【第2回】150年の時を超えて。ビアトリクス・ポターが残したもの
「ビアトリクス・ポター 生誕150周年 ピーターラビット展」が、8月9日から東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでスタートしました。
初めてやってきた貴重な原画や作品も含めその数はおよそ200件以上…作者ビアトリクス・ポターの誕生150年を記念し、日本ではこれまでにない規模の展覧会となっています。
今回は、特別にお邪魔させていただいた内覧会の様子を、展覧会の見どころとともに徹底レポート。会場にはオフィシャルサポーターのあの方も登場!
これから行く予定の方も、まだ迷っている方も、ひと足はやくピーターラビットの世界へお連れします!
いよいよスタート!「ピーターラビット展」 内覧会レポート
いよいよ待ちに待った一般公開を翌日に控えた2016年8月8日。東京渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでは「ピーターラビット展」オープニングセレモニーが開かれました。
花々に囲まれたイングリッシュガーデンを思わせる舞台、登場したのは…この展覧会のオフィシャル・サポーターであるディーン・フジオカさん!
真っ白なスーツ姿に優しい笑顔がまぶし過ぎるディーンさんにエスコートされ、お尻を振り振り愛嬌たっぷり、ぬいぐるみのピーターも登壇です。
「さぁ、物語の始まりです。ピーターラビット展、開幕です」
ディーンさんの開会宣言とともに、国内最大規模となる歴史的な「ピーターラビット展」が幕を開けました!
会場に一歩入ると、まるでイギリスの家を訪れたよう。ピンクや水色のパステルカラーの壁には原画やスケッチが美しく展示されています。
また『ピーターラビットのおはなし』に登場するかかしや、『ジェレミー・フィッシャーどんのおはなし』でフィッシャーどんがボートにするスイレンの葉っぱなど、名場面をイメージした立体のオブジェが空間の真ん中に。
おはなしの世界にいるような気分で原画を鑑賞できる、ステキな演出がいっぱいです。
第1章 「ピーターラビット」誕生ストーリーをたどって
今回の原画展の大きな見どころは『ピーターラビットのおはなし』誕生のきっかけとなった絵手紙、そして1901年にビアトリクス自ら出版した私家版の原画を、同時に見比べられること。
病気で寝込んでいるかつての家庭教師の息子を励ますために描かれた小さなおはなしは、私家版になるときには、挿絵が17枚から43枚に増え、色つきの口絵も加えられました。徐々に命が吹き込まれるように、世界中の人々に愛される名作へと昇華していく過程をたどれるのは…この展覧会ならではの贅沢な体験!
なかでも注目は、私家版の口絵です。ふとんをかぶっているピーターにおかあさんが「薬を飲みなさい」とすすめている原画、一見すると絵本とまったく同じ構図の同じ口絵なのですが…よーく目を凝らすと、ちょっとだけちがいがあることに気付くはず。ぜひ絵本を片手に、見比べてみてくださいね。
(ヒントは…ピーターのおかあさんの洋服!)
第2章 大好きなあの仲間に会える!絵本の原画たち
初めて日本にきた絵本シリーズの原画にも数多く対面することができます。
『ベンジャミン バニーのおはなし』をはじめ『リスのナトキンのおはなし』『ティギーおばさんのおはなし』『あひるのジマイマのおはなし』『こぶたのピグリン・ブランドのおはなし』…シリーズ20作品を超える絵本の水彩原画を一度に鑑賞できる機会、ファンのみなさんにはたまらないひと時となるはずです。
原画を観て驚いたのが、その小ささ。手のひらサイズの絵本に合わせて描かれた小さく繊細な世界、でもその中でのびのびと豊かに生きている動物たち。
ビアトリクスの絵からは、彼らの息吹がしっかりと伝わってきます。
個人的に感動したのは『モペットちゃんのおはなし』や『こねこのトムのおはなし』に登場するねこたち。うさぎはもちろんですが、ビアトリクスの描くねこも、とっても愛らしいのです。
『こねこのトムのおはなし』でおかあさんがトムの顔を洗っている挿絵。「ほらほら、じっとしていて」というおかあさんのしぐさ、くすぐったそうにちょっとのけぞるトムの表情は、まるで人間の親子のやり取りを見ているようで本当に微笑ましいんですよ。
第3章 ビアトリクス・ポターが愛したもの
ヒルトップ・ファームの農家をイメージした第3章のセットへ歩を進めると…
登場するのは、今回初来日したビアトリクス・ポターの愛用品。150周年という節目でようやく許可が得られ、初めてヒルトップ農場から貸し出されたものがあるんです。
大切に使っていた眼鏡やライティング・デスクなど、在りし日のビアトリクスの姿に思いをはせたくなる、不思議な空間です。
やっぱり見逃せない!展覧会限定グッズ
展覧会といえば、そしてピーターラビットいえば、目が離せないのがグッズですよね。何よりの楽しみにされている方も、きっと多いはず!
