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【イベントレポート】「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズ出版記念

「子どもたちに歌舞伎の楽しさを知ってもらえたら」と、歌舞伎俳優の中村壱太郎(なかむら・かずたろう)さんが手がけた初の著書「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズの『茶壺』と『狐忠信』が、2022年11月28日に発売されました。
発売日前日の11月27日(日)に紀伊國屋書店新宿本店にて行われた出版記念イベントには、事前に招待された親子グループに加えInstagramライブ視聴者のみなさまも参加し、中村壱太郎さんと絵を描いた小川かなこさん(『茶壺』絵)、くまあやこさん(『狐忠信』絵)といっしょに、楽しいひとときを過ごしました。そのレポートをお届けします。

中村 壱太郎(なかむらかずたろう)

歌舞伎俳優。上方歌舞伎を中心に女方として歌舞伎の舞台に立つかたわら、ラジオやテレビなどにも活動の場を広げている。また、「春虹」の名で脚本執筆、演出も手がける。2020~21年放送のNHK Eテレ「にっぽんの芸能」では、監督を務め、本作の原作ともなった「紙芝居歌舞伎」が放送された。絵本の文章を手がけるのは本シリーズが初めてとなる。

小川 かなこ(おがわかなこ)

イラストレーター。絵本作家。第7回TIS公募大賞受賞など受賞歴多数。絵本に『ペーとぼく』(やづきみちこ 文/くもん出版)、著書に『パンダのたこやきやさん』『パンダのソフトクリームやさん』『うさぎさんのたんじょうび』(こどものとも年少版、福音館書店)。ガラス絵の手法で描かれた絵は鮮やかな色づかいが特徴的。

くま あやこ(くまあやこ)

イラストレーター・版画家。愛犬ブラウニーとノアを描いたのがきっかけで、絵の世界に。絵本に 『マンゴーの絵本』(農文協)、『きみといっしょに』(タリーズコーヒージャパン)、挿絵に「ねこ町いぬ村」シリーズ(小手鞠るい 作/講談社)、「ソラタとヒナタ」シリーズ(かんのゆうこ 作/講談社)、NHK Eテレ「おはなしのくに」にて『ともだちは海のにおい』(工藤直子 作)など多数。

出版記念イベントレポート

イベントでは、最初に中村壱太郎さんが『茶壺』を読み聞かせてくれました。『茶壺』の登場人物は、いなか者の麻胡六(まごろく)、すっぱ(泥棒)の熊鷹、そして目代(警察官)の3人。それぞれ声色を変えて読んでいく壱太郎さんの声に、子どもたちもじっと耳を傾けています。「歌舞伎」の舞台は難しいイメージがありますが、絵本になると小さな子が純粋におはなしを楽しめることが、よくわかりました。
読み聞かせの後は、歌舞伎や絵本について壱太郎さんがわかりやすく解説。『狐忠信』も同じように、読み聞かせの後に解説がありました。その解説を元に、それぞれの絵本の魅力をお伝えします。

《見て!》
顔を見ただけで「どんな人か」がわかる! 歌舞伎のおもしろさをつめこんだ絵

茶壺

中村壱太郎さんが文を、小川かなこさんが絵を、そして尾上右近さんが朗読を担当された豪華歌舞伎絵本!
歌舞伎俳優の中村壱太郎さんが子どもたちに向けてわかりやすく書きなおしたお話に、人気イラストレーター小川かなこさんが歌舞伎の美しさを表現したイラストをつけました。アプリからは歌舞伎俳優尾上右近さんの読み聞かせも聞くことができ、文と絵、音の3つの面白さを楽しめる内容になっています。
歌舞伎の解説・豆知識も収録しています。

『茶壺』は能楽をもとにしてつくられたコメディー舞踊劇。どろぼうの熊鷹とまぬけな田舎者のユーモラスなやりとりが魅力のお話です。

「歌舞伎は昔、江戸時代から演じられているお芝居です。ですから昔の街並み、情景が描かれています」と、歌舞伎を知らない子にもわかりやすく物語の背景を説明してくれた壱太郎さん。元は舞台の演目だったものを絵本にしたときに、こだわったところが「人物の描き方」だそうです。

『茶壺』の登場人物。左から熊鷹、目代、いなか者。顔つきだけでなく、衣裳の違いにも注目

壱太郎:いなか者は、ちょっとぼやっとしている感じ。逆に泥棒は、ヒゲが生えていて悪そうな感じがするでしょう。パッと絵を見たときに、良い人なのか悪い人なのかがわかるというところを、大事に描いてもらいました。もうひとりおじいちゃんの目代さんがいますが、これが今でいう警察官になります。それぞれ濃いキャラクターで、見分けがつきやすいでしょう。歌舞伎の舞台メイクや衣裳、かつらを元に、小川かなこさんがよりオーバーに描いてくださいました。

