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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】私の中にもアントニオ。『どれもみーんなアントニオ!』

 

「こんなに小さいのに、すごいわね」

 

そう言われるのが嬉しくて、習い事だって勉強だって、人より少し早く進もうと必死に頑張る子どもの頃の自分。どうして頑張るか、なんて考えたこともなかったけど、父も母も嬉しそうにしてくれるしね。

 

「いつも明るいね」

 

言われればそんな気がしてきて、おどけてみたり、大きな声で笑ったり。たくさんの友達の輪の中にいれば楽しいしね。だけど、初めての場所はいつも苦手だし、知らない人には話しかけられない。思わぬ場所で友達を見かけても、見て見ぬふりをすることだってある。

 

「いい子ね」

 

末っ子だし、父にも母にも兄にだって言いたい放題だし、家に帰ればずっと怒って笑わない日だってあるから、そんな事ないのはわかっている。わかっているけど、私のことで家族が笑ってくれているとすごくいい気持ち。

 

私って、どんな子だろう。いつもわからなくなる。わからなくなるから、色々と考えて演じてみる。どれが正解かもわからないけれど、とにかく可能な限り。だけど、そのうち思い通りにいかなくなることが増えていって……。そうやって段々と悩みを増やしながら、大人に近づいていく。きっと誰もが通る道なのかもしれない。

 

でも、明快にわかっていた事もある。それは、例えば大きな襟やセーラーカラーの服を着ている時、ポニーテールをして髪の毛を揺らしている時、服の後ろに大きなリボンがある時や、浴衣に金魚みたいな大きな帯をしめている時。要するに後ろ姿が決まっている時、なんだか「私は最強だ」と思えるという事。理屈ははっきりしないけど、うしろに羽が生えているような気持ちになるのかもしれないし、力をもらえているような気もする。そして、そう見えている自分が好きなのだ。

 

そんな時、私は無敵だし、自由にふるまえる。それが私の中のアントニオ。

どれもみーんなアントニオ!

どれもみーんなアントニオ!

確かに、ここに一人で座っているのは、ただの男の子。だけどアントニオは、見た目よりずっとすごいんだ。だってね……

ママとパパといる時は、二人を喜ばせたり、わがままを言ったり、時には家出をするふりをする「息子」になる。おばあちゃんといる時は「孫」、マチルダおばさんといる時は「甥っ子」。当然その子どもたちと遊んでいる時は「いとこ」だね。

学校にいけば「生徒」になるし、図書室に行けばアントニオは「本の虫」にもなる。黄色いタコの水泳パンツをはいている時の自分は「見られたい」って思うし、時々バスの乗客になるのを「やめる」ことだってできる。家族の前では作家や役者になることだってある。

アントニオは、なんにだってなれるのだ。心も体も自由! 誰もしばりつけることなんてできないんだ。だけどね。どんなアントニオだったとしても、ぼくにとってはいつでも大切な……。

一人の普通の男の子を中心に、中へ外へと自由に広がっていくその世界は、とてもキラキラと眩しくて。だけど、その生き生きとした姿を見ていると、誰もが持っているであろう無限の可能性を信じずにはいられなくなるのです。そう、この絵本を読んでいる自分にも、あなたにも。

第26 回いたばし国際絵本翻訳大賞(イタリア語部門)最優秀翻訳大賞を受賞したこの作品、初邦訳となる著者なのだそう。自分の中を見つめるだけでなく、その先の表現する力にまでつなげていってくれるような、子どもたちには大切なきっかけとなってくれるであろう一冊です。

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

母としての自分、仕事をしている時の自分、遊んでいる時や好きな事をしている時の自分。大人になるにつれ、「なりたい自分」と「必要とされている自分」を整理し、上手に表現できるようになってくる。そうして自分が増えていくにつれ、人生に深みが増し、喜びも増えていく。それこそ子どもたちにしっかりと伝えていかなくちゃいけないこと。

 

だけど、そういえば。
……最近忘れていたんじゃない?

 

確かに、これから会う人の目を気にしながら、鏡を正面からばかり見て支度をしている気がする。たまには思いきって、背中に大きなリボンがついた服でも着てみようかな。似合わなかったとしても、そんなの気にしちゃいられないよね!

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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