【編集長の気になる1冊】それ、どう考えても「へん」ですよ。『へんかしら そうかしら』
「壁に2時間以上もたれていると、背中がくっつくよ」
兄にぼそっと言われたのは、いとこが部屋に集まって騒いでいた時。私に向けて言ったのか定かではないが、当時まわりに比べてかなり年下だった私は一人驚き、かたまってしまう。
「……背中が? くっつく??」
え、つまりそれは。壁と私が一体化するってこと?
あれ、それとも服を脱げば助かる?
いやいや、そういういことじゃなくて「もうあなたは壁ですよ」っていうことなのか。
まわりのみんなが笑っていた気もするけど、とにかくそこから先の記憶はなく。ただひたすら頭の中がぐるぐるして。
「しまった! あ、まだ2時間経ってないよね。」
などと、密かに時々姿勢を正したりすること数年。
ある時、ふと気づく。
……そんなわけないじゃん!!
そこから沸々と笑いがこみあげる。何が可笑しいのか。もちろん、それを疑いもせず、当たり前のこととして受け止めていた私に対してでもあるけれど。
単純に、壁にくっついて動けない人が「2時間以上もたれてしまった……」とうなだれ反省する姿を思い浮かべてしまったから。それ、どう考えても「へん」ですよ。
へんかしら そうかしら
「かぼちゃ へんかしら そうかしら」
ん?
「ばったー へんかしら そうかしら」
……へん、じゃないですよね?
どういうことでしょう。
あ!絵本を見れば納得。
これは確かになんだか、へん。
続けて「ふたこぶらくだ」、「ほしうお」に「くも」も。
見れば見るほど、結構へんです。
つまりこれは、同音異義語を使った言葉遊び絵本。知っている言葉が増えれば増えるほど、時々ひっかかるのが同じ発音なのに意味が違ってくる言葉。「はな」は花なの?鼻なの?っていう、あれです。日本語にはそんな言葉がいっぱい。
「どういうこと!?」と叫ぶ前に。
「どうしておんなじ響きなの!!」と頭を抱え込む前に。
内田麟太郎さんと高部晴一さんコンビがつくり出す「ナンセンス絵本」の世界にどっぷりはまってみるのがおすすめ。だって、広い野原で大きなバッタがバッターボックスに立ち、かっとばそうとしている姿を見てください。「ほしうお」が美しい夜空に堂々と浮かんでいる姿を見てください。こんな「へん」な世界を味わえるのは、日本語がちょっとややこしいからこそ、なんじゃないかしら。
……考え方、へん?
そうかしらね。
とにもかくにもジワジワと笑いが込みあてくるこの絵本。多色多版のガリ版で描かれた味わい深い絵と合わせて「クセ」になりそうです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「なんだかへん。だけど面白い」
そうやっておかしなことに気が付いたり、笑ったりできる。考えてみたら、それってかなり豊かな遊びの世界。だからこそ、はじめはわかんなくたっていい。ただ眺めていたっていい。
そう。
私みたいに数年経って時差で笑いがくることだってあるのです。
壮大な話です…。
どうかしら?
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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