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AI時代の“頭のいい子”とは!?わが子に合う「STEAM教育」特集

【STEAM教育特集】第2回:中島さち子さんが語る!親は子どもの探検の仲間。一緒にワクワクする学びを

AI(人工知能)が、生活のあらゆる分野で活用されるこれからの時代。その新しい時代で活躍しゆく人材を育成しようと、世界の教育界は、今、大きな変革期を迎えようとしています。

 

そんな中、注目を浴びているのが「STEAM(スティーム)教育」

今回は、日本人女性唯一の国際数学オリンピック金メダリストであり、ジャズミュージシャンでもあるという、異例の経歴をお持ちのSTEAM教育家・中島さち子さんに「STEAM教育」導入の背景やその重要性、家庭での実践法などをたっぷりインタビューしてきました!

中島さち子

STEAM教育家。国際数学オリンピックにて日本人女性初&現在唯一の金メダルを獲得。ジャズピアニストとしても活躍する。

内閣府STEM Girls Ambassador。経済産業省『「未来の教室」&EdTech』研究会に研究員として参加。米日財団日米リーダーシッププログラムフェロー。(株)steAm代表取締役、(株)STEAM Sports Laboratory 取締役、(一社)Follow the MUSE 共同代表。

2018年には初の絵本『タイショウ星人のふしぎな絵』(絵:くすはら順子、文研出版)を発刊。

始まりは「STEM(ステム)教育」だった

ーSTEAM教育という新たな教育方針が打ち出された背景を教えてください。

 

そうですね、そのために、まず「STEAM」の前身とも言える「STEM」について軽く触れたいと思います。

 

21世紀の初頭、オバマ大統領による国策として導入・普及された「STEM教育」は、

 

S:Science(科学)

T:Technology(技術)

E:Engineering(ものづくり)

M:Mathematics(数学)

 

この4つの分野の学びに力を注ぐ教育方針です。

 

IT技術が急速に進化する現代社会において、人手不足が問題となっていた理工系の人材育成を目的としてスタートしました。その背景には中国の経済発展への危機感と、職に就けない移民対策の必要性があります。移民や貧困で苦しむ方々が良質な教育を受けられていない状況と、今後の経済発展にはSTEM強化が必要不可欠である社会課題の両方を解決するため、多額の予算が投下されたのです。

「ゲームをするだけでなく自らプログラムを作ろう!未来を作るのは君たちだ」というオバマ大統領の子どもたちへの演説が素敵です。

「STEM」から「STEAM」へ。「A」がもたらす変化とは?

ー「A:Arts(芸術、リベラルアーツ)」は、後から加えられたんですよね?

 

はい、世界的なデザイナーであり、2008年アメリカ有数の芸術大学RISD(ロードアイランドデザイン学校)学長に就任されたジョン・マエダさんが、STEM教育に「A(Art)」を加えた「STEAM教育」の重要性を説き、STEAMを牽引してきました。

 

彼は、「アートとデザインが、21世紀の世界経済を変える」と発信し、STEMの知識や技術の習得だけでは事足りず、そこにリベラルアーツ(Arts)*の多角的視点をプラスすべきだと唱えました。

 

――――――

*リベラルアーツとは:

様々な教科を総合的に学ぶことで、基礎的な教養を身につけることを目的とした教育。アメリカのリベラルアーツカレッジは、少人数制で、様々な学問領域に触れながら、基礎的な教養と論理的思考力の習得に重点を置いています。

――――――

 

日本語で「芸術」「アート」と聞くと、絵がかける能力や上手に歌う才能などを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、「STEAM」の「A」にはもっと深い意味が込められています。それは「探究する」「世界を見る新しい視点を生み出す」ということです。

 

自分の決めた課題を解決するために、いろいろな手法を試し、何度も失敗を重ね、その度に気づきを得、次の一手を生み出す。この試行錯誤のプロセスを繰り返して、イノベーションを起こし、これまで世の中に存在しなかった価値を生み出していくことが「Arts」の存在意義です。

 

コンセプトやストーリーはこれでいいのか?

この方向性以外に、より良い方向性はないか?

素材は本当にこれで良いのか?

他の手法で試した場合は、どんな結果になるのか?

 

と、様々な角度から自問自答を繰り返し、自分が納得する解に到達するまでプロジェクトに取り組むのがリベラルアーツのアプローチです。

例えば、一昔前までは、大半の商品・サービス開発のコンセプトが、「より良く」「より安く」とわかりやすく、“右にならえ”でよかったのですが、経済が発展し、価値観が多様化した現在では、「本当の意味で幸せになるには」「自分にとって本当に必要なものは」といった、その人なりの価値観を多角的に掘り下げていく必要性が生まれてきました。

そういった時代背景もあり、リベラルアーツで養われる多角的視野は、今後ますます重要度を増していくと予測されています。

ー「STEAM教育」普及において、海外と日本の違いはありますか?

