『えきのひ』 2017年1月23日
田舎で育ったせいでしょうか。それともたまにしか行かないからでしょうか。
「新宿駅」と聞けば、ずっとおそろしいイメージしかありません。
だって、油断するとすぐに今どこにいるかわからなくなっちゃうのです。
ちょっと違うホームに降り立つと、途端に行きたい場所に行けなくなってしまうのです。
気が付いたらぐるぐる回っているのです。
きっと何かの呪いがかかっている…訳はなく、ただの方向音痴です。
確かに小さい頃からよく迷子になっていたし、気が付けば知らないおばさんのスカートをつかんでいることもあったし、いつもと違う通学路を歩いてみたら本気で迷子になってしまったこともありました。
だからといって、大人になったというのに、こんなに途方に暮れることがあるなんて。
成長なんて、なかなかできないものだと悲しくなる瞬間です。
絵本『えきのひ』は、小さい頃に誰もが体験したことのある「はじめてのまいご」を温かなタッチで描き出します。そう、気が付いたらかあさんがいない、かあさーーーん! というあれです。
私は、この絵本に登場する小さなきょうだいを見守るというよりも、同士というような気持ちで読むのです。
駅でまいごになった姉と弟の冒険
大きな荷物をもった、小さなふたりが手をつないでぽつん。
ひろーい背景の中で、不安げにこちらを見つめています。どうしたのでしょう?
さっきまで、おねえちゃんはかあさんのコートをしっかりつかまえていたのに。
はじめてやってきた大きな駅では、めずらしい人や見たことのないものであふれています。
しゅしゅぽっぽ シュシュポッポ
なんておもしろいところなんでしょう。ふたりはあっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。
あれ?アレ?あれあれ?かあさんがいない。かあさーーん。
どうしよう。ドウシヨ。姉と弟、小さなふたりの冒険がはじまります。
あっちにいって、こっちにいって。心配したり、ケンカしたり。
どんなに探してもかあさんが見つかりません。おなかすいた。
・・・ずっとこのまま忘れられたままだったら、どうする?
がんばれ、まいご。きっとだいじょうぶ。
手に汗をにぎりながら見守っているのは、絵本の中の幼い姉弟?
それとも小さい頃の自分の姿を見ているのでしょうか。
どこか懐かしい風景の駅の中で走り回る姿は、誰もが体験のある「はじめてのまいご」の記憶を呼び覚まします。
でも、子どもだって泣いてばかりじゃありません。
しゅっぱつ!シンコウ!
心に残る温かなタッチで描かれたこの絵本は『つみきのいえ』で話題となった加藤久仁生さんの、また違った魅力の味わえる1冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
幼いきょうだいは、結局自分たちの強い意志でなんとか困難を切り抜けます。
私だって。
オフィスが新宿に引っ越してきて1年が経ちます。
西口と南口の関係はお手のものです。
西新宿駅から新宿駅まで歩いていくことだって出来ます。
大したものです。
もうすっかり新宿駅は制覇、庭みたいなものでしょ。
なんて調子に乗っていたら、待ち合わせの東口に行こうとしてまた迷子になりかけてしまい…。
まだまだ呪いを解くための修行が足りないのだと自覚する日々なのでした。
新宿と、もっと仲良くなりたいです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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