<クリスマスに読みたい絵本> 大人に贈りたくなるクリスマス絵本
クリスマスを迎える夜に起こった奇跡とは…?
切なく美しく、心があらわれるようなお話を本当に味わえるのは、
もしかしたら大人の方かもしれません。
プレゼントと一緒に添えたくなるようなクリスマスの絵本をご紹介します。
お互いを想い、一番大切な宝物を手放してしまう夫婦の愛の絵物語
若くして夫婦になったジムとデラは、貧しくも互いを愛して暮らしていました。
ジムの宝物は祖父から父へと代々伝わる金の時計、デラの宝物はその美しい髪の毛でした。
クリスマスの前日、デラはそれまで生活を切り詰めてきたにもかかわらず愛する夫にプレゼントを買うだけのお金がないことを嘆き、自慢の美しい髪を切ってかつら屋に売ってしまいます。そしてそのお金で、ジムにぴったりのプレゼント -金の時計につけるプラチナの鎖- を買ったのでした。
ジムは家に帰ると、デラの姿を見て・・・怒りでも、驚きでも、不満でも、恐怖でもない、複雑な表情をしました。ジムがデラに用意したプレゼントは、デラがあこがれていた、美しいくしだったのです。
そのくしがとかすべき美しい髪はもはやありません。
それでもデラは感激し、ジムにプレゼント-金の時計につけるプラチナの鎖-を渡します。
ところがジムは、デラにくしをプレゼントするために、自慢の金の時計を売ってしまっていたのでした。
最後はぐっとこみあげるものが……
以前に短編の名手と言われたオー・ヘンリーの短編集を文庫本で読んでいたので内容は知っていました。またこの話は数あるオー・ヘンリーの短編の中でも、「最後のひと葉」と並んで最も有名なものです。
でも読んでいるうちに(妻の髪が切られたのを夫ジムが見るあたりから)ぐっとこみあげるものがあって、何度読んでも最後のほうはメロメロになってしまうのは、年を取ったせいなのかななどと考えてしまいます。
お互いのクリスマスプレゼントのために自分たちの最も大切なものを売ってしまい、一見無駄に終わってしまったのは愚かな行為だが、彼ら夫婦こそ最も賢い贈り物をしたのだという最後の部分には納得ですね。
子どもの通う小学校で読み聞かせをやっているので、この本も読んでやりたいとは思いますが、今のところちゃんと読む自信がありません。
(オカズさん 50代・パパ 女の子21歳、男の子18歳、男の子9歳)
クリスマス前夜、サンタを信じる子だけが体験する不思議な旅を描いた絵本
雪の降るクリスマスイブ、サンタクロースを信じる僕のもとに現れたのはま真っ白な蒸気に包まれた汽車、急行「北極号」。その不思議な汽車に乗り込むと、車内は僕みたいなパジャマ姿の子どもたちでいっぱいだった。こうして、「北極号」の幻想的な旅が始まった。
冷え冷えとした暗い森を抜け、月をかすめそうなほどの高い山を越えて汽車は北へ北へと進み、到着した所は北極点。そこではクリスマスのおもちゃが全部作られている。そして、サンタクロースから選ばれた一人の子どもが「クリスマスプレゼントの第一号」を手渡されるという……。
鬼才オールズバーグのクリスマス絵本。サンタクロースを信じる少年の奇跡が北極点の町に繰り広げられます。パステルで描かれた幻想的な光景は、抑えた色調であるにもかかわらず美しく輝いていて息をのむほどです。北極号のライト、狼の森、月夜の山肌、北極点の町灯りなど、イラストの神秘的な陰影の存在は、作品の静けさをさらに深めています。
小人たちで湧く北極点の町は、子どもたちの夢の結晶かもしれません。凍てつく空気の中に見えるぼうっとした灯りは心に染み入り、そりの上から見下ろす町の風景はクリスマス気分を掻き立てます。
少年がサンタクロースからもらった小さな鈴は、何を象徴するのでしょう。この鈴の音がいつまでも聞こえるようでありたい……とは誰もが願わずにはいられないことですね。作者のメッセージは、最終ページの銀の鈴にひっそりと寄り添っています。1986年米国コルデコット賞受賞作品。
「これだぁ~!」って、言う感じです
『くるみわり人形』は、チャイコフスキーが、バレエの台本にマリウス・プティパ(デュマの仏訳を使用)に依頼し、それが一人歩きし、バレエのステージ毎に脚色が変わり、クローズアップされるストーリーの山もそれぞれ微妙に異なります。
この絵本は、原作ホフマンの『くるみ割り人形とネズミの王様』に、近づけられた作品だという印象です。
ドイツの古い町。
クリスマスの日。
主人公シュタルバーム家のマリーの父親の友人ドロッセルマイヤーおじさんが、今年も素敵なプレゼントを。
兵隊の姿の胡桃割り人形。
マリーの喜びもつかの間、兄のフリッツが乱暴に扱い、人形はこわれてしまい…。
壊れた胡桃割り人形と眠ったマリーが夜中に目を覚ますと…。
ここから、夢かうつつか境界の霞んだ世界です。
読みながら、どんどん胡桃割り人形の身の上話に引き込まれていきます。
後半の(バレエの舞台ではクライマックスとも言える)お菓子の国への招待のシーンは、やはり子ども心を惹き付けます。
ラストをあっけないと見るか、クリスマスの夜にみた素敵なファンタジーの世界の余韻を楽しむページと見るかは、読者によって取り方が異なるかと思います。
中井貴恵さんの訳が柔らかく、ゆっくりと落ち着いて穏やかに読み進められます。
いせ先生の大ファンの私にとっては、夢の実現という作品です。
女の子には おねえさん になっても お母さん になっても、 おばあさん になっても、この時期に読み楽しめる名作だと思います。
今年のクリスマスのプレゼントに友人のお嬢さんに贈ります。
(アダム&デヴさん 50代・ママ 男の子11歳)
「子どもに愛されたおもちゃは いつかほんものになれる…」
古典的名作と言われ世界中で愛されてきたお話「ビロードうさぎ」、そのお話を酒井駒子さんが絵本にすると言う。
聞いてすぐに納得してしまうのは私だけではないはず、酒井駒子さんの描く世界と「ビロードうさぎ」のイメージがぴったり重なるのです。そして予想を裏切らない傑作の完成。
クリスマスに男の子の家に来たビロードでできたうさぎのぬいぐるみ。男の子は毎晩うさぎと一緒に寝たり、一緒に遊んだり、それはそれは大事にしてくれたのです。ぼろぼろになってもうさぎは幸せでした。それは「男の子のほんもののうさぎ」になったと感じていたから。ところが別れは突然やってきて・・・。うさぎの考える「ほんもの」とは?そしてうさぎの身に起こる奇跡とは?
なんと言っても酒井さんが描くビロードのうさぎの質感がたまらない!つぶらな瞳で今にも動き出しそうなぬいぐるみだからこそお話にリアリティーと深さが出てくるのかもしれません。そして言うまでもなく男の子とビロードのうさぎが触れ合う場面は秀逸、いつまで眺めていても飽きません。愛らしくて切なくて、でもしっかり前を向いているこのお話。繰り返し絵本を開いてしまうのは子ども達だけではないでしょうね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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