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【追悼】『はらぺこあおむし』『パパ、お月さまとって!』愛され続ける絵本作家、エリック・カールの世界

私たちにたくさんのことを教えてくれたエリック・カール作品

絵本作家エリック・カールさんが、5月23日、91歳で亡くなられたという悲しいニュースが届きました。

世界中の子どもたちが愛してやまない、エリック・カールさんの世界。日本でも、『はらぺこあおむし』をはじめ、『パパ、お月さまとって!』『くまさん くまさん なにみてるの?』など、何十年も読み継がれている絵本がたくさんあります。また、3月には新刊『ありえない!』が発売されたばかりでした。

日本で出版されているエリック・カールさん絵本を振り返り、ご紹介していきたいと思います。

エリック・カール(Eric Carle)

 

1929年6月25日アメリカに生まれ、西ドイツで育つ。シュツットガルト造形美術大学で学んだ後、1952年にアメリカへ戻る。グラフィック・デザイナー、アート・ディレクターとして活躍後、絵本作家に。1968年に絵本『1,2,3どうぶつえんへ』(偕成社)を発表、ボローニャグラフィック大賞を受賞し、以来絵本作家として活躍。世界的な人気絵本『はらぺこあおむし』『たんじょうびのふしぎなてがみ』(ともに偕成社)などの傑作を生む。2021年5月23日死去。

誰もが読んだことのあるベストセラー絵本『はらぺこあおむし』

1969年にアメリカで生まれたこの絵本は、世界47か国で翻訳され、全世界で累計3000万部を販売する大ベストセラー絵本となりました。日本では1976年に出版され、変わらず愛され続けています。

ページに現れたしかけの穴全部に何度も指を入れて遊んだという子どもたちがどれだけいることでしょう。

現在では、ハードカバーの絵本に加え、ボードブックやポップアップ絵本、塗り絵絵本、バイリンガル絵本など、様々なかたちで子どもたちに読み継がれています。

世界中で愛される代表作

はらぺこあおむし

世界中で愛されている、エリック・カールの代表作『はらぺこあおむし』。
この絵本が子どもたちを魅了し続ける秘密は、どこにあるのでしょう?

暖かな日曜日の朝、たまごから生まれたのは、ちっぽけなあおむし。
あおむしは、お腹がぺっこぺこ。
食べものを探しに出たあおむし、月曜日にはりんごを一つ、火曜日にはなしを二つ。
まだまだぺっこぺこのあおむしは、水曜日にすももを三つ、木曜日にはいちごを四つ食べ…。
たくさん、たくさん食べたあおむしは、すっかりふとっちょ!
やがて、あおむしはさなぎになり、何日も眠ったあと、それは美しいちょうちょに変身したのです。

小さなあおむしが、卵から幼虫、さなぎ、蝶へと変化する様子を描いているのですが、単なる知識絵本では終わりません。

一つ目のポイントは穴の開いたしかけのページ。これが、まだお話を理解できない小さな子どもたちやあかちゃんをも虜にしてしまうのです。指を入れたり、めくったり。こうして絵本に親しむきっかけにもなっているのですね。

二つ目は、力強いストーリー。ちっぽけだったあおむしが、ぐんぐん大きくなっていき、最後には美しいちょうになるという展開は、何度読んでも元気と希望をもらえます。

三つ目は、エリック・カール作品の大きな魅力の一つでもある美しい色彩! 子どもたちの大好きな食べ物はどれも美味しそうに描かれ、あおむしを見守るおひさまは優しく描かれ、ちょうちょはうっとりするほど美しく描かれています。コラージュの手法により描かれるその世界観こそが、登場する全てのキャラクターを生き生きと輝かせているのです。

更に数字や曜日、一日の始まりと終わりが登場したりと、年齢を経てもずっと味わえる内容になっているのも、ロングセラーとして愛され続けている理由なのかもしれません。小さな子には持ち歩きに便利なボードブック版が大人気ですよ。

エリック・カールさんが描く鮮やかな動物たちの魅力

エリック・カールさんの絵本の大きな魅力である鮮やかな色彩。薄紙に何色かの絵の具で色を塗ったり模様を描いて「色紙(いろがみ)」を作り、下描きの絵に合わせて切り抜いて貼っていくことで描かれています。
エリック・カールさんの手で、鮮やかな色が重ねられたどれも世界に一枚だけの「色紙」。そこから作り上げられた動物たちは、生き生きとした自由な楽しさにあふれています。

エリック・カールさんの絵本デビュー作
くまさん くまさん なにみてるの?

