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小学生におすすめの新刊

【小学4年生から大人の方におすすめの新刊】『希望の図書館』

本と図書館を愛するすべての方に

本の良さってどんなところ?
本を読むことで何が得られるのだろう?

すでに本が好きな方は大人だって子どもだってきっとその理由をそれぞれに感じているはず。けれどもそれを誰かに分かりやすく説明するのは、なかなか難しいことですよね。その説明しづらい「本の良さ」を深い感動をもって教えてくれる物語が届きました。

1人の少年と図書館との素晴らしい出会いの奇跡

希望の図書館

出版社からの内容紹介

一九四六年、アメリカ。「黒人は、図書館に入れない」とラングストンの母親は言っていた。しかし、新しく越してきたシカゴの町で、ラングストンは、だれもが自由に入れる図書館を見つける。そこで、自分と同じ名前の詩人が書いた本と出会い、母親の「秘密」にふれることになる…。読書の喜びを通じて、小さな自信と生きる勇気を手に入れていく少年の物語。

どんなお話?(できるだけ分かりやすく、順に説明します)

  • 舞台は1946年のアメリカです。
  • 主人公はラングストン少年。年齢は中学生です。
  • 母親を病気で亡くした後、父親と二人で、アメリカの南部にあるアラバマという田舎から、北部の都市シカゴへ移ります。
  • ラングストン少年は、ふるさとから遠く離れたシカゴで、アラバマを恋しく思い、母親を亡くした寂しさと父親に本音を話せないもどかしさ、学校のクラスメートからのからかいやいじめに辛い思いを抱えながら暮らしています。
  • そんな時に出会ったのが<シカゴ公共図書館>でした。アラバマでは黒人は入れてもらえなかった図書館という施設に、シカゴでは誰もが利用できることを知ります。そこで、自分と同じ名前の詩人のラングストン・ヒューズの詩と出会った少年は、自分の心の中の言葉が書かれていると感じ、一気に本の世界に惹きこまれていきます。
  • 図書館で定期的に本を借りるようになったラングストン少年の周りでは人間関係を中心にどんどん変化が起きていきます。

どんな本?

  • 手に取った瞬間に、分厚く読み応えのありそうな本だという印象を受ける方が多いかもしれません。ページ数は203ページでそれなりにボリュームがありますが、物語は20章に分かれていて、それぞれの章が10ページ弱の長さ。実際に読み始めてみると、最初に手に取った時の印象よりも楽に読み進められるのではないかと思います。
     
  • 3章までは、ラングストンのままならない状況に、読む方もつらい気持ちが続いてしまうかもしれません。しかし、4章での図書館との出会いから、どんどん物語が展開していき、惹きこまれます。ですので、1~3章で物語に入れなくても、頑張って4章まで読み進めてみてほしいと思います。

注目したいポイントは?

  • 読者とは、住んでいる場所も時代も異なる背景でのお話ですが、ラングストン少年に共感する気持ちがたくさん見つかることでしょう。また本との出会いの尊さというのは、時代が変わっても住む場所が違っても共通する普遍的なものだということが感じられるお話です。
     
  • ラングストン少年が初めて図書館に足を踏み入れた時の驚きや感動、図書館について少しずつ知っていく様子がみどころです。
     
  • ラングストン少年が、図書館と出会い、自分と同じ名前の詩人と出会ったことで得ることができた宝物がたくさんありました。それこそが「本を読むことの醍醐味」を表しているように思います。こちらについては次の項でさらに詳しくお伝えします。
     
  • 物語の中で、すでに母親は亡くなってしまっていますが、ラングストン少年の思い出の中で回想される母親の姿がとても温かく描かれていきます。男性だけの暮らしの中で女性がもたらしてくれる光を感じられる場面がたくさんあります。
     
  • 図書館の司書クックさんの姿勢には素晴らしいものがあります。クックさんは、少年であるラングストンに対し、一人の利用者として大人と同じように公平に接します。その上で、慣れないラングストン少年の図書館利用をさりげなくサポートしたり、ラングストンの様子を見て、次の本をさりげなく支援してくれる姿に温かさを感じます。初めて利用する図書館での司書さんとのやりとりや、あることで図書館に謝りに行く場面などでは、共感する子も多いかもしれません。
     
  • お互い本音で話し合うことができず、心の距離を感じていた父親との関係はどう変化していくのでしょうか。また、男子は本を読むことよりも、外で遊んだり家まわりの仕事をした方が良いという価値観に対してどう理解を進めていったかも注目どころです。
     
  • ラングストン少年が出会った詩人のラングストン・ヒューズは実在する人物です。第二次世界大戦後、何百万人もの黒人が、アメリカ南部から北部に移り住み、その中でもシカゴに黒人人口が増えると黒人文化が花開き、さまざまな芸術家や作家の活動の場となりました。そんな歴史的背景や、当時活躍された文化人についても物語を通して知ることができます。
     
  • 表紙は、絵本作家の酒井駒子さんによるものです。薄水色で縁取られた中に立っている一人の男の子。標題の「希望の図書館」の文字は金色で、静かな印象と厳かな印象が共存しているようなとても素敵な表紙となっています。文字の金色は、そのまま物語の中にある「希望」や「光」を表しているようです。

ラングストン少年が図書館と出会って得たもの(一部をご紹介します)

  • 本をじっくり読みたいという気持ちから、初めてひとりぼっちでいるのがうれしいと思えるようになる⇒孤独と向き合えるように。
     
  • アパートの向かいに住む高校の先生のフルトンさん(女性)との関係にも変化が。ただの小間使いから、本を貸してもらえたり読んでもらえたり、深い交流が生まれるように。
     
  • 図書館で、いじめっこグループのひとりであるクレムにバッタリ出くわすのですが、お互いに本が好きなのだと理解すると、二人の距離が近づき、奇跡が起きます。
     
  • 詩人のラングストンの詩を読み続けていくうちに知った、母親の深い愛情と母親から受け継いだもの。それは時を超えて、ラングストンの強い支えとなっていきます。

好きな本を自由に読める環境がある、というのは、心の自由であり、心の拠り所にもなるということ。とくに、自分の心の居場所が見つからない時、寂しさや悩みにおそわれた時、ラングストン少年のように、本を読むことが心の支えになる場面がどんな子にもどんな人にもきっとあるのではないでしょうか。

 

赤ちゃんから大人まですべての人に公平に開かれている図書館と、日々生み出され、多くの方の手を借りて私たちのところに届くたくさんの本たちに感謝を込めて、この1冊をおすすめします。
 

 

秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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