【編集長の新宿絵本日記】到底かなわぬ夢だけど。2020年7月14日『すいかのプール』
「ああ、スイカが食べたい」
ひとりごとのように呟く母。買い物に出かければ、ずらりと並んだ立派なスイカを羨ましそうにながめ、「でも一人じゃ食べきれないのよね」と呟く。カットしたスイカも売ってるよと勧めると、「やっぱり切りたてを食べたいじゃない」と言う。確かにそうだね……と言って通り過ぎる。私だって二人で丸ごと一個を食べきれる自信がないからだ。
あれ、そんなにスイカが好きだったっけ? ふと疑問に思って聞いてみると、母は「好き」だと断言する。確かに夏が始まるこの時期になると、毎年決まって呟いていたような気もする。「大きなスイカが買いたくなるんだけどねえ」と。
思えば、小さい頃は毎年父が大きなスイカを買ってきて、それを嬉しそうに包丁で切り分ける母がいた。どこを食べても真ん中の甘い部分がいきわたるようにと切り方にもこだわりがある。あれは自分たちを喜ばせようとしているのだと思い、必要以上に喜びながら食べた覚えがあるけれど、なんのことはない、母が食べたかったのだ。
スイカのどこが好きかと聞いてみると、水分がたっぷり取れるところと、甘くて美味しいところ、と言う。普通にスイカ好きの意見。その瞬間に今度は幸せそうにスイカにかぶりつく母の顔を思い出す。子どもの頃にはスイカなんて食べなかったと言っていたから、あの頃にスイカが好きだと実感していたことになる。
となると、私たちが大人になり家を出て、一人暮らしとなった母には到底かなわぬ夢となってしまったのだ。今日は雨が降っているけれど、ちょっとスイカを買いに行こうかね、小さめのだけどね。
すいかのプール
「さっく さっく さっく」「しゃぽん」
今年も真夏のお日さまをしっかり浴びて、すっかり熟してます。大きなすいかがぱかっと割れたら、さあ、すいかのプールのプールびらきです!
一番乗りはおじいさん。タネをすぽっと抜いて、自分だけの小さなプール。すると子どもたちも後から後からやってきます。さっくさっく足音立てたり、飛び込んでみたり、みんなでぴちゃぴちゃすれば、すいかジュースがたまります。すいかの皮ですべり台を上手に作るのはおじいさん。すぅーっ、どぶん。
……なんて素敵、すいかのプール。
真っ赤に熟した大きなスイカを目の前にした時、水分をたっぷり含んだその表面を眺めながら、「ああ今すぐここに飛び込みたい 」。一度でも想像を膨らませてしまったことのある方へ。この絵本にはまさにそんな夢が詰まっているのです。想像通りの音をたて、想像通りの気持ちよさ。そうそう、これこれ!
子どもたちの楽しい空想の世界を、愛らしく、でもとても具体的にいきいき描くこの絵本は韓国から。すいかへの憧れは共通のようです。思いっきり遊んだ一日はあっというまに終わります。でも大丈夫。来年もまたきっと……ね!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
からっからっに晴れた真夏の空の下。一人じゃ持てないほどのスイカを用意し、食べきれないほどの大きさにカットし、みんなで一緒に全身べとべとになりながらかぶりつく。次から次へとかぶりつく。
私にとっても、なかなか叶えられない夢となりつつあるな。
来年こそ!
まだまだあるよ、スイカの絵本!
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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