『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』刊行記念 絵本ナビ編集長イソザキ×フリー編集者・土井章史 トークイベントレポート!
「赤ちゃん絵本の面白さとむずかしさ」
4/20(土)、神保町ブックハウスカフェにて、『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』(玄光社)の刊行を記念したトークイベント「赤ちゃん絵本の面白さとむずかしさ」が開催されました。登壇したのは、この本に監修として関わった絵本ナビ編集長イソザキと、現在までに約300冊の絵本の編集・企画に携わっているフリー編集者の土井章史さん。土井さんは、絵本作家の育成を目的としたワークショップ「あとさき塾」を小野明さんとともに主宰し、新人の発掘に力を入れている方でもあります。
『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』は、本当にウケている赤ちゃん絵本ってなんだろう? どうしてその本は赤ちゃんにウケるんだろう? そんな疑問をリアルに赤ちゃんと接している父母と保育園の先生に聞き、その実際の声から作ったガイドブック。イベントでは、土井さんとイソザキ、それぞれの視点で、本書で紹介される作品の魅力を掘り下げながら、赤ちゃん絵本についてトークが展開されました。
「赤ちゃん絵本」に、ぐぐっと迫った注目のイベントをレポートします!
父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊
本書の監修は「子どもに絵本を選ぶための情報を集めた参加型絵本紹介サイト」をコンセプトに掲げる、絵本ナビ。赤ちゃんが夢中になる絵本は、どんな絵本なのでしょうか? その絵本は、どうして赤ちゃんがよろこぶのでしょうか? 赤ちゃんとふれあってきた絵本ナビユーザーと保育園の先生にアンケートを実施。およそ200名の声の中から「本当に良い」赤ちゃん絵本を厳選して紹介します。
ブックハウスカフェ2階のイベント会場は、満員御礼、立ち見が出るほどの熱気! 土井さんとイソザキ二人入場してのスタートとなりました。
赤ちゃん絵本っておもしろい!
『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』の表紙について、「この目をひく表紙のだるまさんの絵は、絵本作家かがくいひろしさんが、2008年にインタビューさせていただいた際に絵本ナビユーザーの方へのメッセージとして描き下ろしてくださったものなんです。」と、イソザキ。
かがくいさんの絵本『だるまさんが』は、本書の巻頭特集「みんながすすめる赤ちゃん絵本15冊選」の第1位として紹介されている大人気作品です。『だるまさんが』を皮切りに、15冊の作品について、絵本のおすすめコメントを紹介しながら、作品の魅力を土井さんとイソザキが解析していきます。少しだけお二人のコメントをご紹介!
『だるまさんが』
イソザキ:この絵本がすごいのは、発売から売れ続けているということ。かがくいさんの作品づくりの柱は「誰でも楽しめる」というところに尽きると思います。「だ、る、ま、さ、ん、が」と読むだけで、間やリズム、スピードまで教えてくれる。そしてページをめくれば絶対笑っちゃう。人気がある絵本、贈り物で必ず喜ばれる絵本として納得の1位です。
土井:「だ、る、ま、さ、ん、が」のリズムは、遊びを通してぼくらの体の中にインプットされている。それがうまく作用して、読む側が自然に絵本に寄り添っていけるのかなと感じるね。赤ちゃんもそのリズムに反応するのかな。
ページをめくって、だるまさんが「どてっ」となると、読んでいる子どもたちも一緒に「どてっ」と転がる。こどもの体をそこまで動かせるってすごいよね!
