第70回産経児童出版文化賞 大賞にあまんきみこ『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』
大賞にあまんきみこ『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』
産経新聞社主催、第70回産経児童出版文化賞の受賞作品10点が決定しました。昨年1年間に刊行された児童向けの新刊書4203点を対象に審査が重ねられた結果、大賞にはあまんきみこさんの『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(ポプラ社)が選ばれました。
こちらの大賞をはじめ、JR賞、タイヘイ賞、美術賞、産経新聞社賞、フジテレビ賞、ニッポン放送賞、翻訳作品賞、奨励賞に選ばれた作品を順にご紹介します。
「第70回産経児童出版文化賞」【大賞】
『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』あまんきみこ 作 / 黒井健 絵(ポプラ社)
空いろのタクシーは、ずっと走り続けていました。
心やさしい運転手の松井さんとふしぎなお客さん、そして、あなたの物語。
1968年の刊行以来、50年以上読み継がれるロングセラー「車のいろは 空のいろ」シリーズ。黒井健の挿画による新装版。
タクシー運転手の松井さんと、ふしぎなお客さんたちとの出会いをあたたかく描きます。
待望の新刊となる4巻で松井さんが出会うのは、人間の子に化けたつもりのたぬきの子、夜の公園で人間の姿になって遊ぶ子ねこたち、夫を亡くした妻と赤ちゃん……。心に灯りがともる物語ばかりです。書き下ろし作品を含む7編を収録。
収録作
1.きょうの空より青いシャツ
2.子ぎつねじゃないよ
3.ゆめでもいい ゆめでなくてもいい
4.きこえるよ、〇
5.ジロウをおいかけて……
6.とにかくよかった
7.春、春、春だよ
【JR賞】
『「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相』石崎洋司 著(講談社)
8歳で学校に絶望し、不登校。死も考えたギフテッドは、どうして希望を取り戻せたのか? なぜ「だれも取り残さない社会」を目指すのか? ITの天才にして、世界が注目する<新しい民主主義>の旗手、「オードリー・タン」が生まれるまでの伝記物語。
【内容紹介】
「世界一受けたい授業」などでも話題沸騰のオードリー・タン氏。台湾のマスクマップの開発を指揮した、天才IT相として知られています。IQ180の天才、十代での起業、ITの神さまなど「勝ち組」の代表のようなイメージがつきまといますが、生まれつき重い心臓病をかかえ、小学校では、いわゆる「浮きこぼれ」。小学校3年生で不登校となり、世界に居場所などないと絶望の淵にたちます。
戒厳令下の台湾の硬直した教育体制による体罰やいじめ。それを<あたりまえ>とする社会とぶつかった9歳の唐宗漢が、いかにして世界と和解し、台湾の教育を変え、ソーシャル・イノベーションによる新しい民主主義の旗手「オードリー・タン」となっていったのかを描く伝記物語です。
【タイヘイ賞】
『ぼくとお山と羊のセーター』飯野和好 作(偕成社)
秩父の山間のたった3軒だけの集落で育った著者が、その子どものころの思い出を描いた絵本。畑を耕し、牛や鶏を飼い、自家製のお茶まで作る自給自足の生活の中で、育てた羊の毛で作ってもらうセーターを心待ちに過ごした1年を四季のめぐりとともに描きます。自然の息吹までが感じられる山の風景と、その山につつまれて、たくましく暮らす家族の姿には、たんなるノスタルジーをこえた、溌剌として生きることの喜びがあふれています。
【美術賞】
【産経新聞社賞】
『ひろしまの満月』中澤晶子 作 / ささめやゆき 絵(小峰書店)
広島の郊外に、長く空き家となっている一軒の家。その庭の池に、長生きのかめが一匹、住んでいました。長いあいだひとりでいたせいで、かめは自分の名前さえ忘れかけていました。そんなある日、家に越してきた二年生のかえでちゃんと出会ったかめは、自分の名前が「まめ」であること、名前をつけてくれたまつこちゃんとその家族のこと、そして、ずっと心の奥底にしまっていた記憶を思い出します。それは、いま思い出しても心が破れそうに辛い、1945年8月の満月の日に起きたことでした……。
ひろしまに原爆が落ちた日と、その前後のまつこちゃんの家族の姿を、その時からずっと生きているかめのまめが現代を生きるかえでちゃんに伝えます。数十年前にまつこちゃんが体験した出来事と思いをかえでちゃんはどう受け取ったのでしょうか。さらにこの物語を手にする子どもたちはどう受け取ることができるのでしょうか。
