しいです。
里親から後見人となったスーザンの、器用ではないけれどまっすぐな愛情や、親友マギーとそのお母さんであるソールトン夫人との関係も描かれ、エイダの新たな成長も感じられます。『わたしがいどんだ戦い1939年』とは違った魅力があるので、ぜひ読んでみてください。
いかがでしたでしょうか。人生の中で、歩む足をとめたくなるときも、わたしたちは、歩みたいという思いを捨てきれないものなのかもしれません。つらい記憶があるからこそ、心の友や、愛する人との出会いは、輝きます。この本が、エールを必要とする誰かの元に届きますように。
インタビュー・文:大和田 佳世(絵本ナビライター)
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