見開き2ページにわたって描かれる、カラフルで美しい動物たちが魅力です。次へ次へとつながっていく展開が楽しく、おかあさんが子どもたちを、そして子どもたちは動物たちとお母さんを見ている、という終わり方で不思議な安心感をかもしだしています。

楽しみながら数の概念を学べる絵本
1、2、3どうぶつえんへ

「かずのほん」とサブタイトルがついているとおり、楽しみながら数の概念を学べる絵本です。汽車の後ろへ行くほどに乗っている動物達の数が増えていきます。各ページの下の方には、汽車の先頭からそれまで出てきた動物達が小さく表示されていて、「ゾウが1匹、カバが2匹、キリンが3匹、ライオンが4匹、で、ほーらクマが5匹ね。」といったふうに楽しめます。エリック・カール独特の美しいコラージュで表現された動物をながめているだけでも楽しくなります。各車両に小さなネズミ(これもエリック・カール作品によくでてきますが)がちょこんと乗っていて、かわいい演出をしています。

ページごとに驚きがある絵本
ね、ぼくのともだちになって!

面白さは「はらぺこあおむし」に負けないゾ。
エリック・カールの作品の中でも、「はらぺこあおむし」に負けないくらい好きな作品です。
小さなねずみが、いろいろな動物たちに「ね、ぼくのともだちになって!」って、聞きまわるんです。でも、中々いい返事をもらえないらしくて、最後にやっと、素敵な友だちに巡りあえるって、お話です。
「巡りあう」って、いうのを強調されたかったのかなぁ。この絵本には全ページを通じて、ある生き物が描かれています。これがまた、いい味を出してくれてます。
さぁ、ねずみくんのお友だちになってくれたのは誰でしょう?お子さんと一緒に楽しんで下さい。
( てんぐざるさん 30代・埼玉県久喜市  7歳、2歳)

優しいお父さんとしての一面が垣間見える絵本

鮮やかな色とダイナミックな構成のエリック・カールさんの絵本は、パパが読み聞かせする作品として人気が高いですが、物語にエリック・カールさんの父親としての子どもたちへの思いが込められているところが、1番の理由かもしれません。

子育てに奮闘する父さん
とうさんはタツノオトシゴ

子育て中の父さん魚たちが大奮闘!珍しい生態をもとにした愉快な魚の絵本。擬態する魚が隠れている透明シートのしかけページも。

娘を想う父親の姿
パパ、お月さまとって!

パパと娘をつなぐ一冊!?
エリック・カール、ファンの我が家。「はらぺこあおむし」にはまった娘の反応を楽しみにしていたんですが・・・全体的に暗めの色彩だからだと思います、最初の反応はあまり良くありませんでした。でも、段々とはまりだしてる気配が最近でてきました。と言うのも、主人公は女の子で、「パパ、お月様とって」というのがキーワード。「パパ」「お月様」「取って」、単語の意味が解るようになってきてから、この絵本の楽しさが解ってきたみたいです。だからこの絵本を読むときはパパと決まっている感じ。この絵本もやっぱり「しかけ絵本」なので大きくなった月のページを広げると、「わ~」といった感じに反応するんですよ(一歳3ヶ月でも解るんですね) 夜のシーンが多いので、当然暗い色彩にはなりますが、そこはエリック・カール!なんとも言えず、良い感じの青に、煌々と輝くような絶妙な月の色が、本当に絵本を超えていると思います。パパと娘のコミュニケーションにも役立つ一冊かもしれません。何でも娘に頼まれるとパパは弱いものですもんね・・・
(なぁなさん 20代・東京都国立市  女1歳)

人生の豊かさを伝えてくれる本。
おほしさまかいて!

絵かきはたのまれるままに星や太陽、木や花を描き、ついには星空へと旅立っていく。自然や宇宙、人生の豊かさを考えさせる本。

子どもたちへのメッセージ
ちいさい タネ

大人になるまで持っておきたい本です
ちいさなタネが多くの困難に遭遇しても生き残り、大きな花を咲かせ、そしてまたタネに戻り飛んでいくというとてもスケールの大きな話の絵本だなあと思いました。
この絵本のタネは人間にも置き換えられるのではないか?と思いました。色んな人生があって、それが偶然人の役に立つことがあったり、苦しいことがあったり、運がよく偶然を重ねて幸運を得られたり、人生って分からず色々な事があるんだよっていうのが、この一冊に詰まっていると思います。是非、大人になるまでこの本を持っていてもらいたいなあと思える本ですよ。
(ちっちちゃんさん 20代・神奈川県横浜市  女1歳)

友情、自由、空想……様々なことをおしえてくれる絵本

ドイツからの移民だった両親のもとにアメリカで生まれ、6歳でドイツに移住。ヒトラー率いるナチス党政権下で少年時代を過ごし、敗戦後の1962年に再びアメリカに移住……そんな経歴を持つエリック・カールさんの作品には、子どもたちに伝えたい様々なメッセージが込められていることを感じます。友情や自由、そして空想を広げること……子どもたちと一緒に、大切なことを感じ、考えてみたい作品がたくさんあります。

