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今こそ子どもと一緒に名作を読もう! ~もっと本を読んでおけばよかった、というパパママへ~

今こそ子どもと一緒に名作を読もう!『いやいやえん』

 

昔、もっと本を読んでおけばよかった。

子育て中に、絵本や児童書を目にすることが増えた時、そんな風にふと後悔してしまうこと、ありませんか? 

もし、そんな風に感じたら今が読むチャンス! 今こそお子さんと一緒に児童書を読んでいきませんか。どんな本を読んだらいいの? というお悩みについては、こちらの連載で子どもの対象年齢に合わせておすすめしていきますので、参考にしていただけたらと思います。


第1回目でご紹介するのは、4歳、5歳、6歳の子どもたちに読んであげたい名作『いやいやえん』です。なかなかボリュームのある一冊ですが、なぜ4歳頃から読んであげるのが良いのでしょう? その理由と、本の内容や親子で楽しむポイント、読み方などを合わせてお伝えします。

『いやいやえん』を子どもと読もう!

この赤い表紙、どこかで目にしたことはあるでしょうか?
はじめて刊行されたのが1962年なので、2022年の今年はなんと60周年になるロングセラーです! 絵本ナビの読者レビューも112件もついており、ファンの多さがうかがえます。親子三代で読まれている、という方もいらっしゃるかもしれませんね。

『いやいやえん』ってどんなお話?

平均して20ページから30ページほどのお話が全部で7つ。どのお話にも、元気でいたずらっこの保育園児「しげる」が巻き起こす楽しい事件がいっぱい詰まっています。リアルで身近な保育園の世界から、とても自然な流れでファンタジーの世界へ飛び、また戻ってくるという面白さも満載です。7つのお話1つ1つを簡単にご紹介します。

 

「ちゅーりっぷほいくえん」(9ページ)
この本の舞台となる「ちゅーりっぷほいくえん」の紹介。年長さんの「ほしぐみ」さんと、年中さんの「ばらぐみ」さんが出てくるのですが、四歳のしげるは「ばらぐみ」で「ほしぐみ」さんをいつもうらやましく思っています。また「ちゅーりっぷほいくえん」には約束が七十ぐらいもあり、そのうち、しげるは、一日で十七回も約束を忘れてしまいます。いったいどんな約束を忘れてしまったのでしょうか。

 

「くじらとり」(31ページ)
 「ほしぐみ」の男の子たちが、つみきでりっぱな船を作りました。名前を何にするか考えて、持ち物を準備して、くじらをつかまえに出発します。広い海に自分たちの船で繰り出す楽しさが、豊かな想像とともに広がります。ばらぐみのしげるは乗せてもらえませんでしたが、一緒に空想の世界を楽しんだようですよ。

 

「ちこちゃん」(21ページ)
お掃除のために三つ重ねた机に、しげるが登っていたら先生に見つかってしまいました。でもしげるは「ちこちゃんがのったから」とちこちゃんのせいにします。なんでもちこちゃんのまねをするのね、とちこちゃんの服を着せられると不思議不思議、しげるは全部ちこちゃんのするとおりになってしまって‥‥‥。子どもの言動でよくありそうな場面をよくつかんでいるユーモアたっぷりのお話。

 

「やまのこぐちゃん」(17ページ)
 「ぼくは、もうなんでもひとりでできるから、ほいくえんにいってもいいでしょう。」と手紙を書いてちゅーりっぷほいくえんにやってきた「やまのこぐ」。こぐはなんとくまの子でした。しげる以外のみんなは最初こわがっていましたが、だんだんうちとけて仲良くなります。表紙に出てくるこぐまが出てくるお話です。

 

「おおかみ」(25ページ)
しげるが保育園を休んで原っぱで遊んでいると、おおかみが見つけて食べてやろうとします。でもしげるの顔は朝食べたものでベタベタ、手も爪もどろで真っ黒!そのまま食べるとおなかをこわしそうなので、家にもどって、お湯とせっけんとブラシを用意して、しげるを洗うことにしたのですが……。

 

「山のぼり」(29ページ)
いいお天気の日、保育園のみんなは先生にお願いして山登りに行くことに。山は五つあって、黒い山だけにはぜったいに登ってはいけないと先生から注意を受けます。もちろんしげるもわかりました、と手を挙げたのですが、好奇心からふと黒い山の中に入ってしまいます。するとそこには鬼が住んでいて‥‥‥。読んでいるとくだものでおなかがいっぱいになってくるようなお話です。

 

「いやいやえん」(39ページ)
 タイトルの『いやいやえん』のお話が最後に登場です。何でも「いや」「いや」と言ってばかりのしげるは、いつも通っている「ちゅーりっぷほいくえん」ではなく、「いやいやえん」という保育園に入れられてしまいます。「いやいやえん」では約束事がなくて、なんでも好きなことをして良い自由な場所。でもしげるは「ちゅーりっぷほいくえん」の方が良かったみたい。「いやいやえん」ではいったいどんなことがあったのでしょう?