今回の展覧会では食器、ファッション雑貨、食べ物などオリジナル限定品を含めて計300点以上が販売されています。
クラシカルなイメージのあるピーターラビットですが、これまでにない色遣いの文房具や、シンプルな線描画をあしらったTシャツなど若い人たちも楽しめるオシャレなグッズがいっぱい、テンションが上がりっぱなしです。
なかでも目玉は、コラボ商品。「ROOTOTE(ルートート)」とコラボした普段使いにぴったりのトートバッグや、 定番のピーターのぬいぐるみのようでよく見ると、耳がリバティ柄!といったさりげなく凝ったものまで。
記念に、お友だちへのギフトに、そして自分へのごほうびに。とっておきのピーターラビットグッズを見つけてくださいね。
「ピーターラビット展」見どころは?展覧会監修の先生に聞きました!~後編~
国内最大規模となる今回の「ピーターラビット展」。
監修をされている大東文化大学教授・河野芳英先生に聞く、その見どころや知られざるビアトリクス・ポターのエピソードなど…読んでおけば200%展覧会を楽しめるおはなし、続編です!
前編はこちら
>>【第1回】「ピーターラビット」は、一通の絵手紙から生まれました。
―今回の展覧会では、第一章から二章にかけて、ピーターラビットが誕生するきっかけとなった絵手紙や私家版『ピーターラビットのおはなし』、そして貴重な絵本原画と、ビアトリクス・ポターの作品の世界をたっぷりと堪能していくことができますね。
第三章では、ビアトリクスが大切にしていた調度品や愛用品が登場するそうですが、どんなものなのでしょう?
河野先生:
絵本『ピーターラビットのおはなし』出版から3年後の1905年、ビアトリクスはかねてから気に入っていた湖水地方のヒルトップ農場を購入しました。
彼女は77歳でこの世を去りますが、遺言どおり、その遺品はこれまでヒルトップ農場から外に貸し出されることは一切ありませんでした。生誕150年目という節目の今回の展覧会では、ビアトリクスが愛用していた木底靴、父・ルパードが絵付けしたお皿、お気に入りの人形など、ビアトリクスが生涯大切にしていた品々が初めてやって来ました。
これらに日本で対面できることは、本当に貴重な機会です。
河野先生:
ビアトリクスは、絵本作家という枠にとどまらない、実に多彩な才能を持った女性でした。
たとえば、1904年にドイツ・シュタイフ社から発売された二本足で立つピーターラビットのぬいぐるみ。絵本のキャラクターをぬいぐるみにするという企画を立てたのは、ビアトリクスが初めて、とも言われています。
彼女は自分でぬいぐるみの写真を撮って特許局に申請し、許可まで取りました。
河野先生:
ぬいぐるみのほかにも、ビアトリクスがプロデュースしたウェッジウッド社製の陶器、ボードゲームなど、当時の貴重なアンティークグッズが登場します。
―この時代に絵本の制作にとどまらず、キャラクターを商品化していたなんて…マルチプロデューサーのさきがけですね!
なぜ、こんなに積極的にさまざまなことに取り組んでいたのでしょうか?
