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【夏フェア 読み物】戦後73年、子どもたちに戦争をどう伝える?

 

2018年は、戦後73年の年。戦争を体験した世代が年々高齢化する中で、のちの世代に戦争体験を伝え、平和への強い祈りを引き継いでいこうという気運が高まっています。

しかし、戦争を全く知らない、あるいは知識として文字情報しか知らない子どもたちに、どのように戦争を伝えていけば良いのでしょうか。私はその答えのひとつとして、文学があると思います。なぜなら文学は、実際に自分が体験したことでなくとも疑似体験ができるからです。
 

子どもの文学の世界でも、絵本、物語、エッセイ・・・と、絵本作家、児童文学作家たちが渾身の思いで戦争を伝える本を生み出しています。今回は、その中でも、子どもが主人公となり、子どもの目線から戦争の実体を浮かび上がらせているお話を3冊ご紹介します。
 

もし、今戦争が起きたら、何がどう変わってしまうのか? 毎日の暮らしは? 家族は? 友達は? 自分と年が変わらない主人公たちが感じた戦争とはどんなものだったのか。今、子どもにも大人にも必要なのは、そうしたことを具体的に自分事として想像するチカラなのではないでしょうか。

大人の方もぜひ一緒に読んでみて下さい。

子どもの目線から戦争を見たら・・・?子どもが主人公の戦争体験物語

まずご紹介したいのは、2018年3月26日に、児童文学のノーベル賞といわれる「国際アンデルセン賞」作家賞を受賞された、角野栄子さんによる戦争物語です。太平洋戦争中の角野さんご自身の体験をもとに紡がれたお話なのですが、この本を読むと、「魔女の宅急便」シリーズや「小さなおばけ」シリーズなど、楽しくて明るいお話を書かれている角野さんのイメージがガラリと変わります。また、子どもにとってのファンタジーの意味、大切さが胸に響き、角野さんのファンタジーに対する思いの深さが感じ取れる1冊でもあります。

『トンネルの森 1945』

トンネルの森 1945

『魔女の宅急便』の著者 角野栄子が、自らの戦争体験から描き下した、憫然で、美しい、珠玉の物語。


1945年。少女はたった一人で世界と戦っていた。

太平洋さなか、幼くして母を亡くした9歳のイコは父の再婚相手になじめず、東京本郷の祖母の家で暮らしていた。
戦況悪化に伴い、父のすすめで新しい母とまだ生まれたばかりの弟の三人で、千葉の小さな村へ疎開することになる。村の学校へ通うには、家のそばの暗くて大きな森を抜けていかなくてはならない。

「あの森で脱走兵が自殺したって」ー

学校で噂になるが、ある夜森の奥からハーモニカの調べが流れてくる。
慣れない田舎の生活、他人行儀な母娘関係、悪化する食糧事情が、戦争が、イコたちを苛む。

そこへ、徴用された父のいる東京が大空襲で壊滅したという報せが届いて…。
耐え難い孤独感と飢餓感はトンネルの森のように覆いかぶさり、押しつぶされそうになった時、少女は兵隊の影を追いかけ森に入るが……。

『ガラスの梨 ちいやんの戦争』

次にご紹介するのは、「ちいやん」という愛称でかわいがられていた、小学3年生の女の子笑生子(えいこ)の目から見た戦争体験のお話です。作者である越水利江子さんの実のお母様が大阪大空襲に遭った時のことをモデルとして描かれました。

あとがきに書かれている越水さんの次の言葉が実感のこもったメッセージとして、心に強く残ります。「ずっと昔の戦争だと思えるあの時代は、まぎれもなく今このときにつながっているのを、わたしは物語を書く作業の中で強く感じました。あのころがどんなにむごい時代だったとしても、あのころはたしかに今につながって、未来へもつながっていくのです。では、これからのわたしたちの未来はどうあるべきでしょうか?」

ガラスの梨 ちいやんの戦争

親子で読んで語り合ってほしい。
戦争のこと、家族のこと、このさきの平和について。

大阪で暮らした著者の母親をモデルに、大阪大空襲で市井のひとびとが味わった悲しみを鮮烈にえがく! 今こそ読んでほしい本格的戦争児童文学!