小川:いつもは女の子を描くことが多いのですが、『茶壺』の登場人物は江戸時代の人で、しかもおじさん3人。描き始める前は「どうかな」と思いましたが、熊鷹のぶしょうヒゲやまげの結い方の違いなど、描いていてすごく楽しかったです。衣裳は、舞台のものとは少し変えていて、裃(かみしも)の模様を、泥棒のイメージに寄せて唐草模様にしました。
絵を描くにあたって、最初にいなか者が酔っ払って歩いてくるところの街並みを、どう描こうかから迷いました。おはなしには特に季節が書かれていなかったので、お茶が好きでお茶を買いに来たということから、「八十八夜あたりの春かな」と想像して。舞台とは違う絵本なりの風景というか、お茶どころである静岡、浜松の風景をちょっと感じてもらえたらなと思って、背景に春の植物を多く描きましたので、そこも楽しんでもらえたらと思います。

壱太郎:よく見ると、歌舞伎の舞台には登場しないモノが描かれているんですね。特に、寝ているいなか者を狙っている熊鷹を描いている絵では、鷹が雀を狙っているように見える「見立て」の構図になっているんですよ。松も、歌舞伎の舞台にある「書き割り」という大道具みたいなかっこうをしていますね。

色とりどりの野草の花が咲くのどかな街道の様子が、絵から伝わってくる
狐忠信

『狐忠信』は歌舞伎の三大名作のひとつ『義経千本桜』をもとにしたお話です。兄・頼朝に追われた源義経は、恋人の静に佐藤忠信というおともをつけ、ふたりはべつべつに逃げていくこととなります。忠信の奮闘もあり、数年後、義経と静はぶじに再会をはたしますが、旅の途中、忠信にふしぎなことがあったといいます。そのふしぎなこととは……。

『狐忠信』は、歌舞伎の有名な演目のひとつ『義経千本桜』の一部を絵本にまとめたものです。登場人物は義経と静御前、義経の家来で静御前といっしょに逃げていた佐藤忠信、そして義経の命令で忠信を捕まえる亀井六郎の4人。
名前を呼んでピンときた人はご明察! 家来の佐藤忠信は、実はキツネが化けているのです。でもまだ子どもなので、おかしな動きをしたり「コン!」と鳴いてしまったりして、静御前に疑われていたのでした。なぜ子ギツネは、忠信に化けていたのでしょうか。それが『狐忠信』のおはなしの大事な部分になっています。

壱太郎:子ギツネは自分のお父さんとお母さんをとても大事に思っていて、だから静御前のそばに居たのです。おはなしは絵本で楽しんでいただけたらと思いますが、くまあやこさんが描いてくれた子ギツネが、本当にかわいいでしょう。

くま:実際に歌舞伎の舞台を観たときに、忠信がキツネになりきっている仕草や言葉づかいなどにすごく感動したんです。それをうまく絵にできたらいいなと、こだわって描きました。舞台では人間の役者さんがキツネを演じていますが、絵本なので本当にキツネの姿で描きました。

表紙と裏表紙に描かれている、キツネと忠信の対照的な姿。おはなしではどちらか一方の姿でしか登場しないので、並んで見ることができるのは表紙だけ。キツネの仕草を役者がどう演じているのかも、絵を見ると一目でわかる

壱太郎:『狐忠信』には静御前という女性も登場していますが、くまさんが描いてくれた衣裳がすごく素敵なので、じっくり絵をみてください。実際の歌舞伎の衣裳ではお星さまの柄のものはないので、かわいいなと思いました。

くま:「衣裳は自由に描いてもよいですよ」とおっしゃっていただけたので、楽しみながら描けたのがよかったです。

表情から衣裳、そして背景までじっくり眺めて楽しめるのが絵本の良いところ! 繰り返し見ているうちに、絵の中にちょっとしたシカケがあることに気づくかもしれません。ぜひ親子で探してみてください。

《聞いて!》
歌舞伎俳優・尾上右近さんと尾上松也さんの読み聞かせ音声をアプリで楽しもう♪

壱太郎さんは絵本の文章を書くときに「歌舞伎らしさ」を残しつつ、子どもたちにも内容が伝わる言葉を選んだそう。「昼強盗だぁ! 出あえ、出あえ!」「やぶれかぶれ」など、日常の会話では耳にしたことがない言葉も。「どう読んだらいいのかしら?」と思ったときは、音声アプリ「きくもん」の出番!

