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「新宿絵本日記」

癒されるって、なんだっけ…!? 2018年6月26日

 

久しぶりに、一人暮らしの母と長電話。

話の流れで母が言う。

 

「そういえば、あの絵本ね。最近寝る前とか起きがけによく読んでるの。枕元に置いておいて。なんかね、癒されるっていうのかな。」

 

え、え!?

ちょっとまって、あの絵本だよね? …癒される!? 寝る前に? 起きがけに?

 

なぜこんなに私が驚いているのかと言えば。その絵本が嫌いだから…ではもちろんありません。前の連休に、一緒にその絵本の原画展を観に行ったのです。その時もすごく「絵がいいねえ」と感動していたのです。特に気に入っていたのは、「障子」の絵と、どこか懐かしい「民家」の絵。「なんだろうねえ。一面に描かれた障子を見ると、すごく癒されるというか落ち着くというか。光の入り具合もね、いい。この古い民家も、住んだことはないはずなのに、なんだかすごく懐かしい気持ちになって」

 

確かにそう言われれば、わかる。家の中に差し込む光の具合とか、太くて重厚感のある柱。窓の外には濃くて深い緑。そして母は更に続けます。「こういう感覚の絵本って、昔はなかったわよねえ。笑っちゃうとか、感動する、とかじゃなくて。初めて読んだから面白くて」

 

そうだったかなあ。でも、男の子の不安そうな表情とか、おばあちゃんとの会話とか。そこらじゅうにいる猫たちの眼差しとか。奥行きのある天井やそこに広がっていく暗闇とか。その先にみえるもの……とか…

 

「こわくないの?」

いるのいないの

いるのいないの

人気小説家が描く、怪談えほんシリーズ!
『百鬼夜行シリーズ』などで知られる作家、京極夏彦が描くのは、古い日本家屋にひそむ恐怖……

かやぶき屋根の、木でてきた、とても古い家。
おばあちゃんとふたり、そこで暮らすことになった男の子。
おばあちゃんの家は、とても天井が高い。
大人が台にのっても、はしごにのぼっても、届かないくらい高い。
ずーっと上のほうに、暗がりがたまっていて、その手前に、太い木の梁が渡っている。

「うえのほうは くらいねえ」
「でも ほら したのほうは あかるいよ」

下の方が明るいなら、まあ、いいか。
でも、やっぱり、気になる。
頭の上でかたまりになっている暗がりを、何度も見あげる。
そしてその日、男の子は、梁の上の暗がりから自分を見下ろす、それを見つけた――

顔のはっきり描かれないおばあちゃん。
家の中をうろつく、おびただしい数の猫。
わずかに開いたふすま。
光のとどかない廊下の向こう。
なんの変哲もない風景を切り取ったはずのページさえ、なんだかひどく不気味に見えます。
「なにかひそんでいるんじゃないか?」なんて、うすぼんやりと広がる黒に、目を凝らしながら読み進めていくと……

背筋が、ひやり。

『暗い』って、こわいなあ……
そんな、原初的な恐怖を、いやおうなく思い出させる一冊です。

「みなければ こわくないよ。みなければ いないのと おんなじだ」

おばあちゃんはそう言うけれど、それじゃあもしも、見てしまったら?
わかっているのに目を凝らし、わかっているのに探してしまう。
この絵本の暗がりからは、ああ、どうしても目が逸らせない……

(堀井拓馬  小説家)

https://www.ehonnavi.net/ehon/83158/%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%AE/


やっぱり怖いよ!大人の私が、昼間の会社で読んでもゾッとくる。原画展で見守っていた係のお姉さんもその場面の絵は怖くてみられないと言っていた。ところが、母は一人暮らし。しかも真っ暗な部屋で読むという。

 

「うーん、怖いっていう感覚はね。この歳になるとまったくないのよ」

 

そういうものなのかと、答えを聞きながら思い出した。そういえば、子どもの頃にも怖がりだった私がトイレに行けなくて泣きながら同じ質問をしたことを。

 

「大人になればね、怖いなんて思わなくなるものよ」

 

そうでした。母には怖いという感覚が、もとから殆どない人なのでした。母に言わせれば、同じシリーズの『ちょうつがい きいきい』も絵がとっても面白いから好き、とのこと。…まいった。

 

でも。違う方向から見る「怪談絵本」も悪くないのかもしれません。癒されるって、本当に色々。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

 

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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