大人も大満足! “ざんねんでない”動物絵本特集
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
最近話題の新しい絵本、注目の作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
今年の夏休みは、おうちで動物園を楽しむ!?
夏休みシーズン、お子様に「動物園に連れてって!」とせがまれているママ、パパも多いのではないでしょうか。しかし、思うようにお出かけできない状況がしばらく続きそうでございます…。
そこで今回は、家にいながらにして動物園に行った気分を味わえる絵本をご紹介させていただきたいと思います。
動物の児童書と言われて、真っ先に頭に浮かぶのが「ざんねんないきもの事典」シリーズでございます。動物学者の今泉忠明さま監修、累計発行部数380万部の大ベストセラーでございます。今年5月に発表された、小学生が投票して決定する第2回こどもの本総選挙でも、昨年に続き1位を獲得。シリーズ全点がトップ10にランクインしております。恐るべしでございます。人気、売り上げともに、ちっとも“ざんねん”ではございません(笑)。
「ざんねんないきもの事典」シリーズ
『ざんねんないきもの事典』の特長のひとつが、大人も楽しめる、大人からもゴイスーな人気がある点でございます。今回ご紹介する絵本も同様でございます。
小さなお子様はもちろん、大人の知的好奇心もしっかりと満たしてくれる内容になっております。
飼育員さん目線ならではの動物紹介を堪能できる絵本
人気絵本作家“あべ弘士”さまの絵本でございます。
映画にもなった大ヒット絵本『あらしのよるに』(きむらゆういち文・講談社)をはじめ、「かわうそ3きょうだい」シリーズ(小峰書店)、『100年たったら』(アリス館)など数々の絵本を出版、その数は200冊を超え、絵本の賞もたくさん受賞されております。圧倒的なリアリティとユーモアを併せ持ったその作品の数々は、動物絵本の分野では圧倒的な存在感を放っておられます。
あべさまは、「行動展示」を日本中に広めた、あの旭山動物園(北海道)で飼育係を約25年も務められたキャリアをお持ちでございます。さらに、野生動物を観察するため、アフリカや北極圏など世界各地を訪れていらっしゃいます。
「ざんねんないきもの事典」シリーズは、人間から見た“ざんねん”という切り口で、面白い動物雑学をたっぷり紹介していますが、『どうぶつえんガイド』はストレートに、動物園目線で紹介しております。
とにかく飼育員の経験からの目線がゴイスーに興味深いのでございます。動物園をあべさんにガイドしてもらっている気分で楽しんで頂けること間違いナッシングでございます。
たとえば、ゾウのページでは、ゾウの鼻がどのくらい器用なのか、飼育員(動物園)目線で、なおかつユニークに紹介されております。
楽しい動物雑学だけではございません。
なんといっても、あべさまの素敵な動物の絵を堪能できるのでございます。
あべさまならではの、体温が伝わってきそうな大胆なタッチの動物の絵と、解説のためのわかりやすくてユーモラスなイラスト、両方が楽しめるのでございます。
目次だって凝っております。
絵本とはいえ、内容&情報量はゴイスーに充実しております。「絵本だから、数ページだろ、あっという間に読み終わるだろ」なんて、とんでもハップン、歩いて10分でございます。読み応えは、かなりのものでございます。通常の絵本よりページ数も増量されております。1日、動物園で動物を見て回ったくらいの充実感はあるのではないかと存じます。
アートな科学絵本で味わう、動物たちの不思議な世界
そして、もう一冊がこちら。
動物の生態を切り絵で描く絵本
鼻で、土をほる? 耳で、“見る”? 目から血をふきだす? いろいろな動物が、自分たちの耳や目や、口、鼻、足、しっぽを使ってくりひろげる、おどろくべき行動。色あざやかな切り絵で案内する、動物たちの不思議な世界。
こちらは、海外の科学絵本でございます。
アメリカでその年に出版された最も優れた子ども向け絵本に毎年授けられるコールデコット賞オナー賞を受賞しております。
こちらも大人の知識欲を満たしてくれる絵本でございます。動物の興味深い生態をお楽しみ頂けます。
内容はというと、例えば、“目”のパートだと、カメレオン、ワシ、ヨツメウオ、ツノトカゲ、ショウガラゴ(夜行性のサル。島田ゆかさまの絵本『かばんうりのガラゴ』の主人公でございます)のそれぞれの目の部分だけが描かれ、ページをめくると、それぞれの動物の全体像が紹介されております。「ああ、○○の目だったんだぁ」と楽しめるようになっております。
