パンいち時代。
「ただいまー! はあ、暑い暑い」
そういって、おもむろにシャツを脱いで、ズボンを脱いで、くつしたも脱いで。冷蔵庫に直行して牛乳をコップに入れ、腰に手を当てゴクンゴクン。
「ぷはーうまい! やっぱり牛乳は最高だね」
牛乳が最高なのはいいけれど……その姿は堂々とした「パンいち」です。パンツいっちょうです。どうして、そんなにさらりと自然に「パンいち」になれるのでしょう。どうして、そんなに迷いがないのでしょう。
息子の話です。
ご飯の時間は頼み込んで、やっとTシャツを着てくれたと思っていたら、すぐにやってくるお風呂タイム。お風呂の後は暑いから着たくないと、当然のようにまた「パンいち」で過ごします。寝る時はお腹を冷やすからと、また頼み込んでパジャマを着てもらうのだけど、夜中に気がつけば「パンいち」。暑ければ、寝ていたって自然と脱ぐようです。
そのうち、こちらも目が慣れてきます。「パンいち」が強烈なのは、パンツのせいだ。そうだ、おしゃれなパンツを履かせよう。ボクサータイプで模様が入ったパンツをスーパーで必死で探す母親。そんな親心はつゆ知らず、ひたすらはき心地の良さ重視で使い古した馴染みのパンツを愛する息子。人知れぬ、我が家だけの攻防が繰り返されるのです……。
これが我が家の「パンいち時代」。この絵本を読んだ時、あまりにも違和感を感じなかったのは当然なのかもしれません。それにしても、動物たちのパンいち姿は新鮮です。
おやおや、台所にいるのはパンツ一枚でうろうろしているだいくんです。
「こらっ。パンツいっちょうで あるかないの」
ほら、おかあさんにおこられた。でも、だいくんは聞きます。
「パンツいっちょうって なあに?」
確かに、パンツいっちょうって語呂がいい。嬉しくなっただいくんは、思わず外に飛び出します…パンツいっちょうで!!
ふと気がつくと、どうやら迷子。そこに通りがかったのは、だいくんと同じパンツいっちょうの…こだぬき!?こだぬきは言うのです。
「パンツいっちょうめへ ようこそ」
そこは、誰もがみんなパンツいっちょう、だいくんにとってはパラダイス!うさぎもコアラもやきも、からすだってみーんなパンツいっちょう。そんな町があるなんて、聞いたこともないですよ。一体、だいくんはどこに迷い込んでしまったのでしょう!?
いつも、とんでもない設定と展開で読者を楽しませてくれる苅田澄子さんのお話に、今回タッグを組んでいるのはご存知『ほげちゃん』のやぎたみこさん。そんな二人が描く「パンツいっちょうめ」、これは期待が高まりますよね。圧巻なのは、スーパーの売り場。なにしろ、お客さんの動物たちがみんなパンツいっちょう姿。人間と比べてグッとおしゃれに見えるのがポイント。おしりの形だってそれぞれチャーミングです。それどころか、売っている野菜や魚、パンにおもちゃ、みんながパンツをはいている。こんなに一度に沢山のパンツを見たのは初めてです。
さてさて、だいくん。いつまで「ぱんついっちょうめ」で遊んでいるつもりなのかしら?そこにやってきたのは…。
子どもたちは、どうしてこんなに「パンツいっちょう」が好きなのでしょう。試しに大きな声で「パンパン パンツ パンツいっちょうー!」と叫んでみると、その解放感が少し理解できるような、できないような。子どもにしか味わえない特権の世界なのかもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
いらないものは脱いでいくスタイルの我が息子。最低限身につけるものの絶対条件は、「着心地のいいもの」「肌触りに違和感のないもの」。あれ、それって結構究極のオシャレなのでは? 絵本の中の「パンいち」の動物たちとの共通点を見出して喜んでしまう私は、ちょっと「パンいち時代」に長く居過ぎたのかもしれません。
まだまだあるよ、パンツ絵本
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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