悲しいニュースに心を痛めたら 絵本『いっしょにおいでよ』
「こんなのっていやだ。どうしたらいいの?」
テレビからは毎日のように心のつぶれるニュースが流れています。国同士や、民族間の争いを目にした子どもたちはどんなことを思うでしょう。子どもたちが小さい頃は特に、伝えるのが難しいことだと思います。ニュースを見て辛くなってしまったら、親子で気持ちを話し合ったり、必要に応じてメディアから少し距離を取ってあげることも大切です。
もし「こんなのっていやだ。どうしたらいいの?」と問われたら、大人はどんな風に答えてあげられるでしょうか。
この絵本は、テロやヘイトスピーチをとりあげて、子どもたちに社会問題を分かりやすく伝える絵本です。同時に、社会の状況に胸を痛める子どもたちへの、大人のサポート方法、向き合い方のヒントを教えてくれます。
世界をすてきなところにするために、できることってなんだろう?
たくさんのひとたちが にらみあって おこっている。
このくにから でていけと、おおごえで どなっている。
せかいのあっちでもこっちでも……。
女の子はテレビのニュースを見ていてこわくなりました。
「こんなのっていやだ。どうしたらいいの?」とおとうさんに聞きました。
すると、「いっしょにおいで」と、おとうさんは女の子を地下鉄の駅に連れて行ったのです。
憎しみあい、傷つけあう人々の姿を見て心を痛める子どもの気持ちを真摯に受け止め、態度で伝えるおとうさんとおかあさん。それが、悲しく固まっていた女の子の心を溶かします。
世界をすてきなところにするために、できることってなんだろう?
どんなちいさなことだって、それで世界も変わるはず。
主人公の女の子は、テレビのテロやヘイトスピーチのニュースを観て、こわくなりました。
「こんなのって いやだ。 どうしたらいいの?」
すると おとうさんが いいました。
「いっしょに おいで」
お父さんは、女の子と地下鉄の駅に行き、ヒジャブを被った女の人と目が合うと、帽子をひょいとあげて挨拶をしました。女の子もお父さんのしたように挨拶します。
この日、女の子とお父さんが乗り越えたのは、人と人の間にある小さな壁。そして自分の心の中にもある小さな壁でした。
また別の日も、テレビは恐ろしいニュースにあふれています。
今度は、お母さんが言いました。
「いっしょに おいで」
マーケットには、いろんな国のいろんな食べ物が並んでいて、にぎやか。
話す言葉が違っても、肌の色がちがっても、みんなおいしいものが好きなんです。
家に帰っていつものように料理のお手伝いをした女の子は、かちんこちんだった心がやわらかくなっていました。
そして、次に女の子は、「わたしにだって、できること あるよね」と、自分自身で考え、外へ出かけていくのです。
『いっしょに おいでよ』って、どんな絵本?
・社会の多様性を、子どもたちにわかりやすく伝えてくれる
現代の社会問題をテーマにした本書は、ニューヨークタイムズ紙で「子どもの共感を広げ、多様性を示す絵本」と賞されました。
日本語版は、訳者・なかがわちひろさんが、日本の子どもたちのために分かりやすい言葉を選び、物語を伝えてくれています。絵はやわらかなタッチで、女の子のいる日常を親しみやすく描いています。絵本には、様々な服装、文化、肌や髪の色も違う人々が描かれ、自然と社会の多様性に目を向けさせてくれます。ニュースや新聞で世界に興味を持ち始めた子どもたちが、家族で話し合うきっかけになる絵本です。
・大人の、子どもへのサポート方法、向き合い方のヒントをもらえる。
絵本のお父さんとお母さんは、ニュースに胸を痛める女の子に真摯に向き合い、「いっしょに おいで」と、女の子の手を取って行動します。
そして、女の子が自分自身で考えて行動しようとしたとき、お父さんとお母さんは、どんな風に反応したでしょう。絵本を開いて見てみてください。
・テロを身近に体験した作家と画家の思いがこもった絵本
作者のホリー・M・マギーさんは、2001年のニューヨークの9.11テロを、画家のパスカル・ルメートルさんは、2016年にベルギーで連続爆破テロを身近で体験した経験をされています。
実際にテロを近くで体験したふたりだからこその、子どもたちへのメッセージが込められています。
巻末の「訳者あとがき」には、絵本(原書)の制作のきっかけや、日本語版制作でのやりとりが書かれていますので、ぜひ読んでみてください。
廣済堂あかつき「世界の絵本」シリーズ
子どもと一緒に世界への窓を開く、おはなし絵本シリーズ。
今回ご紹介した、『いっしょにおいでよ』をはじめ、
現代の社会問題へ目を向けたおはなしや、実在の人物の子ども時代のおはなしなど、幅広く世界の優れた絵本が揃っています。
表紙を開けば、新しい視点・知らなかった世界が待っています。
気になったものから、ぜひ気軽に手に取ってみてくださいね。
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