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絵本ナビニュース2022

第69回産経児童出版文化賞 大賞に岡田淳『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』

大賞に岡田淳『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=143894

第69回産経児童出版文化賞の受賞8作品が決定し、発表されました。昨年1年間に刊行された児童向けの新刊書4405点を対象に審査が重ねられた結果、大賞には、岡田淳さんの『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』が選ばれました。こちらの大賞をはじめ、JR賞、美術賞、産経新聞社賞、フジテレビ賞、ニッポン放送賞、翻訳作品賞に選ばれた作品を順にお知らせします。

「第69回産経児童出版文化賞」受賞作品 【大賞】

『こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ』岡田淳/著(理論社)

こそあどの森のおとなたちが語ってくれたのは、今につながる子ども時代の大切な出来事

こそあどの森のおとなたちが子どもだったころ

みどころ

大人は、はじめから大人だったわけではありません。
けれども、そのことを大人自身が忘れがちだったり、ましてや子どもが目の前にいる大人の子ども時代のことを想像するというのはなかなか難しいことではないでしょうか。この物語はそんな「大人の中にある子どもの時のこと」そして「大人の時代」と「子どもの時代」のつながりについて貴重な気づきをくれる1冊です。

「こそあどの森」に住んでいる少年スキッパーは、ある日、同じく森に住む作家のトワイエさんから借りた本の中に、1枚の写真を見つけます。それはトワイエさんが子どもの頃の写真でした。興味を持ったスキッパーと、たまたまスキッパーのところに遊びに来ていたふたごは、トワイエさんのところへ子どもの頃の話を聞きにいきます。その話には、トワイエさんが作家になろうと思った秘密が隠されていました。
その後も、スキッパーとふたごは、森に住む大人たちにそれぞれの古い写真を見せてもらいながら話を聞いていきます。トマトさんには料理がとくいになったわけを、ギーコさんにはお気に入りの木で出会ったひとたちのことを、ポットさんには体をふくらませるサーカスの風船男と出会った話を、スミレさんには森のおばあさんと過ごした時間の話を。
大人たちの話を聞き終わった帰り道、スキッパーとふたごの心にはどんな思いがめぐったのでしょうか。

「日本のムーミン谷」ともいわれる「こそあどの森の物語」シリーズはすでに12巻刊行されており、こちらは、その番外編として書き下ろされた初の短編集。第69回産経児童出版文化賞の大賞を受賞され、話題となっている作品です。シリーズをまだ読んだことがないという方は、この本をきっかけに読み始めるのも良いですが、もし時間があれば12巻のお話を読み終えた後に、本作品を読むのが個人的にはおすすめしたい読み方です。森の住人たちのキャラクターや雰囲気が頭にある状態で本作品を読むと、それぞれの個性や大切にしているものがどのように育まれてきたのか、その種明かしのような楽しさと出会えるからです。

森の中に海賊船がある景色が一番はじめに思い浮かび、そこから誕生したという「こそあどの森の物語」シリーズ。作者の岡田淳さんはこう言います。
「ぼくらは一人一人が海賊船なんじゃないかと思ったんです。」
「海賊船は出会った船とか立ち寄った港とかで奪い合うけれど、ぼくたちも誰かと関係を持つとき、ある部分を奪い奪われという関係になるんじゃないか…と。もちろん、支え合うこともあって、良いにしろ悪いにしろ、お互い何かしら影響し合うんですよ。」

スキッパー、ふたご、ポットさんとトマトさん夫婦、スミレさんとギーコさん姉弟、作家のトワイエさん、それぞれに性格も個性的なら、住む家もとても変わっています。そんな接点のなさそうな住人たちが、さまざまな出来事や謎や訪問者をきっかけに、知恵を出し合ったり、誰かの弱さを知ったり、関係性の中で影響し合いながら変わっていくところに読み応えがたっぷりあります。とくに、ひとりでいることが何よりも好きだったスキッパーが森の住人たちと関わりを持つことで大きく成長していく様には心がぐっと掴まれるでしょう。この物語を読む子どもたちも、スキッパーと同じように、心の深い部分を静かに成長させながら読んでいくように思われてなりません。

今回の番外編を含めると13巻となる「こそあどの森の物語」シリーズ。1度この物語に出会ったならば、私たちはいつでも好きな巻を手にとって、こそあどの森の住人たちに会いに出かけることができます。そんな心の奥に宝物のようにひそませておきたいとっておきの物語です。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents_old.asp?id=146 シリーズ20周年記念!!岡田淳さんインタビュー

【JR賞】

『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』 おかだだいすけ/ 文 遠藤宏/写真(岩崎書店)

寿司を科学する写真絵本! 子どもたちの表情にも注目です。

おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで

キンメダイ、アナゴ、イカなど、釣り上げた魚をさばき、
だんだんと美味しそうな切り身へとかわって行く様子を、
動画のような連続性で見せる写真絵本。
魚のとくちょうや部位の名前も解説。
最後はお寿司になって登場!みんなで美味しくいただきます。

「命をもらって生きている自分を大切に」とメッセージを贈ります。

【美術賞】

『ヴォドニークの水の館 チェコのむかしばなし』 まきあつこ/文 降矢なな/絵(BL出版)

とらわれたのか、救われたのか? 降矢ななさん描く絵の迫力あふれる美しい絵本

ヴォドニークの水の館

とらわれたのか、救われたのか? 降矢ななさんが描く、切なくも美しい絵本。

生きる希望をなくしたむすめは、水の主ヴォドニークに命を救われ、水の館で仕えることになりました。はじめは従順に従っていたむすめでしたが…。
むすめは自らの意思で生きていこうと決意してはじめて本当に救われ、現実の世界に帰っていきます。現代にも通じるメッセージ性のあるこの昔話を、かつてチェコとひとつだったスロヴァキアに長く暮らす降矢ななさんが、迫力ある美しい絵で表現されました。
深く味わっていただきたい絵本です。