河野先生:
やっぱり…お金が必要だったんだと思います。そのお金とは、裕福に暮らすためのものではありません。
ビアトリクスが16歳の頃、後に英国ナショナル・トラスト設立の主要メンバーとなる、ローンズリー牧師に出会います。
近代化による開発がどんどんと進む中で、湖水地方の豊かな自然は自分たちの手で守らなくてはいけない、そのためには土地を購入し自分たちのものにしないと守れないんだというローンズリー牧師の言葉に強く影響を受けました。長じて彼女は、ナショナル・トラストの活動に参加し、土地購入の資金を得るためビジネスにも積極的にかかわっていきました。
実際、ヒルトップ農場での彼女の暮らしはとても質素なものでした。電気も全ての部屋には入れなかったし、数多くの車を所有したり着飾ったりするような生活は決してしていませんでした。
ただヒルトップ農場の家畜が口蹄疫(※)にかかった時には、薬を購入するためにかなりお金を使ったそうです。
自然を守り、農場を経営するためのお金は、惜しまなかったようですね。
(※)口蹄疫ウイルスが原因で家畜(牛、豚、やぎなど)や野生動物がかかる病気。伝染力が非常に強く、子牛や子豚だと死亡する場合もある。
―遺品を貸し出していはいけないという遺言を残したり、自然を守るために力を注いだり。
「変わらない」ことへこだわり続けた理由には、ビアトリクスのどんな思いがあったのか、気になります。
河野先生:
豊かな自然を壊したくないという気持ちが一番だと思いますが、その背景には彼女の作品への強い思いもあったのではないでしょうか。
自然が変わらずにあり続けることで、湖水地方の美しい風景が描かれた「ピーターラビット」シリーズも人々に長く愛されていく。自然が残れば、文学も後世まで必ず残っていく、そんな信念があったのだと思います。
―先生から見て、ビアトリクス・ポターはどんな女性だったと思われますか。
河野先生:
夢を実現するために「あきらめない人生を送った人」、そんな風に感じています。
私家版の出版から、30歳を過ぎてようやくつかみとった絵本作家としての道。
同時に両親から猛反対をされていた編集者ノーマン・ウォーンの婚約直後との突然の死から、彼女は精神的にとても強くなっていきました。
ビアトリクスは若い頃から長く日記を綴っていましたが、ノーマンが亡くなった時の記述だけは、見つかっていないんです。
ですから彼女がこの頃どんなことを感じていたのか、読み解くことはできないのですが、相当なショックであったと思います。ノーマンの死から間もない3ヵ月後に、ビアトリクスはヒルトップ農場を購入しているんです。かねてからここで農場経営をしようとノーマンと約束していたことも、彼女の背中を押したのかもしれません。
ノーマンが亡くなってからさらに、ビアトリクスは自分の人生を自分の手で切り開いていったように思います。
―ビアトリクスの願い通り、日本でも若いころにピーターラビットに触れた方々が親となり祖父母となり・・・二世代三世代にも渡ってピーターラビット作品は読み継がれていますね。
河野先生:
『ピーターラビットのおはなし』の出版が決まった時に、ビアトリクス・ポターが出版社フレデリック・ウォーン社に主張したことが3つあるんです。
印刷では挿絵のカラーをしっかりと出してほしい、購入しやすい金額で販売してほしい、そしてもう一つは、手のひらサイズの絵本にしてほしい、というもの。
僕が思うにビアトリクスは、子どもが手に持って読むのにちょうどいい絵本の大きさにこだわったのではないかと。また大人が子どもを膝にのせて、一緒に読むのにちょうどいいサイズに。
ビアトリクスが望んだように、これからも多くの大人たちが子どもに「ピーターラビット」シリーズを読み聞かせてあげてほしいと思います。
そして今回の展覧会では、ぜひお子さんもお孫さんもいっしょに、絵本で親しんでいるピーターラビットの世界を楽しんでください。
―どうもありがとうございました!
ここに気づけば、もっとおもしろい!「ピーターラビット」シリーズ
「おはなしばかりでなく、実は挿絵こそ、目を凝らしてじっくり味わってほしい」
そう河野先生が語る「ピーターラビット」シリーズ。
挿絵にはビアトリクス・ポターの遊びごころが、各場面にさりげなく、ちりばめられているそうなんです。
読んだことがある人も、これまでと違う視点でもう一度、絵本を楽しんでみてくださいね!
