【編集長の気になる1冊】でんしゃに、のりたい。『でんしゃにのって』
切符をにぎりしめ、かばんは膝の上に乗せ、浅く座りつつ、姿勢はまっすぐ正面を向く。これが私が一人で電車に乗る時のスタイル。
「ひとりで乗ってるの? えらいわね」
そう言って、向かいに座っているおばあさんが飴をくれる。なんでわかるのかなって思うけど、傍から見れば緊張しているのがバレバレなのでしょう。なにしろ数十分もそのまま動かないのですから。
小学生の頃、遠くのおばあちゃんの家に行きたくて、何度か一人で新幹線に乗ったことがある。一人と言っても、乗る時は母親に見送ってもらい、到着すれば、ホームまでおばあちゃんが迎えに来てくれているのである。ただの「移動」です。末っ子の私にはこれが限界。乗り換えなんて怖くてできません。
だけど息子は違う。緊張感がまるでない。途中で降りる駅を何度も伝え、メールをするように言い聞かせ、こちらからも電話をすると念を押す。「うんうん」とうなずきながら、フラフラと自席へたどり着き、深く座り、漫画を取り出す。
「たいしたもんだ」
母親の私も関心するほどの余裕な態度。だけど……事件は起きた。熟睡してしまったのである。まわりの親切な駅員に助けられ、なんとか無事にじいじ、ばあばのところにたどり着いたのでよかったのだけれど、顔は真っ白になっていたのだとか。お察しします……。
こんな風に、実際に電車に乗る時はある程度の「緊張」が必要だという事は言うまでもありません。大人になってからだってそうです。だけど、やっぱり電車に乗るのは好きなのです。それは、こんなのどかな光景を夢見てしまうからなのかもしれません。
でんしゃにのって
おやおや、うららちゃん。
ひとりで電車に乗って、おばあちゃんの所へお出かけ?
手にはお土産と切符をしっかり持って。
降りる駅は「ここだ」駅です。
ガタゴトー ガタゴト―
ガタゴト― ガタゴト―
電車に揺られていると、次々にお客さんが乗ってきます。
「わにだ」駅ではわにさんがたくさん、「くまだ」駅ではくまさん達が。
次に乗ってきたぞうさんが大きすぎて、うさぎさんの座るところがない!?
さらに乗ってきたへびさんはどうするの?
でもね、みんなが機転を利かせてどうにかなるのです。
ひとりで座っているうららちゃんも、なんだか楽しそう。
ガタゴトー ガタゴト―
ガタゴト― ガタゴト―
あまりに心地が良いから、ついついウトウト。
うららちゃん、大丈夫かな? おばあちゃんに会えるのかな。
とよたかずひこさんが描いてくれた「でんしゃ絵本」は、やっぱり声に出して読むのが一番。期待通りの気持ちよさ。のんびり、ゆったり、みんながあたたかく見守ってくれていて。こんな一日、過ごせる機会があったらいいよね。
でもまずは、絵本の中でたっぷり味わい尽くして。何回読んでも楽しいですよ!
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
息子が小さい頃、絵本がボロボロになるまで繰り返し読み続けたこの絵本。「ガタゴトー ガタゴト―」というフレーズを聞くだけで、なんだかウトウト眠くなってきて、親子で居眠りしたものです。気持ちのいい時間。
あれだけの経験をしたにも関わらず、息子が変わらずに電車を乗ることを楽しめているのは、この絵本のおかげかもしれませんよね。大事な時間だったのです。
「うららちゃんののりものえほん」シリーズ
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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