絵本の巻末に、音声アプリ「きくもん」の案内を掲載。絵本についているシリアル番号を入力すると、音声を聞くことができる

壱太郎:イベントでは私が読ませていただきましたが、音声アプリ「きくもん」では、私よりもより上手に尾上松也さんと尾上右近くんが読んでくれていますので、お子さんといっしょに聞いて楽しんでください。お子さんが先にうまくなっては困るというのであれば、親御さんだけ聞いていただけたら(笑)。

僕も、松也さんと右近くんに読んでもらうために自分でも何度も読んではいたんですが、イベントでは気持ちを入れてしっかりと読んだので、とても緊張しました。やはりひとりで何役も演じ分けるというのは、歌舞伎をやっててもとても楽しいことですし、『狐忠信』はナレーションを含めると5人の演じ分けが必要になるので、すごく自分でもこうしようかなああしようかなといろいろ考えてやっていました。読み手が変わると、また違う色も出てくると思うので。ぜひいろいろな方に読んでもらえたらうれしいなと思っております。

壱太郎さんは、実際に歌舞伎の舞台で『狐忠信』に登場する静御前の役を演じていることもあり、女性らしい声と言葉遣いで静御前を表現してくださったことが印象的でした。みなさんも絵本を見ながら朗読音声を聞いて、歌舞伎のおもしろさを味わってみてください。

《まねして!》
朗読音声を聞いてセリフをまねっこ! 劇ごっこにもぴったり

子どもはおもしろいものに敏感ですから、すぐに「出あえ、出あえ!」なんてまねして遊び始めるかもしれません。「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズの文章は覚えやすいので、親子や友だち同士で劇ごっこをするのにぴったり。

壱太郎:ひとり1役を受け持って、お友だちといっしょに読むと楽しいかなと思います。僕が『茶壺』で好きなのは、裏表紙の目代さん。困った顔をしているおじいちゃんが、かわいいなと思います。

いなか者と熊鷹、どちらの言い分が正しいのか困ってしまった目代。眉根を寄せて、頭を抱えているポーズがかわいらしい

『茶壺』の注目シーンについて、小川さんが挙げたのは次のシーンでした。

小川:『茶壺』の舞台でもっとも象徴的なシーンが、ひとつの茶壺をいなか者と熊鷹がひっぱり合う場面です。『茶壺』は、熊鷹がいなか者の言うことややることをそっくりまねするのがおもしろいので、ふたりが対照的なかっこうになるように描きました。最後のシーンは、舞台だと熊鷹がゆっくり逃げていって目代が追いかけて終わるのですが、絵本では奥行きのある構図で、富士山を描いて土地の雰囲気を出してみたので、絵本でお楽しみください。

『茶壺』で、絵を描いた小川さんが注目して欲しいシーンとして挙げた茶壺を取り合う場面

また、くまさんが絵を描いた『狐忠信』での注目シーンはこちらです。

くま:舞台でもハッと驚かされたのが、人間の忠信からキツネに変わる場面でした。でも実は、その前から少しずつキツネの部分が出ているので、その変化に注目してもらえたらうれしいですね。

『狐忠信』の絵を描いたくまさんが挙げた、人間からキツネに変わる注目シーン

壱太郎:僕が好きなのは、その次のページの子ギツネがお父さんキツネとお母さんキツネに想いを馳せているシーンです。歌舞伎の舞台には、お父さんキツネとお母さんキツネが登場しないので、絵本ならではのグッとくる素敵な絵ですね。

『狐忠信』の中で中村壱太郎さんが好きな、父母ギツネを思う子ギツネのシーン

《楽しむ!》
おはなしの解説や舞台の紹介ページで歌舞伎の奥深さを楽しもう♪

絵本の最初には、それぞれ元になったおはなしのことや登場人物の設定を紹介した解説があります。それぞれがどんな事情を抱えているのか、おはなしの中では語られない細かな設定などが書かれているので、読むとおはなしを深く楽しめるようになっています。

また巻末では、実際の歌舞伎舞台を写真つきで紹介。解説役の壱太郎さんの絵は、それぞれ絵本の絵を担当した人に描いてもらっているそうなので、壱太郎さんの絵の違いも注目ポイントです。

下の写真の静御前は、壱太郎さんが演じているもの。美しいお姫様!

 

絵本の魅力をたっぷりと語り尽くしたイベントは、大盛況で幕を閉じました。さらに「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズにかけた中村壱太郎さんの想い、絵本制作秘話について語っていただいたインタビューもあります。
ぜひこちらの記事もチェックしてください。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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