 

そうですね、海外の方が注目度が高いという印象があります。

アメリカや欧米諸国をはじめ中国や東南アジア諸国では、お金を払ってでもSTEAM教育を受けさせたい、と思っている親が多いと聞きます。日本では、STEAM教育の意義(創造性・実践性・横断性含む)は最近認知され始めてきている印象です。

日本は昔からものづくりに強い国で、理工系分野に明るい人材も多かったので、アメリカでSTEM教育が導入され始めた時期に注目してこなかったことが、このズレを生み出しているように思えます。

しかし、STEM/STEAMの両方に共通する「学習者自身が課題やテーマを設定し、自分なりの解を見つける・創り出す」という学び手主体のプロジェクト型の学びは、STEMが始まる前から海外で意識され幅広く実践されてきた一方、日本人にとってほぼ馴染みのないアプローチ。「正しい方法で決まった答えを探す」という学びのスタイルからの脱却こそが、日本における「STEAM教育」導入の大きな挑戦と言えるでしょう。

家庭で明日から始められる「STEAM教育」とは?

ー学校教育も変わろうとしている中、家庭でできることはあるのでしょうか?

 

はい、むしろ家庭でしかできないこともたくさんあります。

まず1つ目に、子どもを夢中で遊ばせてあげることです。

私自身の話になりますが、小さい頃、川の流れを3時間も眺めていたことがあったそうです。私が母の立場なら、途中で「もう帰ろう」と言ってしまいそうなところを、母は日傘をさしながら、私が飽きるまで待っていてくれたのだそうです。おかげで、じっくり何かに没頭する、という自分のペースが形作られていったように思います。

 

数学が好きになったのも、計算問題を早く解けるということではなく、明確な答えが見えない問題とじっくり向き合い、自分なりに納得のいく筋道を見出していくプロセスが楽しかったのです。これが数学オリンピックにつながった、ということですね。

その子にとっての「自分のペース」を大事にしてあげることで、才能が開花することがあると思います。

 

ー素敵なお母さまですね。今では、中島さん自身が母親の立場に立たれていますね。

 

そうなんです。自分が母親になって改めて母の偉大さを感じます。

私の娘は、一時期スライム作りに熱中していたのですが、正直、私はあの得体の知れないものが苦手で(笑)。あれが床に落ちていようものなら、「もうやめて!」と叫びたくなるほどでしたが、グッと我慢して見守ることにしました。

すると、動画サイトなどから情報収集し、色や素材違いの様々なスライムを作って遊び始めたのです。「どこでそんなことまで学んだの?」と感心するほどの夢中な実験ぶりでした。素材やバランスを変えるだけで、透明度の変わり方も手触りも色のつき方も音も匂いも全然違うと娘に教わりました!

1年ほど没頭していたからこそ、自ら発見し、失敗し、そして発明したこともたくさんあると感じましたね。

自分の好きなことなら試行錯誤するプロセス自体が、とってもワクワクする時間です。大人にあれこれ指図されるのではなく、自由に遊びながら、自発的に「これもやってみよう」と思う“探究の素地”を身につけてほしいなと思います。

親は学びという探検の仲間。「教えてあげなきゃ」という概念はいらない

ー親として、子どもの学びに関わることに不安を感じる方も多いようですが…。

 

STEAM的に学ぶために、もう1つ大事なことがあります。それは、「親が教えるもの、子は教わるもの」という固定観念をなくすことです。

親が必ずしも全てを知っている必要はありません。むしろ、親も子どもも答えを知らないことを一緒に楽しむ感覚がとても大事です。それは、探検に出かけるときの仲間のようなもの。行き詰まった時に応援してくれたり、困った時に一緒に悩んでくれたりする友達です。「親が教えてあげなきゃ」という感覚では、親にプレッシャーがかかり、子どもも負担に感じてしまいます。

 

童心に返って子どもと一緒に遊んでもよいですし、大人自身がワクワクすることに隣で取り組んでもよいでしょう。親も子どもも同じ立場になって「学びって楽しいな」と思える小さな体験を積み重ねていけると良いですね。私も実は、今コーディングやARや機械学習、フィジカルコンピューティングなどを四苦八苦しながらもとても楽しく学び研究しています。ぜひ、親自身が何か1つ、「ワクワクすること」を見つけて挑戦してほしいなと思います。失敗しても苦手でも大丈夫ですので!

 

何かを作りたい!表現したい!という「ワクワクした気持ち」を起点とし、それを実現する手法をあれこれ模索・具体化していく「STEAM教育」。その探究心は、「遊び」から始まっているようです。もちろん、身の危険を防いだり、生活リズムを守ったりと、ある程度のルールは必要かもしれませんが、可能な範囲で、子どの“好き”を伸ばしてあげるとよいのかもしれませんね。

 

次回は、家庭でできる具体的なSTEAM的アプローチをご紹介します!

 

 

インタビュー:ライター 福田貴子(ふくたたかこ)

★STEAM教育についての疑問を大募集します!★

この記事を読んで、また日頃感じていた「STEAM教育」についての疑問をお寄せください!

STEAM教育の専門家に回答いただき、この特集で発表します。

 

\専門家に答えてもらうチャンスです/

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