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成長するために必要な2つの勇気の物語『ちっちゃな木のおはなし』

  この世に命を受けた生物が成長するのは、ごく自然なことです。でも、「大きくなりたくない。このままでいい!」と思ったことはありませんか? 
生きるための栄養を取っていれば、身体は大きくなっていきます。見た目も変化するので、成長したことがとてもわかりやすいですよね。一方、心の成長は、周囲からすると捉えづらいだけでなく、本人の自覚も難しいという側面があります。「体が成長すると、心も成長する」ともいわれますが、それが正しいとしたら、逆に「心が成長しなければ、体も成長しない」のでしょうか?

『ちっちゃな木のおはなし』は、「ずっとこのままがいい」と願った小さな木の、葛藤と成長の物語。小さな森の中の小さな木を通して、成長に伴う心の動きを丁寧に描いた、優しいおはなしです。

ちっちゃな木のおはなし

ちっちゃな木は幸せでした。葉っぱは青々としげっていましたし、友だちもたくさん遊びに来てくれましたから。秋になり、ほかの木は葉っぱを落としましたが、ちっちゃな木だけは葉っぱを落としませんでした。でも、やがて……何かを手ばなすことの大切さを、やさしく語りかけてくれる絵本です。

子どもと大人、2つの目線で物語を楽しもう

『ちっちゃな木のおはなし』は、「自分がちっちゃな木になる」子どもの目線と、「ちっちゃな木を見守る」大人の目線で読むのでは、受け取るものがまったく違うのです。

子どもの目線で読む「自分が大切にしていたものを手放す勇気」

成長することは、変化することです。そして「変わること」は、「今の自分を捨てること」でもあります。「今の自分が嫌だ」と思っていたら、変化を「うれしい」と思います。しかし逆に「今の自分は幸せだ」と思っていたらどうでしょうか?

 

ちいさなもりに芽生えたちっちゃな木は、まさに「今が幸せ」と感じていました。

ちっちゃな木は、今までがんばって成長して芽吹かせたはっぱのおかげで、涼しさとお友だちを手に入れました! だから、秋になって涼しくなっても、大事な大事なはっぱを手放すことができなかったのです。

 

心理学や脳科学の見地からすると、「成長=変化を怖がる」ことはごく当たり前の感覚。だから初めて挑戦することに恐怖を覚えたり、やる前から逃げてしまったりすることも、よくあるそうです。その奥には、こんなマイナスの気持ちが隠れています。

 

「今まで大切にしてきたものを捨てるのはイヤ。だって心が痛むもの」

「今が自分のせいいっぱい。どうして変わらなきゃいけないの?」

「変わったほうがいいということは、今の自分はダメだということなの?」

 

どの理由も「そうだね」と共感できます。けれども、ずっと成長しないままでいることはできるのでしょうか? もう少し、ちっちゃな木の様子をみてみましょう。

ちっちゃな木は、冬になってもがんばって、はっぱをつけていました。

 

まわりの木は、枯れたはっぱを落としています。夏の間がんばった分、冬にお休みしているみたい。だから春が来たときには、少し大きくなって、新しいはっぱをたくさんつけました。

 

それでも、ちっちゃな木ははっぱを手放すことができません。そうして何度目かの季節が巡ると、ちっちゃな木を取り巻く環境は、大きく変わっていました。

はっぱを捨てることができなかったちっちゃな木は、温かい日差しとお友だちから取り残されてしまったのです!

 

古いはっぱがあると、新しいはっぱをつけるための芽が生まれません。それに、古いものと新しいものをいっぺんに持てるほど、根も枝も大きくなっていませんでした。両方を持てるぐらい大きくなるためには、やっぱり最初の古いはっぱを捨てなくてはいけません。まわりに取り残されたちっちゃな木は、そんなジレンマに悩まされているように見えます。

 

ちっちゃな木に必要なもの。それは、大切なものを手放す勇気と、思い切って新しい環境に飛びこむ勇気です。果たして、ちっちゃな木はその勇気を持つことができるのでしょうか。結末は、ぜひ絵本でお楽しみください。

親の目線で読む「成長をじっくりと見守る勇気」

眠っているばかりだった赤ちゃんは、お母さんのおっぱいを飲んで大きくなり、やがて自分の足で立つようになります。そして、体全部を使って自分の生まれた世界を知り、心も成長していきます。

日々大きくなる我が子の成長を喜ぶ一方で、「このままちっちゃくて、かわいいままの姿でいて欲しい!」と思うのも親心。

でも、悩み苦しみながらも成長しようとする子どもの姿を見たら、なんとかしてあげたいと思うのではないでしょうか。

 

そんな時、親の手で古いはっぱを取り去ろうと思えば、案外簡単にできることかもしれません。でも、「はっぱを手放すまい」とがんばっているちっちゃな木から、無理にはっぱを取り上げてしまうことになります。

 

無理矢理大事なものを捨てられたちっちゃな木は、納得できないでしょう。

もしかしたら、はっぱだけでなく、成長する意欲も生きる気力も奪ってしまうかもしれません。大事なものを奪われ、怒りの矛先を向けてくるかもしれません。

 

幸い絵本の中では、ちっちゃな木から、無理にはっぱを奪う存在はいないようですが、親として子どもにどう接したらよいか、なんだか考えさせられてしまいますね。

 

いかがでしたか?

 

物事には、マイナスとプラスの両面があります。成長をプラスに捉えれば、「キレイで大人っぽくなった」「かっこよくなった」「新しいスキルを手に入れた!」など、変わったことで良い結果が出たことを実感できることでしょう。

 

親子に限らず、さまざまな年代のいろんな立場の人が、絵本を読んで自分を振り返られずにはいられない、そんな1冊です。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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