『もこ もこもこ』
イソザキ:声に出して読むと、赤ちゃんが喜ぶ。「もこもこ」「ぱちん!」とか、誰が聞いても面白い言葉、響きと、その音のイメージがそのまま絵になっていて、大人ははじめ「なんだ、これ?」と思いますが、かえって赤ちゃんにとってはしっくりくる絵本なのかなと思います。
土井:詩人の谷川俊太郎さんと元永定正さんという美術家、二人の作家がくっついたことで、必然と偶然がうまい具合に混ざり合ってできた奇跡みたいな絵本じゃないかと思う。絵本とアートがくっついた瞬間に赤ちゃんが喜ぶものになったのがすごいね。
『どんどこ ももんちゃん』
イソザキ:ママに絶大な人気を誇る「ももんちゃん」。個人的にとっても面白いなあ、と思っているのが、作者のとよたかずひこさんがおっしゃっていた、ももんちゃんのキャラクター設定。「自立した赤ちゃん」なんですよね。確かにどんどこわが道を進む姿はたくましいのです。声に出して読めばスカッとするくらい。
土井:「自立した赤ちゃん」という考え方に賛成。大人が世話しないと彼らは生きられないんだけど、彼ら自身は唯我独尊で生きていて、そういう強さを見ると親も安心するんだね。
「みんながすすめる赤ちゃん絵本15冊選」作品一覧
「赤ちゃん絵本はむずかしい」って、どういうこと?
本書の企画が立ち上がったとき、出版社さんから相談を受けた土井さんも、監修を依頼されたイソザキも、それぞれ「赤ちゃん絵本ってむずかしいよね…」と、答えたのだそうです。それはどういうことかと言うと、「赤ちゃん絵本はどういう絵本がいい絵本かの判断が難しい」ということ。
ここから、イソザキは聞き手にまわり、土井さんに編集者から見た赤ちゃん絵本の「むずかしさ」について聞いていきます。
イソザキ:赤ちゃんは「しゃべらない」し、「記憶が残らない」。感想が聞けないというのは、「いい絵本」の判断が難しいことの明快な理由ですよね。でも、ロングセラーと言われる赤ちゃん絵本があって、爆発的に売れている絵本があるのも事実です。だから、今回いろいろな立場の視点で語ったら面白いし、見えてくるものがあるんじゃないかと思いました。
土井さんは編集者として、どういう風に感じられますか?
土井:編集者は、赤ちゃん絵本とそれ以降の絵本とはっきり分けて考えています。
ワークショップでは4~6歳までの子どもに向けたストーリー絵本を扱っていますが、どうして赤ちゃん絵本は含めていないか。ぼくはいつも、絵本の創作は、「体で感じなさい」と言っていて、判断するときも、自分の幼児のときの感覚を思い出して面白いか面白くないかを見ている。だから2歳より小さくなると記憶がないから面白さを感じ取る自信がないし、判断が難しい。赤ちゃん絵本は単純明快だから簡単にできそうに思うかもしれないけれど、作る側も赤ちゃんに記憶を戻すのは難しいです。だから、いつも赤ちゃん絵本は難しいって言っているんだけど。
長新太さんや片山健さんも年をとってから赤ちゃん絵本を作っているけど、年を経てその境地に行ったのかもしれないと思うね。
そして、土井さんが編集を手がけた、人気の赤ちゃん絵本『まるさんかくぞう』の話にも。
土井:この絵本は、まるとさんかくとぞう、造形と物を並列に並べているのが面白いところ。赤ちゃんにとっては、有機物と無機物の違いなんかないから、例えば机が生きていてもかまわないわけです。長新太さんの言う「アニミズムの世界」だね。
イソザキ:『まるさんかくぞう』は、大人も感覚を刺激される絵本だと思います。赤ちゃんと大人、お互いそれぞれが違う感覚で楽しめるのは貴重な時間。もっとこういう作品が生まれてほしいです。
赤ちゃん絵本の楽しみかた
『まるさんかくぞう』の話から広がって、イソザキから、大人のための赤ちゃん絵本の楽しみ方が提案されました。
イソザキ:赤ちゃんの視覚を通した脳の発達を研究されている、山口真美先生(中央大学文学部心理学研究室教授/日本赤ちゃん学会事務局長)によると、赤ちゃん、0歳はとくに宇宙人だと思って接した方がいいと。赤ちゃんは刺激を喜んでいるんだそうです。だから、赤ちゃんにとっての絵本は、大人が抽象アートを楽しんでいる感覚にちかいのかも?という話を聞いて、面白いな!と思ったんです。
赤ちゃんが感覚で楽しんでいるとしたら、大人は大人でなるべく感覚で楽しむってことに挑戦してみたらいいかなと思います。
例えばブックハウスカフェに普段絵本と関わりのない方がふらっとお酒を飲みに来たりしたときに、赤ちゃん絵本を発見して、感覚的世界を自分なりに味わって、買って帰るなんてことがあったらいいですよね。
土井:それはすごくいいね。酔っぱらったおじさんが「いいじゃん、これ」とか言ってね。僕もそういう大人になりたい(笑)。
続いて、今、ブックハウスカフェの店頭で実際に売れている赤ちゃん絵本についても紹介されました!
