「おはよう!春ですよ!」 はしりだしたくなるのはどんな絵本?
耳をすませば、聞こえてくるのはどんな音? いいにおいにさそわれて向かう先はどこ? 浮きたつ心をおさえられないのは、どの子かな? あたらしい季節がやってくる時は、いつだって祝福でいっぱい! そんな今の気持ちにぴったりな絵本を3冊ご紹介します。
「おはよう!春ですよ!」 はしりだしたくなるのはどんな絵本?
わたしの耳は、ときどき遠くへ旅をするんだよ。ほんとだよ。
『はっぴーなっつ』
わたしの耳は、ときどき遠くへ旅をするんだよ。ほんとだよ。朝早くにベッドの中で耳をすませば、きこえる、きこえる。
とりの声や、やさしい風の音、明るくなる空の音に、配達の音。バスが走り出せば、ボートも動き出し、さかながピョンとはねて、ミツバチがとんで。それからそれから……わたしの目をひらかせてくれる。
「おはよう!春ですよ!」
夏がくれば、部屋の中に雲が入ってきて、そこかしこに夏のにおいをふりまくの。気がつけば、いつの間にかわたしはすっかり夏のこども。秋からは、招待状が届きますよ。嬉しくて嬉しくて。ポケットにいれて、出かけます。そして冬はとっても静か。ロウソクに火を灯すと……。
「わたし」のまわりのあちこちに隠れているのは、移り変わる季節の小さな「けはい」。それをたぐり寄せていくことが、こんなにも嬉しくて、こんなにも心を浮き立たせてくれるものだったなんて。この気持ち、なんだかずっと忘れていたみたい。
タイトルの「はっぴーなっつ」は、幸福の「ハッピー」と、作者の荒井良二さんが子どもの頃から愛読されていたスヌーピーの「ピーナッツ」とをかけ合わせた造語なのだそう。その表現も、コマ割りで細かくユーモラスに描かれる部分と、明るい色彩で画面いっぱいに描かれた幸福感あふれる絵が交互に現れ、オマージュと個性が融合した、とても新しい表現となっているのです。
晴れ渡った空のような背景の色。そこに立つ黄色いワンピースを着た女の子。一度でもこの絵本を体験すれば、表紙を見ているだけで、心があっという間にどこかへ飛んでいってしまいそうな気分にさせられます。そのくらい愛らしく、幸せな1冊です。今日とは違う明日がきて、去年とは違う春がくる。そんな希望がたくさんの子どもたちに届きますように。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
そうそう。このにおい、このにおい!
『おねぼうさんはだあれ?』
森に春が来て、うさぎのミミちゃんは冬ごもりからなかなか起きてこない友だちを起こしに行きます。
「おきて おきて もうはるよ」
「おねぼうさんはだあれ?」
くまのフワくん、ヤマネのクルリくん、とかげのスールちゃん、かえるのピョントくん……。
みんな気持ちよさそうに眠っています。
ミミちゃんは、森で摘んだ、いいにおいの花をかごに入れて、ひとりひとり、友だちをたずね、花束を置いてまわるのです。
「おきて おきて もうはるよ」
「おねぼうさんはだあれ?」
繰り返されるやさしい調子に、自然に引きこまれます。
ミミちゃんが「トントン」とたずねる、友だちのおうちもそれぞれ素敵。
でも……はやく一緒に遊びたいのに、誰も起きてくれない……。
おひさまがあたたかく照らす野原で、ミミちゃんも眠くなってしまいますが……。
『マルマくんかえるになる』(ブロンズ新社)、『たんぽぽのおくりもの』(ひかりのくに)などの文章を手がける詩人、絵本作家の片山令子さんは、他にも夫で同じく絵本作家の片山健さんとの『たのしいふゆごもり』(福音館書店)をはじめとした、たくさんの作品を世に送り出しています。
そのどれもがあたたかさと、ほのかなユーモラスさが心地いい絵本ばかりです。
絵を手がけたあずみ虫さんは、アルミ板をカッティングする技法が独特の作家さん。
植物や生きものの特徴をよくとらえ、生命力のある雰囲気が魅力的です。
(個人的には、山野草のカタクリや、野いちごの白い花の可憐さにときめいてしまうほど!)
それもそのはず、絵本に登場する植物は、学研の植物図鑑編集部がひとつひとつチェックし、監修されたというプロのお墨付き!
「おねぼうさんはだあれ?」と子どもへの語りかけのような言葉から、素朴で喜びあふれるエンディング。
親子で何度も読みたい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
おうちを飛び出して、元気に、まっすぐに…!
『ひよこは にげます』
ひよこがにげます。
おうちを飛び出して、元気に、まっすぐ。
少し休んだり、休まなかったり。
草むらににげたり、じっとしたり、バスにのったり。
ひよこは絵本の中で、元気ににげまわります。
にげてにげて、その先にたどりついたのは……?
『きんぎょが にげた』から40年! 今度はひよこがにげています。迷うことなく、楽しそうに、さまざまな方法で。その姿の愛らしいこと。
楽しい気持ちになっている時も、ちょっぴり暗い気持ちになってる時も。絵本を開けば、いつでも小さな明るい彼らが駆けています。ひよこはにげるもの、当たり前だけど、なんだか嬉しくなっちゃいますよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
読んだ後、心が浮き足だってきて、なんだかどこかに走り出したくなってくる。そんな幸せな気持ちにさせてくれる3冊は、どれも明るい黄色が印象的。昨日とはちがう今日が来て、きっとまた違う明日がくる。そんな希望を見せてくれているようですね。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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