しかし、この絵本は、それで終わらないのでございます。その絵の脇に、その動物たちの目の雑学が記されているのでございます。例えば、ツノトカゲの脇には「ツノトカゲは、追いつめられると、目から血を吹き出して敵を脅す」と記されております。
そして、なによりゴイスーなのが、大人を魅了する、その絵の美しさ、オシャレ度でございます。動物たち、動物たちのパーツが色鮮やかな“切り絵”で表現されております。その切り絵が、部屋に飾って置きたくなるほどなのでございます。コールデコット賞オナー賞の受賞は伊達ではございません。
アート度がゴイスーに高い科学絵本なのでございます。アートブックとして、大人が大人にプレゼントしても喜ばれるのではないかと。原書(英語版)だと、さらにオシャレ度がアップするかと存じます。
ちなみに、こちらの作者のスティーブ・ジェンキンズさまも、あべさま同様、『これがほんとの大きさ!』(評論社)や角野栄子さまが翻訳を担当した『こんにちは あかちゃん』(福音館書店)など、数々の動物の絵本を手掛けていらっしゃいます。
スティーブ・ジェンキンズ作の動物絵本
大人も楽しめる動物の生態(雑学)はもちろん、上質な動物の絵も楽しめる、“ざんねんでない”動物絵本。この夏は、こちらで動物園気分を楽しむのもよろしいかと……。
絵本でしか行けない動物園で遊ぼう!
そして、さらにもう2冊、ご紹介させてくださいませ。
こちらは前出の絵本とは、少々趣向が違っております。世界中どこにもない動物園をご体験頂ける絵本でございます。どこにもいない動物たちが登場する絵本でございます。
”だじゃれどうぶつ”いっぱいの動物園
”うえの”どうぶつえんの下には、”したの”どうぶつえんがあった!
ある日、上野動物園に行こうとしたぼくは、動物園前駅から下におりる階段をみつけます。階段を下っていくと、そこには“したのどうぶつえん”があったのです。驚いたぼくが、したのどうぶつえんに入っていくと、そこにはふしぎなどうぶつがたくさんいて…。
りんごりら、れいぞうこぞう、きりんご、わらいおん、かばなな、もしもしかもしか。声にだして読むだけで、思わずププッと吹きだしてしまう、だじゃれどうぶつの数々。
「ことばが豊かな子どもはだじゃれが得意である」という作者の考えをもとに作られた新感覚のことばあそび絵本です。
子どもが、よく親に尋ねる「うえのどうぶつえんにいったけど、したのどうぶつえんはどこにあるの?」という素朴な疑問。その謎にこの絵本がお答えします!
勘のよろしい方なら、お気づきの通り、「上の動物園(上野動物園)」をもじっております。
実は作者のあきびんごさま、上野動物園の隣にある東京芸術大学に通われていたそうで、当時、スケッチのために上野動物園に通われたり、アルバイトで動物の絵と名前のプレートを描いたりされていたとか。
しかし、この絵本には、上野動物にいる動物は一切登場いたしません。出てくるのは、りんごりら、れいぞうこぞう、とのしし、ぼろろば、ばいばいそん、とかいとなかい、もしもしかもしか、……。世界中どこを探してもいない、“したのどうぶつえん” でだけ生息する動物たちでございます。
親子でわいわい楽しめる動物絵本でございます。ステイホームのストレスの発散にもなること間違いナッシングでござます。
何の動物かわかる? ”ドット”で描かれた動物園
世にも不思議な動物園があるそうな。なんと、そこでは動物たちの体が四角でできているという。そんな不思議な「どっとこ動物」たちが子どもたちを待っています。
こちらの動物園に登場するのは、限られた数の正方形(ドット)だけで描かれた動物たちでございます。ドットで表現された動物たちを、親子で「これ、なんの動物だ?」とわいわい楽しめる絵本でございます。
ただし、難解なものもございます。それが逆に、読みがい、いや、観がいがあるのでございます。コツは、絵本から離れて観ることでございます。「ああぁ」と、なんの動物かわかった時の気持ちのよさが、たまりまセブンでございます。
ちなみに、こちらの絵本、2014年ボローニャ・ラガッツィ賞優秀賞を受賞しております。
作者の中村さまは、亀倉雄策賞(2018年)、毎日デザイン賞(2019年)を受賞するなど、注目のグラフィックデザイナーでございます。あの明和電機の一連のグラフィックも担当されております。大人の方には、グラフィック本(アートブック)として、お楽しみ頂けるのではないかと。そう、パパママがハマってしまう可能性大の絵本でございます。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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