【編集長の気になる1冊】答えは自分の中だけにあるとは限らない。 『たいせつなこと』
親切ってむずかしい。
小学生の頃、私はポツンと一人で座っていたクラスメイトの女の子の事が急に気になって仕方なくなり、思わず声をかける。
「一緒のグループになろ。」
友達同士でグループ分けをしなければならない場面、よくある話です。
なんとなく満足感に浸っている私。
ところが友達からの言葉にはっと我に返るのです。
「園ちゃんって、いつもそうだよね」
確かに。
気まぐれの親切ってやつ。
自己満足、偽善、見栄っ張り、思い上がり。
そんな言葉も知らない当時の私は、自分の体の中が嫌なものでいっぱいになっていく気がして、落ち込むのです。じゃあ声をかけない方がいいのだろうか。私の行動はいつも他人の目を気にしているのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなっていく。
だけど、卒業式の日。その子がボソッと言ってくれたのです。
「いつも声をかけてくれて、嬉しかったよ」
……私はその時の喜びを忘れない。
そう、一番大切なことを見落としていたのです。
その時、その子がどう思ったのか。
考えもしなかったのです。
本当に大切なことは、自分の中だけにあるとはかぎらない。
どこからか声が聞こえてくることだって、あるのです。
たいせつなこと
スプーンは、手でにぎれて、そのくぼみで色々なものをすくいとる。
でも、スプーンにとって大切なのは、それを使うと上手に食べられるということ。
ひなぎくは真ん中が黄色く、くすぐったい香りがする。
でも、ひなぎくにとって大切なのは、白くあること。
雨にとって大切なのは?
草にとって、りんごにとって、空にとって大切なのは?
自分たちの身の回りのものと一つ一つ向き合い、
優しく語るその文章を読みながら、読者はゆっくりと思いをめぐらせます。
そしてその静かな時間を決して邪魔することなく、
それでも印象的で美しい絵が、私たちの形のない思考を助けてくれるのです。
1949年にアメリカで出版されて以来読みつがれているこの絵本。マーガレット・ワイズ・ブラウンとレナード・ワイスガードによって生まれたこの傑作は、内田也哉子さんの丁寧な翻訳により、日本でも幅広い年齢層の読者に愛され続けています。
子どもたちにとって、本当に大切なこと。
今、自分が本当に大切にしなくてはいけないこと。
何度だって確かめたい時。答えがわからなくなった時。
目の前にあるものをしっかり見て、耳をすましてみる。
誰かの声を聞いてみる。
この絵本を読んでみる。
すると、何回だって答えてくれます。
「あなたは、あなた。
あなたにとって、たいせつなのは……?」
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
目の前の出来事に踊らされ、誰かの言葉に流されて。
いまだに「何をしたらいいのか」わからなくなることの方が多い日々。
だけど、そんな時はいつも彼女の言葉を思い出すのです。
「いつも声をかけてくれて、嬉しかったよ」
今、見なくてはいけない人は誰なのか。
その人がどんな気持ちでいるのか。
私はそのために、どんなことをすればいいのか。
答えは意外と簡単に見つけられるものなのです。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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