いつの時代も変わらない母の想いに涙する「おかあさんの木」。映画でも原作でも。
映画『おかあさんの木』の公開が、6/6(土)から始まりました。
こちらは、最初の刊行から40年以上にもなる大川悦生さんによる戦争児童文学『おかあさんの木』が原作。これまでたびたび小学校の国語の教科書に掲載されたとあって、懐かしいという方も多いでしょうか。一方で、今回初めて出会う方も少なくないかも?!
●「おかあさんの木」は実はとても短いお話だった!
読み始めて驚いたのは、「おかあさんの木」が12ページほどのとても短いお話だったということ(※ポプラ文庫版)。1冊まるまる「おかあさんの木」のお話かと思いきや、全部で8編のお話が収録されている。描かれるのは、表題作ほか、東京大空襲、広島の原爆、シベリア抑留、玉砕の島に生きた人々や子どもたちの血の通ったリアルな姿。短いながらも1編1編読みごたえがあり、どのお話も深く心に残る。そして40年以上前に書かれたとは思えない文体、言葉遣いの分かりやすさ。『ひこいちばなし』『三ねんねたろう』などの民話を生み出し、民話の研究者としても活躍された大川悦生さんならではの優しい語り口は、読み始めた途端にすっーと体に入り込んでくる。
●後半に明かされる「おかあさんの木」に隠されたもう1つの意味とは?
昭和12年、七人の息子が次々に、陸軍や海軍、兵隊にとられていく。その時、おかあさんは何と思っただろう。息子たちが兵隊にとられるたびに、裏の空地へ、キリの木の苗を一本ずつ植えて<一郎><二郎><三郎>と名前をつけ、まるで息子がそこにいるかのように声をかけ世話をする。ここで「おかあさんの木」というのは、おかあさんが息子の代わりに手をかけて育てた大切な木のことだと解釈するのだが、後半には、また違った視点でこの「おかあさんの木」の意味が立ち上がってくる。お話を最後まで読み終えた時、なんともいえない深い感慨と命の繋がりが胸に迫る。
●40年以上も読み継がれる理由とは…?
胸打たれるのは、いつの時代も変わることのない、おかあさんの息子に対する深い情愛。原作でも映画でも、同じ親の立場から、また子どもの立場から、誰もが思わず涙してしまうのではないだろうか。はじめは、「ひきょうなまねはせんと、お国のために手柄を立てておくれや」と木に語りかけていたおかあさんは、一郎の死の知らせが来てからは、「二郎も、三郎も、四郎もな、一郎にいさんみたいに死んだらいけん。手柄なんて、立てんでもいい。隊長さんにほめられんでもいい。きっと、生きて帰っておくれや。」と語るようになる。ただただ生きて帰ってきてほしい、という切なる祈りに胸が締めつけられる。
年齢別におすすめしたい、さまざまな形態の原作。
小学生が自分で読むなら、ポプラ社ポケット文庫版で。難しい漢字にはふりがなが付いているので、小学校中学年ぐらいから読めます。
小学校低・中学年の子に読んであげるなら、字の大きいハードカバー版がおすすめ。現在は品切で購入することはできませんが、公共図書館や学校図書館では必ず揃えてある名作です。
今年は、戦後70周年という節目の年。けれども何から子どもたちに伝えようか、大人も何から見つめ直そうかと考えているなら、まず映画化で話題となっている『おかあさんの木』が、いいきっかけとなりそうですね。
今年は他にも各出版社から、ぞくぞくと新しい作品や作品集が出版されています。長く読み継がれているロングセラーから新刊まで、さまざま戦争児童文学を読んでみませんか。
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