昭和16年。小学3年生の笑生子(えいこ)は、大阪の新千歳国民学校に通う女の子。「ちいやん」と呼ばれて、かわいがられている。働き者の両親と、京都に住む長女の澄恵美(すえみ)、今は家庭を持って別に暮らしている厳格な長男の正義、いつでも心やさしく家族を助けてくれる次男の成年、電車の車掌をしているモダンでマイペースな次女の雅子、わがままだけど愛嬌いっぱいの弟の春男という大好きな家族に囲まれて、しあわせに暮らしていた。しかし、ひたひたと戦争の影がしのびより、笑生子の日常を少しずつ違うものに変えていく。大好きだった成年の戦死、成年が手伝っていた動物園の閉鎖、建物疎開で離ればなれになってしまった仲良しの千代ちゃん……そして、恐ろしい大空襲。戦争は笑生子から少しずつかけがえのないものを奪っていく。

どんな苦しい毎日でも生きていこうとする人間のたくましさと、その命のつながりによって今のわたしたちは生かされていること、そして、この戦争の悲劇を二度と繰り返してはならないことを訴える。

『ぼくは満員電車で原爆を浴びた 11歳の少年が生きぬいたヒロシマ』

最後は男の子向けに、11歳の少年の戦争体験記を。この本は、著者である米澤さんが11歳の時の少年の目で見た、8月6日その日のことと、その後何が起こったか、という記録です。

当時、同じ広島でも広島駅から十キロ以上離れた山奥に疎開していたにも関わらず、原爆が落ちた1945年8月6日の朝8時頃に、たまたま広島市内へ向かう満員電車に乗っていて、そこで被爆してしまったという米澤少年。その日の壮絶な体験に、まず驚かされます。

ぼくは満員電車で原爆を浴びた 11歳の少年が生きぬいたヒロシマ

伝えたい少年原爆体験記。11歳のヒロシマ
 広島に原爆が落とされたのは、1945年8月6日でした。11歳の米澤鐡志さんは、爆心から750メートルの電車内で母親と一緒に被爆します。母親は9月に亡くなり、母乳を飲んでいた1歳の妹は10月に亡くなります。
 この本は、米澤少年の目で見た、8月6日その日のことと、その後何が起こったか、という記録です。

 ブラウスが突然発火して、体が焼け始める女性、皮膚が布地のように垂れ下がって、幽霊のように見えた人たち、防火水槽に飛び込んで亡くなっている赤ちゃんを抱いた女性、川を流れていくたくさんの死体。
 11歳の少年が見た光景を、読者も知ることになります。
 
 「どんなにつらい記憶でも、知らないよりは知ったほうがいいと私は思います。本書は読むのも苦しい内容ですが、きっと未来のための知恵を与えてくれるでしょう」(京都大学原子炉実験所 小出裕章さんによる「はじめに」より)。

 原爆や核についてお子さんと考えるとき、最適の1冊です。
編集者からのおすすめ情報 米澤さんは「語り部」として、被爆体験講話を全国各地で行っています。爆心地1キロ以内での体験の迫力に、米澤さんの「語り」を聞いた人たちは、誰かに伝えなくては、という思いにかられてしまうのだそうです。

 これまでたくさんあった、本にまとめる誘いをすべて断ってこられましたが、
2011年3月の東日本大震災での福島原発の事故と、ふるさとを追われた福島の人々を見て、考えが変わり、広島を体験して生き残った自分の役割として、体験を本の形に残して、これからも多くの人に読んでもらいたい、と思ったのだそうです。

 そのころ、この本の文章を担当した由井りょう子さんとの出会いがありました。由井さんは、米澤さんの話を聞き「本にまとめましょう」という提案をします。米澤さんは、本のために追加取材を受けることを決めました。

 この本は、これまで米澤さんの「語り」を聞いたことのある人にとっては、「やっと本になった」という待ちに待った本、はじめて接する人にとっては「こんなすさまじい体験を小学校5年生がしたのか」と驚きとともに知るヒロシマの現実、という本でしょう。
 米澤さんは、被爆一世の語り部として、最年少です。
 小学校4年生以上で習う漢字にはふりがなをふりました。
 すべての方にとって、原爆被爆の実際を知るために、おすすめです。 
 
 米澤さんの被爆講話申し込み先
 http://www.geocities.jp/hankaku1945/

読者の声より

タイトルが衝撃的でしたが、この夏息子が戦争について調べていて、同じ11歳ということなので、ぜひ読んでみたいと思っていました。

原爆が投下されてその後の様子、当たり前のことなのですが、『はだしのゲン』や大道あやさんの作品と似通っているところがありました。

息子に読み聞かせをした時に、米澤さんが荷物を取りに行くために広島に出向く日が電車の切符が手に入った8月6日というところに「運が悪いな」と即座に息子の反応が返ってきました。

息子は歴史的な事実を知り得て読んでいますので、そう思わざるを得ないのだと思いましたが、一日でもずれていたらと思いました。

11歳で背負うには大きすぎる出来事で、その後米澤さんが奇跡的に助かったのもまたいくつかの偶然の重なりで、その後語り部として生きてこられて、このような本にされることは考えてこられなかったということですが、私は読んで知ることができてよかったと思いました。

当時被爆された方は現在高齢になっておられて、戦争から年数が経ち風化してしまう一方ですので、折に触れて子どもたちには紹介していきたいと思います。

(はなびやさん 40代・ママ 男の子11歳)

 

秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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