対象年齢の目安は?

主人公のしげるは4歳。保育園の年中さんとして登場します。そのため、お話の中心となるのは保育園での生活です。まずここに4歳ぐらいから読んでほしい理由があります。保育園の様子やしげるの行動に共感できそうな場面がたくさん出てくるので、実際に保育園に通っている年齢の子が特に楽しめるでしょう。小学校低学年の子たちでもまだ保育園の記憶が強いうちは、楽しめるのではないかと思います。

一方で、本全体のページ数は188ページとボリュームがあり、文字も小さめなので、ひとりで読めるようになるには、小学校中学年ぐらいになってからでしょう。しかしその時には、もう内容が幼すぎるということになってしまうので、『いやいやえん』は、4歳から6歳ぐらいの時に、ぜひ大人が子どもに読んであげてください。保育園や幼稚園で先生が園児に読んであげるお話としてもおすすめです。

親子で楽しむポイントは?

  • しげるのやんちゃな子どもらしさを楽しもう。
    いたずら好きだったり、保育園のやくそくを守れなかったり、つい好奇心が勝ってしまう、元気で子どもらしさいっぱいのしげる。それやっちゃだめだよね、ということをどんどんやってくれます。そんなしげるに、子どもたちはいろいろな気持ちを抱くことでしょう。一方パパママは、自分の子を見ているよう、とハラハラする場面もありながら、素直な子どもらしさにほっこりする場面もありそうです。
     
  • お話のユーモアを堪能しよう。
    読んでからのお楽しみですが、お話の中にはつい笑ってしまう場面がいっぱいあります。お子さんとパパママで笑う箇所が違うこともあるかも? それぞれがおかしいと思うポイントの違いをくらべてみるのも楽しいですね。
     
  • 守った方が良いやくそくについて子どもに自然に伝わるものがある。
    さまざまな場面で悪さをしてしまったり、ピンチに遭遇するしげるですが、それに対して「~しなさい」と教訓的に教えられるのではなく、ユーモアあふれるお話の中で、こういうことはしない方がいいのだな、ということが子どもの中に自然に伝わっていきます。

こんな風に読んでみる?

  • 一度に全部読もうとせず、読める文量だけ読もう。
    本全体のページ数は188ページ。一度に読むにはなかなかのボリュームがあります。一話ごとのページ数は20~30ページほどで、一日一話ずつ読んでいくペースでも十分ではないかと思います。お子さんもパパママも無理のない範囲で読み進めていきましょう。
     
  • 好きなお話から読もう。
    前から順番に読まなければならないという決まりはありません。タイトルの「いやいやえん」のお話が気になったら、一番最後の「いやいやえん」から読み始めても良いですし、表紙のくまが気になったら、「やまのこぐちゃん」から読んでみても良いでしょう。
     
  • 気に入ったお話は何度でも読もう。
    一度全部読んだ後は、お子さんのリクエストにしたがって、気に入ったお話を読んであげてくださいね。

実際に読んだ親子の声をご紹介します!

幼年童話デビューに最適!

来年は小学生。そろそろ幼年童話かな・・・と思っていた矢先に、
「いやいやえん、おもしろいよ!」と娘からのお勧め。

まさか彼女から幼年童話の立候補があるなんて思ってもみなかったのですが、保育園で先生がお昼寝の時間に「すばなし」として読んでくれたそうで、とーっても面白かったらしいのです。

有名な絵本で、長男(10)の時も一緒に読もうと思いつつ、読まずに終わった一冊でしたが、今回長女と読ませていただき、
本当にその面白さに感動。一冊の本と考えると長いのですが、一つ一つのお話は、ちょっと長い?くらい。絵は少ないのですが、描写がとってもイキイキとしていて、とっても気にいりました。
中でもしげるちゃんの悪さ加減は手を叩きたくなります。
どの話も面白いのですが、私は、「おおかみ」の話が一番気にいりました。

10歳息子も横でずっと聞いていて、あの時読めなかった幼年童話リベンジです。
これはぜひすべての幼年童話デビュー世代にお勧めしたい一冊です!
(ムスカンさん 30代・ママ 男の子10歳、女の子5歳)

何度も読んでいます

保育園のお話が数話おさめられています。
絵本ではなく、挿絵は多いけれど文章が主体の本です。

内容は、学校に入る前の、4歳から年長さんぐらいのお子さんに読んであげるのにぴったりだと思います。年少さんから年中さんの時にこの本を読んでもらったときの感想と、年長さんになってから再び読んであげたり、自分で読んだりした時の感想は、違ったものになるかもしれません。そして大人になり、わが子に読んであげる時にはまたさらに違った感想を抱くのかもしれないなと思います。

