詩人と画家の描き出す、長くて短い幻想的な夜の世界『ふくろうのオカリナ』
想像が広がる詩的な情景をじっくり味わおう
ここは、ふくろうが駅員を務める野原の小さな駅。
ある夜、最後の列車がだいぶ前に通り過ぎた時間、
カンカンカン……
踏切の信号の音がして、くらやみの中を来るはずのない一両の列車がやってきました。
列車に乗っていたのは1羽のひよこ。「朝を探しに来た」という迷子のひよこに、ふくろうは代々うちに伝わるオカリナを吹いてあげました。
ふくろうのオカリナは、ときには月と星まで動かしてしまう特別なオカリナです。
もともと20曲以上あった曲は、おじいさんのそのまたおじいさん、おじいさん、おとうさんへと、受け継がれるうちに伝わった曲の数が減っていき、ふくろうがおとうさんから教わって覚えることができたのは5曲だけでした。
ふくろうはいつも、その5曲だけでもうまく吹けるようでありたいと思っていました。
ぶおお、ぶぉ、ぶおおーー。
<月の船>という曲を吹くと、オカリナの音に、月から「うさまる」も降りてきて……。
朝がくるまでの時間。不思議な夜の出来事。
静かな夜にひびくオカリナの音に耳をすましたくなります。
『ふくろうのオカリナ』って、どんな絵本?
・詩人・蜂飼耳と、画家・竹上妙の初コラボレーション
詩人で作家の蜂飼耳さんは、『うきわねこ』(ブロンズ新社)や「イソップえほん」シリーズ(岩崎書店)など、たくさんの絵本も手がけています。
竹上妙さんは、気鋭の版画家・画家。絵本作家としてのデビュー作『マンボウひまな日』(絵本館)に続く2作目の絵本となる本作は、蜂飼耳さんとのタッグで制作されました。
蜂飼 耳(はちかいみみ)
詩人・作家。1974年神奈川県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。詩集に『いまにもうるおっていく陣地』(中原中也賞)、『食うものは食われる夜』(芸術選奨文部科学大臣新人賞)、『顔をあらう水』(鮎川信夫賞)など。絵本に『ひとり暮らしののぞみさん』(絵・大野八生)、『エスカルゴの夜明け』(絵・宇野亜喜良)、『うきわねこ』(絵・牧野千穂、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞)、『ゆきがふる』(絵・牧野千穂)、ほかに翻訳絵本や「イソップえほん」シリーズなどがある。童話作品に『のろのろひつじとせかせかひつじ』(絵・ミヤハラヨウコ)、『クリーニングのももやまです』(絵・菊池恭子)、編著のアンソロジー詩集『大人になるまでに読みたい15歳の詩③なやむ』『同⑥わらう』がある。
竹上 妙(たけがみたえ)
版画家・画家。1986年東京都生まれ。和光大学表現学部芸術学科卒業。2007年、長野で牛にかこまれた時の衝撃から、生き物と目が合った瞬間「見たら見られた」をテーマに木版画を制作し、個展やグループ展で発表してきた。2008年全国大学版画展(町田市国際版画美術館)観客賞、2009年熊谷守一大賞展(中津川市主催)佳作、2011年同奨励賞受賞、2013年入選。2017年『マンボウひまな日』で絵本デビュー。
・言葉と絵で、幻想的な夜の情景を味わおう
「ふぉう、ふぉう」というふくろうのためいき、夜空に「まるでしんぞうがみゃくうつように、ぱちっ、ぱちっと、またたいて」いる星たち。オカリナの音にまじる夜の風。
蜂飼耳さんの文章から、情景や色のイメージが広がって、不思議な夜の世界に引き込まれます。登場するキャラクターたちの言動や会話に滲む何とも言えないおかしみも、このおはなしの魅力のひとつ。詩人の紡ぐいきいきとした言葉を、じっくり味わいたい作品です。
そして画家・竹上妙さんの手による、ふくろう、ひよこ、うさまるや野原の虫たち。鮮やかに力強く描き出された絵は、鮮烈! ハッとするような生命力が心に残ります。夜の深い青、月の光、野原に輝く朝日の美しさもぜひ本を開いて堪能してください。
・オカリナの曲を想像して楽しもう
ふくろうのオカリナのレパートリー全5曲は、<野ばら><森のおどり><月の船><だだちゃ豆><ガラスのパイナップル>。
おはなしの中で登場する曲たちは、タイトルだけでも想像を掻き立てられます。
たとえば<だだちゃ豆>は、こんな風に説明されています。「豆の一生をえがいた曲です。豆がはじけて、こぼれ、土におちて、芽を出し、そだち、また豆をつける。そんな曲でした。」
おはなしの中でふくろうが吹く(ちょっとまちがえたりもする)それぞれの曲が、どんなテンポのどんなメロディーの曲なのか、想像したり、話し合ってみると楽しいですね。
詩人と画家の贅沢なコラボレーション。子どもから大人まで楽しめて、心に忘れられない余韻を残す一冊です。
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