【編集長の気になる1冊】子どもたちは知っている。『こうえん』
「こらあ!」
いまいち迫力が出ない。
何をしているかといえば、子どもたちが一瞬で固まるくらいの怒り方の練習。
母親になったばかりだった私は、どうにも苦手だったのがこの「怒る」というパフォーマンス。どこで怒っていいのか、どのくらいの勢いで怒鳴ればいいのか、やっぱり怒るときは「こらあ!」なのか。迷いが生じた時点でタイミングを失ってしまうのである。
いや、これは決して私が優しい母親だからということではなく。本当に怒った時には黙ってしまうタイプだから。
さらに、これは何も息子のことだけを考えればいいわけではなく、母親になると必然的にその他大勢の子どもたちをもまとめて怒らなければならない場面に幾度となく遭遇するのだ。特に男の子たちは大きな声を出さないと調子に乗り続け、そのうち誰かが泣き出すような事態になるのは目に見えている。
ああ、今日も目の前で子どもたちが転げまわって遊んでいる…よし、今だ。
「こらあっ!!」
いきなりの攻撃に彼らの動きが一瞬ピタっと止まる。だけど、すぐに元通り。
「こらっ、いいかげんにしなさい!!」
またピタッと止まり、また再開する。
「こらああっ」「ほら!」「なんど言ったら…」
そのうち、その繰り返しの滑稽さに、自分も子どもたちも笑い出してしまう始末。なんだよ、これじゃあ喜ばせているだけじゃないか……。むしろ、キャッキャッして子どもたちの方から寄ってきたりして。はあ、ダメな大人。ところが、本当に危険を察知した時には自然と腹の底から声が出てくるのです。
「こらあああああーーーーっ!!」
どうやら子どもたちはこの「ギリギリのライン」を見極めるのがうまいらしい。あっという間に言うことを聞く。これは子どもたちの本能なのかしら。それとも……
こうえん
ここは緑の芝でおおわれた広い広い「おにがはらこうえん」。
子どもたちに大人気の公園です。
遊具で遊んだり、シャボン玉や砂遊び、野球や凧上げも。
思いっきり走って、寝転んで、気持ちよさそう!
そして、この公園にはいつも大きないびきの様な音がしています。
「ぐあーっ、ぐおーっ! ぐあーっ、ぐおーっ! 」
いびき…? どうやら子どもたちは気にしていないようです。
ところが事態は急変。
「うーん、むにゃむにゃ」
この声が聞こえてきたら、子どもたちは一気に駆け出します。
大いそぎで隠れるのです。なぜなら……!?
えっ!!
ここからは「おにがはらこうえん」の信じられない驚きの秘密が明かされていきます。こんな公園、怖すぎる。だって、逃げ遅れたら大変なことになるのです。大変なことになるのに……なぜか子どもたちは公園に戻ってきます。しかも、楽しんでいるようにすら見える!?
読者がびっくりしている目の前で、話は思いもよらない展開へ。そして驚きのまま読み終わり、なんだか楽しくなってきて、もう一回。そうでした、子どもたちはこんなスリルが大好きなのでした。大人は置いて行かれるばかりです。
いつだって当たり前だと思っている思い込みを根底から覆してくれるのは、大人気くりはらたかしさんの絵本の世界。彼の絵本を読むときは、だから油断ならないのです。可愛いからと言って安心してはいけません。心して取りかかってください。あ、子どもたちは平気ですけどね!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
今ではすっかり「怒り方」について悩まなくなった私は、心の奥底の暗闇の中から、呪われるような響きで、静かに一言発するのみなのです。
「今に後悔するよ……」
ああ、怖い。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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