【編集長の気になる1冊】ねむくなったらあの部屋へ『おやすみなさいおつきさま』
そこは絨毯がふかふかで。
ドアから入るあかりで半分だけ照らされた部屋の中。
見えるのは全貌が見えないくらいの大きなベッド。縞模様の壁の奥には見たことのない絵が飾ってあって。うっすら浮かび上がるのは洋服ダンス?
…いったいあの部屋はどこだろう。
眠れなくなった夜、迎え入れてくれたのは親戚の家の部屋?外国に住む友達の家?それとも自分の家の二階?
きっと、どれも違う。そして、少しだけ合っている。その記憶だけの部屋にある、ベッドの中の大きな枕と白いシーツの中に子どもの私は潜り込む。心配事はすべて忘れ、今の仕事は目をつむるだけ。ここがあるから、私は夜が好きなのだ。
おやすみなさい おつきさま
絵本を開けば、そこに広がるのは大きな「みどりのおへや」。
よく見れば、ベッドに寝ているのはうさぎのぼうや。
もう、寝る時間かな。
おへやには、絵の額がふたつ、赤いふうせんに、黒いでんわ。
こねこが二匹いて、素敵なお人形の家もあります。
おばあさんが編み物をしながら、見守ってくれています。
おつきさまもおやすみの時間。
ぼうやは、お部屋の中のひとつひとつに声をかけていきます。
「おやすみ あかりさん」
「おやすみ あかいふうせん」
こねこさんに、てぶくろも、とけいさんもねずみさんも。
ほらほら、だんだん静かになって……
この絵本を読んでいるおともだち、みんなも。
おやすみなさい、いい夢を見てね。
1947年アメリカで初版が発売されて以来、世界中で読みつがれているこの絵本。小さな子どもたちは、この月の光に照らされた、ちょっぴり不思議な雰囲気の「みどりのおへや」が大好きなのです。ぼうやを中心に、まだあかりのついた部屋の場面から始まり、視点は壁にかかった絵の中へ、さらにお部屋の反対側の方へと移り、椅子の上にはいつの間にかおばあさん。ぼうやは一人じゃ寝れなかったのかな……時計の針の経過を見て想像をしながら夜のひとときを過ごします。
そして、ぼうやと「おやすみの儀式」をしながら、だんだんと暗くなる「おへや」と一緒に気持ちのよい眠りへと誘われていくのです。
淡々と、でも耳心地のいい繰り返しの言葉を聞きながら、一方で眺めているお部屋の世界はどんどん広がっていき。暗くて怖いと思っていた夜の世界も、ちょっとだけ素敵に思えてくる……そんな風に、絵本を通して世界中の子どもたちが「おやすみの時間」と仲良くなっていったのかもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
目が覚めれば、そこは別世界。何もかもが明るい陽に照らされて、くっきり見える。そこは私がよく知っている場所。
さあ、今日も一日が始まります。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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