「ベンジャミンバニーのおはなし 新装版」
『ピーターラビットのおはなし』でマグレガーさんの家の畑で上着を脱ぎ捨ててしまったピーター。翌日、その上着をマグレガーさんの畑のかかしが着ていることに気づき、いとこのベンジャミン・バニーとともに取り戻そうとします。服が汚れてしまうので梨の木をつたって畑に入り込んだ方がいい、そんなベンジャミンのアドバイスにしたがったピーターですが・・・ずとん!頭から地面に落っこちてしまうのです。
このシーンで思い出すのは・・・子どもたちになじみ深い英語の童謡(マザーグース)に登場する「ハンプティ・ダンプティ」。ハンプティ・ダンプティはたまごなので割れてしまったけれど、ピーターはだいじょうぶでしょうか・・・?
ビアトリクス・ポターが込めた、もう一つのメッセージを思い浮かべて読むとおもしろさが増す場面です。
「パイがふたつあったおはなし 新装版」
ある日、ねこのリビーはいぬのダッチェスをお茶会に招待します。だけどリビーが、大嫌いなねずみのパイをごちそうとして用意していると思ったダッチェスは・・・勘違いと入れ違いで思いがけない方向におはなしが展開していく『パイがふたつあったおはなし』。
最後の場面には、家の裏庭で自分が作ったものではないパイの焼き型を見つけて、唖然とするリビーの姿が描かれています。その後ろを、よーく見てみると・・・畑の真ん中に、青い上着を着た、かかし!?そう、これはピーターのもの、ベンジャミン・バニーと必死に取り戻そうと奮闘していた上着です。リビーの家の後ろは、マグレガーさんの畑だったんですね。
そしてこの絵から、実はリビーとダッチェスのお茶会は『ピーターラビットのおはなし』の次の日のできごとであることもわかります。
お話をしてくれたのは・・・
河野 芳英 先生
大東文化大学・英米文学科教授。専門はイギリス児童文学、特にビアトリクス・ポター研究。1989 年、1999 年、2009 年に、オックスフォード大学ペンブローク・コレッジに長期客員研究員として滞在。「英国ビアトリクス・ポター協会」リエゾン・オフィサー、「大東文化大学ビアトリクス・ポター資料館」運営委員。主要論文などに「Early Japanese Translation」(The Beatrix Potter Society)、『ビアトリクス・ポターが残した風景』(メディアファクトリー)、『英語で楽しむピーターラビットの世界』(監修:ジャパンタイムズ)など。
開催概要
ビアトリクス・ポター生誕150周年 ピーターラビット展
【会期】2016年8月9日(火)~10月11日(火)※会期中無休
【会場】Bunkamura ザ・ミュージアム
【開館時間】10:00~19:00(入館は18:30まで)
※毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
【本展監修】河野芳英(大東文化大学・英米文学科教授)
【お問い合わせ】ハローダイヤル 03-5777-8600
【オフィシャルHP】http://www.peterrabbit2016-17.com/
展覧会は東京会場の後、福岡、仙台、大阪、広島、名古屋の各会場に巡回します。
チケット情報
一般
(当日)1,400円 (団体)1,200円
大学・高校生
(当日)900円 (団体)700円
中学・小学生
(当日)600円 (団体)400円
※団体は20名様以上。電話でのご予約をお願いいたします。(申込み先:Bunkamura Tel.03-3477-9413)
※学生券をお求めの場合は、学生証のご提示をお願いいたします。(小学生は除く)
※障害者手帳のご提示で割引料金あり。詳細は窓口でお尋ねください。未就学児は入館無料。
当日チケット販売場所
●オンラインチケット MY Bunkamura
●Bunkamuraチケットセンター
●Bunkamuraザ・ミュージアム
●ローソンチケット(Lコード:38880)
●チケットぴあ(Pコード:767-517)
●e+(イープラス)
●CNプレイガイド
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ビアトリクス・ポター生誕150周年 ピーター・ラビット展
ピーターラビットの絵本
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