【編集長の気になる1冊】自分の名前って、くすぐったい。『アルマの名前がながいわけ』
自分の名前って、なんだかくすぐったい。
小さい頃から当たり前のように呼ばれてきた名前だけど、急に意識し出すのは、やっぱり学校に行くようになった頃だろうか。大人の人や先生に改まってフルネームを呼ばれるとびっくりする。
私って、そんな名前なのか。
もっと戸惑うのは、自分の名前を自分で言わなくちゃならない時。なんかもう、すごく恥ずかしい。大きな声で言うのが恥ずかしい。それは「ソ」なのか「ノ」なのか「コ」なのか、発音がなんだかみんなと違うような気がしてくるのである。「ノ」かな。なんかスパッとした響きの名前の子がうらやましいと思ったり。
書き文字はどうか。保育園の時に、ひらがな付きの積み木で遊びながら独学で文字を覚えたらしい私は、見事に全てが「鏡文字」であった。絵本にマジックで記入してある自分の名前は、全てが左右ひっくり返っており、それは名前というより「記号」のよう。今見ると結構かっこいい。
ところが、漢字となるとそうもいかない。「園子」の園の字の中身がおさまりきらなく、大きくはみ出してしまう。小学校の廊下にずらりと貼られた書き初めの中でも、その響きに似合わず図体のでかい「園」の字がやたら目につく。バランスが悪すぎる。うーん、可愛くない。
思春期になってメンドクサイお年頃になってくると、親に向かって「名前が書きにくい」だの「画数が多い」だの文句を言う私に、困ったような、あきれたような顔をする母親。その割には学校で「あだ名」をつけて呼ばれると納得できなくて不機嫌になったり。私の名前を勝手に変えないで欲しい!
……あれ?
自分の名前、結構気に入っているのかな。
アルマの名前がながいわけ
「アルマ・ソフィア・エスペランサ・ホセ・プーラ・カンデラ」。
……長い!
でも、これがアルマの名前なんですって。
アルマも思っているのです、長すぎるって。
ぜーんぶ書こうとすると、紙からはみだしちゃう。
だけど、これにはこんなわけがあるのだと、
アルマのパパが教えてくれます。
ソフィアは、アルマのおばあちゃんからもらった名前。
本と詩とジャスミンの花が大好きだったおばあちゃん。
もちろんパパのことも。
「わたしも、本や花がすき。それに、パパもだいすき!」
ほらね、アルマの中にはソフィアもいる。
エスペランサはひいおばあちゃん、ホセはおじいちゃん。
そしてそして……。
パパが教えてくれた名前の由来、なんて素敵!そして、アルマはアルマ。家族で最初のアルマ。どんな物語がつくられていくのでしょうね。
ペルーの首都リマで生まれ育った作者フアナ・マルティネス-ニールによるこの絵本は、2019年度コールデコット賞オナーを受賞。自分の名前が自分らしくなっていくって、どういうことなのかな。ちょっと考えてみたくなりますね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
国が違うと、名前の付け方もこんなにも違う。不思議だけど、面白い。家族みんなの名前を背負っていくのって、誇らしいような、ちょっぴり重いような。でも、私だって、これだけ長い年数を自分の名前と共に歩んでくるとさすがに愛着がわいてくる。名前によって育てられている部分だって、きっとあるよなあ……と振り返る。他の名前じゃ、きっとしっくりこない。
今、思春期真っ只中の息子が不機嫌そうな顔をして言う。
「この名前が嫌なんだよなあ……」
私はちょっと困ったような、あきれたような顔をして息子を見守る。だけど、心の中では思っているのだ。わかる、わかる。自分の名前って、くすぐったいよね……! ふふふ。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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