ブックハウスカフェの売れ筋赤ちゃん絵本
『ごぶごぶ ごぼごぼ』(福音館書店)は、胎内の音をもとにできているということが最近も話題になりました。『お?かお!』(ほるぷ出版)は、表紙の顔の目が動くことで赤ちゃんがまず釘付けになると評判のしかけ絵本。
トークの中で紹介された絵本たちを振り返り、土井さんは「絵本がない時代は、ふとんの中で聞く昔話があった。今は親子のスキンシップのツールとして絵本は抜群のもの」と話し、人気の赤ちゃん絵本が表現するものとして、「音」「動き」「スキンシップ」「顔(表情)」という4つのキーワードを挙げていました。
質疑応答も盛り上がり、おふたりのトークは終了。
しめくくりにイソザキが話したのは、イソザキの著書『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)のエッセイの中に出てくる「おじらさん」という言葉でした。
山口の言葉で、自分の意見を押し通すことを「自良(じら)をくる」と言います。息子がいやいや期真っ最中で苦労していたとき、義母がその様子を「おじらさん」と呼び、「たくさんじらをくると大きくなってちゃんと判断できるようになるからね」と言ってくれたんです。その「おじらさん」という言葉の軽い響きに気持ちが軽くなった、という内容のエッセイだったのですが、「おじらさん」という言葉が、先日朝日新聞の「折々の言葉」に引用されまして。その中で、筆者の鷲田清一さんは「大人にも違和感を手放さずに、ぐずる権利はある」と書いていらして、それがとてもいいなと思ったんです。
赤ちゃん絵本を読みながら、反応を見たり一緒に楽しみながら、子どもの表現する感情というものが自分の中にもある、そういう感覚を大事にしていったほうが、子育てやひいては人生だってもっと楽しめるんじゃないかなと思います。
トーク終了後は、来場した方との懇親会も行われ、サインを求める行列も!
大盛況のうちに終了したイベントとなりました。
いかがでしたでしょうか?
『父母&保育園の先生おすすめの赤ちゃん絵本200冊』は、トークイベント内で紹介された内容以外にも、特集記事がとっても充実しています。
冒頭でもご紹介した、『だるまさんが』の作者、2009年に急逝されたかがくいさんのインタビューは、未公開部分を織り交ぜて再編集したもの。(絵本ナビに掲載された記事はこちら>>)
そのほかにも、詩人で絵本作家の谷川俊太郎さんへのインタビューや、女優の菊池亜希子さんや保育園や絵本屋さんの取材記事、親子で訪れたい書店ガイド、絵本ナビオフィスでの絵本ナビ店長セトグチによる赤ちゃんたちへ読み聞かせの模様など、盛りだくさんの内容となっています。
絵本ナビからも自信をもっておすすめする赤ちゃん絵本ガイドの保存版。ぜひお手元に置いてお楽しみください!
文・構成:掛川晶子(絵本ナビ編集部)
撮影:所靖子(絵本ナビ編集部)
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