ほほえましい友情
いちばんのなかよしさん

いつもいっしょに遊んでいたなかよしの友達が、突然遠くへ行ってしまいました。男の子は寂しくなって、探しにでかけます。川を泳いで渡ったあと、星空の下で眠り、山や草原をこえて、森をとおりぬけ……ついに再会をはたします! 旅の途中の風景が、抽象画のような絵であざやかにえがかれます。男の子と女の子の友情がほほえましい絵本です。

絵を描く喜び

えを かく かく かく

みんな、青いうま、って、どう思う?
じゃあ、黄色いうしは? 水玉もようのろばは?
へん!っていう声が聞こえてきそうだけど、この絵本は「まちがった色? 絵をかくときに、そんなものはないんだよ」と子どもたちに伝えようと、エリック・カール(『はらぺこあおむし』の作者)がつくった本なんです。
ページをめくると、絵筆をもつ男の子が描くのは、画面いっぱいの青いうま、赤いわに。
黄色いうしや、ピンクのうさぎ、そして、うぅぅぅんとみごとな、緑のライオン!
それはもう、かっこよくのびのびしてカラフルで、最高にすばらしい動物たちばかり。

実は、この絵本の誕生にはこんなエピソードがあります。エリック・カールが子どもだったころ、住んでいたドイツでは、ナチス政権が人々の生活をコントロールしていました。
ある日、カール少年が自転車に乗って美術の先生の家にいくと、いつもカールの絵をほめてくれる先生が、こっそり、当時政権に「堕落した美術」として見ることを禁止されていたフランツ・マルクの絵を、見せてくれます。
マルクは1880年生まれ、第一次世界大戦で亡くなるまで、青いうまや黄色いうしなどカラフルな動物たちを描き、色にひそんでいる意味までも伝えようとした芸術家でした。
カール少年は最初ひどくびっくりしましたが、のちにマルクの絵から多大な影響を受けることになります。
そして、生まれたのが、今回の新作『えを かく かく かく』。「この『えを かく かく かく』のふしぎな色の動物たちは、あの日からずっと、ぼくといっしょに生きてきてくれたんだ」とカールは語ります。

色彩の魔術師といわれる作者が少年時代に、フランツ・マルクの絵を見て感動した、実体験をもとにつくられた本。
本をひらくと・・・
“さあ、絵をかこう。どんな色でかくか、じぶんが思うように、のぞむように、のびのびとかくことはとっても大事。じゆうに、いちばんぴったりだと思う色をさがして、絵をかいてごらん!“
アーサー・ビナードさんの訳はやわらかく、そんな作者のやさしい声がほんとうに聞こえてきそうです。
きみは、なにいろから、かきはじめるかな?

文字のない絵本

うたが みえる きこえるよ

バイオリニストの奏でる曲にのって描かれたイメージ??空の虹や地中のしずくから、色がはじけ飛びます。魅力あふれる異色絵本。

エリック・カールさんのお茶目な顔

最後にご紹介するのは、今年3月に出版された新刊『ありえない!』。原題は”The Nonsense Show”。2015年、エリック・カールさんが86歳のときに出版された作品の邦訳です。

「ありえない!」と思わず笑ってしまう、常識破りでヘンテコリンな場面の連続が待っています。

こんがらがった読者を眺めてお茶目に笑う、エリック・カールさんの顔が浮かんでくるような一冊です。

あっと驚く「ありえない」ショー

ありえない!

いきなり理解できない状態に出くわしたら、私たちは思わずつぶやいちゃうよね。

「……ありえない!」

でも、それって本当にありえない?
もしかしたら、ありえなくもないかも?
いや、ありえないから面白いの、か!?

さあみなさん、あっと驚く「ありえない」ショーが始まりましたよ。カンガルーのお腹から顔を出しているのは、2匹のヘビのケンカの原因は、ドラネコの首輪を引っぱっているのは、スピードは出ないけどどこまでも行けるタクシーの正体は……。いやいや、そんな。ありえないでしょ。

まだまだ「ありえない」は続きます。まさか自分がたおれるなんて、まさか飼っていた犬にあんなことを言われるなんて、まさか本当にとりかえっこするなんて……!

この絵本がお届けするのは、みんなが考えたこともない、常識破りでヘンテコリンな場面の連続。それを詩人アーサー・ビナードさんが見事に楽しく訳してくれています。うーん、確かにこれは、ありえないようでありえるのかも。ありえないというのは思い込みだったのか。みんなの頭がこんがらがってきた頃。

「なああんちゃって!」

ほらほら、エリック・カールさんが舌を出して笑っていますよ。

(絵本ナビ編集長・磯崎園子)

エリック・カールさんの絵本は、色や形の面白さ・美しさ、人生の大切なこと、私たちにたくさんのことを教えてくれます。そして、いつ読んでも新しい発見があります。

心に残り続けるたくさんの絵本をありがとうございました。これからも本を開き続けます。

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絵本ナビ編集部
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