保育園の日常生活が、夢か想像か、それともいつか聞いた昔話か、不思議な世界とつながります。そこに境目はありません。子供たちはその世界でくじらを釣り、悪者をやっつけ、鬼に出会います。

6歳(年長)の息子は、とにかく無言で何度も読み返しています。
どうしてこの本にそんなに魅かれるのか不思議に思えるほどです。

叱られてばかりで自分より年下で……決して憧れるような存在ではないのだけれど、なぜか気になる主人公のしげるくん。繰り返し読みながら、共感したり嫌ったり、心の中でかばったり、裁いたりしているのでしょうか。
(ころぼっちさん 30代・ママ 男の子6歳)

気に入ったよ。

6歳孫娘に。

絵本読みではパラパラと全体の絵を眺めてから文の読みに入る習慣の孫娘にとって、挿絵的な絵ではイメージが湧かないのか、珍しくなかなか読んで」と言いません。ところが、読み始めると終わりまでいかないと気が済まない孫娘、一気に(といっても2時間位かけて)読み終えました。(くたびれました。)

翌日、「この本、気に入ったよ」と持ってきました。また通して? こちらの内心を感じ取ったのか、「好きなところだけでいいから読んで」とのこと、ほっとしました。 ご指定は、「ちこちゃん」、「山のぼり」、「いやいやえん」でした。

現実の保育園生活でも「しげる」なみの腕白な男の子が気になる存在の孫娘、刺激されるものがあるのでしょう。私の余計なひとこと。「好い子ばかりじゃ面白くないものね」に、何か言いたげな顔をしていました。
(センニンさん 60代・じいじ・ばあば)

大笑い

有名だけど、子どものころに読んだ記憶がなく、大人になって読みました。一人でよんだときは正直そんなに面白いとは思いませんでした。
でも、子どもと一緒に毎晩寝る前に1話ずつ読むと、読むテンポが違うからか、子どもが笑うからか前とは違う楽しさを味わいました。読み聞かせの本なんですね。

とくに「おおかみ」の話は大笑いで、私も途中で読めなくなるぐらい笑えて仕方がありませんでした。
(まことあつさん 30代・ママ 男の子7歳、男の子4歳)

お話を作られたのは?

「ぐりとぐら」シリーズでおなじみの、中川李枝子さんと、山脇百合子さん(『いやいやえん』を書かれた時は大村百合子さんの名前で書かれています)実際に保育園で勤めていらした中川李枝子さんが描く子どもたちの姿は生き生きとしていて、お話の中で元気に動き回っているのが感じられます。主人公のしげるは、いたずらっ子でやくそくもたくさんやぶってしまう子なのですが、とっても子どもらしく、のちに『子どもはみんな問題児』という本を出された中川李枝子さんが幼い子どもたちに注ぐ温かな愛情が感じられるようです。山脇百合子さんの挿絵も「ぐりとぐら」シリーズを読んできた親子には、ぐっと安心感が感じられるでしょう。保育園の先生やお母さんなどの大人の姿が、とくに子どもからどんな風に見えるか、という視点を大切に描かれているようで、そのあたりも子どもたちの心をつかむ絵の秘密がありそうな気がします。

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents_old.asp?id=195 『子どもはみんな問題児。』中川李枝子さんインタビュー

最後に、他にもお二人がペアで作られた4歳から小学校低学年ぐらいまでにおすすめのお話がたくさんありますので、ご紹介します。

やまわきゆりこさん/作・絵の幼年童話

いかがでしたか。

 

私自身の『いやいやえん』の思い出は、幼稚園で読んでもらったことがあるようで、今回じっくり読み直しながらお話の細かいところの記憶が蘇ってきて、その懐かしさに嬉しい気持ちになりました。

 

・ほしぐみがおにいさんおねえさんに思えたこと
・船がもどってきた時に、ほしぐみの女の子たちが並んで花たばを持っている場面
・天井をさわった時に指についた白いこな
・おおかみが見たしげるのきたないべたべたの顔
・黒い山で出会った鬼の子のすがた
・「いやいやえん」の先生の顔、一時にならないとあかないドア、パンの間にはさまっているほうれんそう……。

 

もし子どもの頃にどこかで読んでもらったことがある、という方は、ふいに記憶の中の懐かしい場面に出会えるということがあるかもしれません。今回、はじめて出会うという方も、お子さんと一緒に心に残る場面をあちこち探してみませんか。

秋山朋恵(あきやま ともえ) 

絵本ナビ 副編集長・児童書主担当

書店の本部児童書仕入れ担当を経て、私立和光小学校の図書室で8年間勤務。現在は絵本ナビ児童書主担当として、ロングセラーから新刊までさまざまな切り口で児童書を紹介。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、まず本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選ぶことを1番大切にしている。編著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。

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絵本ナビ編集部
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