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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】それは一方的だったかもしれないけれど…… 『紙ひこうき、きみへ』

 

「知らない外の世界へ、どんどん飛び出していきたい!」

 

大きな野望とは裏腹に、怖がりで極度の人見知りだった10代後半の頃の自分。知らない場所に行きたい、けれど足がすくむ。自分より大きく見えるあの人たちと仲良くなりたい、けれど話かけることすらできない。理由もなく自信に満ち溢れていたかと思えば、隠れてしまいたいほど打ちひしがれてしまう。

 

そんな不安定な日々を打開すべく、当時の私が編み出した方法が「ノートに書き留める」ということ。それはとてもシンプルな話で、喋ってみたい人、仲良くなってみたい人、自分の存在を知って欲しい人…そんなことをつらつらと日記がわりにノートに書いていく。

 

驚いたことに、これがあっという間に効果を発揮する。気が付けば(数週間だったり、数か月だったり、時には一年以上かかることもあるけれど)気軽に話せるようになっていて、ノートを見返してほくそ笑む。私はそのノートを「願いが叶う魔法のノート」として、机の引き出しにしまい込み、それはそれは大切に保管し、愛用していたのである。

 

大人になるにつれ段々とノートは必要がなくなっていき、書き込むことも見返すこともなくなり、ついには手放すことが出来たのだけれど。実は、私は今でもその魔法を信じている、ところがあるのです。

紙ひこうき、きみへ

紙ひこうき、きみへ

「今日はきっとなにかある。
 とくべつなこと!」

ある朝、キリリは風の音を聞きながら思うのです。すると、飛んできたのは青い紙ひこうき。そこには「夕方、そちらにつきます」と書かかれてあり、途端にキリリは落ちつかない気持ちになりながら一日を過ごします。一体誰が来るというのでしょう。夕方になって、そこに立っていたのは……。

少し不思議な出会いから始まる、シマリスのキリリとミケリスのミークの物語。すぐに仲良しの友達になった二人は一緒に楽しい時間を過ごすのですが、今の暮らしを楽しんでいるキリリと、ずっと旅を続けているミークには、やがて別れの時がやってきます。ミークが旅立ってしまったからです。ひとり残され、どうにもならない気持ちを抱えるキリリ。次の場所へと歩き続けていくミーク。

だけど話はここでは終わりません。大切な役割を果たすのは、ミークがキリリに贈った「あるもの」を切る取ることのできるハサミと、空へ放たれた数えきれないほどの紙ひこうきの存在。言葉にならないお互いの心の色を映し出し、その関係性に大きな変化をもたらせてくれるのです。

誰かを想うことや、会いたいという気持ち。それは、とても繊細ではかなくて。小さなきっかけですぐに壊れ、どこかに飛んでいってしまいそうで。でも、この物語の中でそれは様々な形となって二人をつなぎとめ、読み終わった時に確かな手応えを感じることが出来るのです。

56ページと、絵本にしては少し長めの物語。それでも野中柊さんの愛らしく自由で生き生きとした文章の魅力と、全ページオールカラーで味わうことのできる木内達朗さんの素晴らしい絵によって、世界にあっという間にひき込まれてしまうはず。(どこを切り取ってもうっとりするほど美しい色彩とキリリとミークの圧倒的な可愛さは、直接手に取って確認してみてくださいね!)

人との関係性について考えることの多い今だからこそ、幅広い年齢層に読んでもらいたい1冊です。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

https://www.ehonnavi.net/ehon/132822/%E7%B4%99%E3%81%B2%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%8D%E3%80%81%E3%81%8D%E3%81%BF%E3%81%B8/
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10代の頃の想いは一方的だったかもしれない。「話したい」という気持ちはノートを通じて念となり、何かのきっかけで届いていたのでしょう。

 

そして今。ふと「どうしてるかな」と誰かを思い出し、次の瞬間には偶然出会う…ということがたまに起こる。思いつきで声をかけると喜んでくれる、ということがある。その誰かがノートを使っていたのだろうか。いや、もちろんそうじゃなくて。

 

自分のことだけじゃなく、誰かの「気持ち」をキャッチすることが上手になった、得意になった、ということなのでしょう。私はその小さな感覚を、とても大切にしていきたいと思っているのです。
 

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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