戦争を描いたお話ではありますが、まめのゆったりした佇まいとかえでちゃんの素直なかわいらしさ、やさしいお庭の自然がやわらかな雰囲気をまとっていて、低学年の子でも気負いなく手に取っていただける物語です。
(絵本ナビ編集部)
【フジテレビ賞】
【ニッポン放送賞】
【翻訳作品賞】
『カメラにうつらなかった真実』エリザベス・パートリッジ 文 / ローレン・タマキ 絵 / 松波佐知子 訳(徳間書店)
1941年12月に日本軍が真珠湾を攻撃した三か月後、
アメリカ合衆国の西海岸に住むすべての日本人と
日系二世は強制収容所に送られることとなった。
日系人たちは、家、仕事、持ち物を置いていくよう命じられ、
許されたほんの少しの日用品を手に、
有刺鉄線と武装した警備員に囲まれた収容所で
暮らすこととなった。
三人の写真家―ドロシア・ラング、宮武東洋、
アンセル・アダムスーは収容所での日々を
撮影した。
ドロシア・ラングは合衆国政府の依頼をうけ
撮影をしたが、収容所の厳しい生活を
アメリカ国民に知らせようとした。
収容されていた日系人のひとりで写真家の
宮武東洋は、持ちこんだ機材を使って
収容所の実態を記録した。
風景写真家として有名なアンセル・アダムスは、
意図的に場面を選びながら、
収容所でも人々がくじけずに生きる姿を撮影した。
三人三様の写真を紹介しながら、
その背後にある物語に焦点をあてた、
戦争の犠牲になる人々の姿を描いた
ノンフィクション絵本。
『ことばとふたり』ジョン・エガード 文 / きたむらさとし 絵・訳(岩波書店)
ことばを知らない生きものがいた。浜辺でごろんと横になり海をじっと見つめたり、時には小石を放りなげてみたり。のんびり気ままに暮らしていた。
「たのしい」気持ちになった時には、腕をのばし鳥のようにパタパタし、「おいしい」ものを食べた時は、うしろむきにくるりと三回宙返り。けれどそれをことばで何というのかは知らない。心に冷たい風が吹きぬけ、どうしたらいいのかわからなくなった時、顔をゆがめてただ苦しそうに唸っている。この気持ちを何というかだって、ことばにできないのだ。
ある日、その様子を見ている生きものがいた。ことばを知っている生きものだ。
「かなしい ことが あるんだ」
すぐにわかったその生きものは、ことばを知らない生きものに近づいていき……。
イギリスの高名な詩人ジョン・エガードと絵本作家きたむらさとしによるコラボレーションで生まれた、「ことばのない世界」と「ことばのある世界」で暮らす生きものの、出会いの物語。それぞれのんびり気ままに暮らしていた二人が、最初に心を通わせることのできた「ことば」とは?
自分の気持ちをことばで伝えあい、ことばが多すぎる時はただ黙ってそばにいる。誰かとわかりあえるって、こんなにも素敵なことなんだ! 二人で一緒に過ごす時間を見ながら、誰もがそう思うことででしょう。「ことば」について、感情表現について、そしてコミュニケーションについて。色々な考えを広げていってくれそうな一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
【奨励賞】
主催 産経新聞社
後援 フジテレビジョン、ニッポン放送
協賛 JR北海道、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州、JR貨物、タイヘイ
産経児童出版文化賞とは
「次の世代を担う子どもたちに良い本を」を主旨に、昭和29(1954)年に制定されました。これまでに児童文学、絵本、翻訳本、図鑑などの児童書約1200作品が受賞しています。戦後日本の児童文学、絵本文化の歴史を形づくってきた表彰制度です。
【選考委員】
《文学》川端有子氏(日本女子大教授)、土居安子氏(大阪国際児童文学振興財団理事)
《絵本・美術》落合恵子氏(作家)、さくまゆみこ氏(翻訳家)
《社会・科学》木下勇氏(大妻女子大教授)、張替惠子氏(東京子ども図書館理事長)
《その他》協賛社のタイヘイおよびフジテレビ、ニッポン放送、産経新聞の3媒体から文化部長らが選考に参加
第70回記念イベント
本賞が第70回を迎えたことを記念し、認定NPO法人フローレンスの協力のもと、5月5日(金・祝)13時からオンラインイベント「こどもたちにつなごう! 豊かな未来」がYouTube Liveで配信されました。第1部は、フローレンス会長の駒崎弘樹氏と選考委員の川端有子氏の対談。第2部は、ニッポン放送の箱崎みどりアナウンサーによる大賞受賞作の朗読です。
下記URLから
あわせて本年12月からは、本賞にご応募いただいた児童書を、産経新聞社とフローレンスが連携して、フローレンスと繋がっている家庭に児童書が配布される予定です。
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