【産経新聞社賞】

『ハタハタ 荒海にかがやく命』 高久至/文・写真(あかね書房)

繰り広げられる生命の営み。SDGsの目標「海の豊かさを守ろう」を考えるのにもふさわしい一冊。

ハタハタ  荒海にかがやく命

漁獲量回復のために自主的禁漁をおこなったことから、水産資源管理の稀有な前例として、大きな注目を集める秋田の県魚ハタハタ。本書は彼らの海中での姿を初めて詳細に捉えた写真絵本です。貴重な産卵シーンや、海岸に打ち上げられても生きている卵など、荒波に負けない命の輝きを描きます。漁獲量のデータを巻末にまとめて解説し、SDGsの目標「海の豊かさを守ろう」を考えるのにふさわしい一冊となっています。

【フジテレビ賞】

『人魚の夏』 嘉成晴香/作 まめふく/絵(あかね書房)

人魚の子と、友だちの秘密を守り抜く少年の物語。

人魚の夏

小5になる春、知里は海で呼びとめられ、不思議な約束をする。クラスに自分の子が転校するので友だちになってほしい、という人魚と。その言葉通り、転校生として海野夏がやってきた。すぐに人気者になった夏だが、自己紹介で性別を明かしていなかった。しかし、掃除の時間に話しかけてきた夏は、知里に秘密を教える。自分は人魚だということを……。将来を決めるため陸に上がった人魚の子と、友だちの秘密を守り抜く少年の物語。

【ニッポン放送賞】

『つくしちゃんとおねえちゃん』 いとうみく/作 丹地陽子/絵(福音館書店)

揺れ動く姉妹の気持ちが、鮮やかに細やかにつづられた日常の物語。

つくしちゃんとおねえちゃん

頭がよくて、ものしりで、ぶ厚い本を読んでいて、ピアノだって上手、だけど、ちょっと怒りっぽくていばりんぼう、そんなおねえちゃんはあたしの自慢です。おねえちゃんは歩くとき、少し右足をひきずります――。笑ったり、泣いたり、けんかしたり、助けたり、助けられたり、揺れ動く姉妹の気持ちが、鮮やかに細やかにつづられた日常の物語。やさしく温かみのある挿絵がたくさん入った、小学校低学年にぴったりの読みものです。

  

【翻訳作品賞】

『ぼくは川のように話す』 ジョーダン・スコット/文 シドニー・スミス/絵 原田勝/訳(偕成社)

少年の心をすくった光景は……

ぼくは川のように話す

みどころ

「朝、目をさますといつも、ぼくのまわりはことばの音だらけ。
 そして、ぼくには、うまくいえない音がある」

それは、ぼくの舌にからみつき、のどの奥にひっかかり、うめくしかない。今日もまた、重い気持ちのまま学校へ向かう。先生がぼくをさすと、みんなが一斉にふりかえる。みんなに聞こえるのは、みんなと違うぼくの喋り方。見えるのは、ゆがんだ顔とびくびくした心だけ。ぼくは……。

放課後、お父さんがぼくを静かな川へつれていく。だまって歩きながら、上手くしゃべれなかったことを思い出すぼくに、お父さんは生涯忘れることのない大切な言葉をかけてくれた。

「ほら、川の水を見てみろ。
 あれが、おまえの話し方だ」

吃音をもつカナダの詩人、ジョーダン・スコットの実体験をもとにして生まれたこの絵本。うまく回らない口で生きていく、その重みやもどかしさを少年の繊細な心を通して描きながらも、伝わってくるのは、もっと奥にひそむ「話す」ことの怖いくらいの美しさ。物語の中盤で見せるのは、シドニー・スミスが描く圧巻の景色。それは、ぼくがぼくとして生まれ変わる瞬間であり、読者がその意味を理解する場面でもある。

「川のように話す」

胸に迫るこの言葉。どの場面を読むときも、静かにゆっくり。しっかりと向き合いながら読んでもらいたくなる1冊です。

(磯崎園子  絵本ナビ編集長)

『真夜中のちいさなようせい』 シン・ソンミ /絵・文 清水知佐子/ 訳(ポプラ社)

小さかった頃のママと男の子の心の交流を描くあたたかく美しい物語。韓国の画家による初めての絵本。

真夜中のちいさなようせい

男の子が熱を出して寝ています。そばには、看病をするママ。真夜中、ママがつかれてうとうとしはじめた時、小さな妖精たちがあらわれました。目を覚ました男の子に妖精たちは「あたしたちはママのお友だちよ」といい、小さかったころのママが妖精たちにプレゼントした花のゆびわを見せてくれました……。小さかった頃のママと男の子の心の交流を描くあたたかく美しい物語。
伝統的な技法を現代的にアレンジしながら、デザイン的に優れた作品を発表し韓国で高い人気をほこるイラストレーター、シン・ソンミ氏の初の絵本です。

主催 産経新聞社
後援 フジテレビジョン、ニッポン放送
協賛 JR 北海道、JR 東日本、JR 東海、JR 西日本、JR 四国、JR 九州、JR 貨物
 

【選考委員】
文学
川端有子氏(日本女子大教授)
宮川健郎氏(武蔵野大学名誉教授)

 

絵本・美術 
落合恵子(作家)
さくまゆみこ(翻訳家)

 

社会・科学 
木下勇(大妻女子大教授)
張替恵子(東京子ども図書館理事長)

 

その他 
フジテレビ、ニッポン放送、産経新聞の3媒体から文化部長らが選考に参加

秋山朋恵(絵本ナビ副編集長・児童書主担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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