【編集長の気になる1冊】 ムスコ・グルグル …朝のおまじない。『テツコ・プー』
彼はその小さな部屋の中を、めいっぱい大きく円を描くように歩く。下を向いたまま、2周。しっかり時間をかけて。
その間、保育士さんに声をかけられても決して返事はしないし、すでに遊んでいるお友だちの輪にも入らない。
「毎朝そうなんですよー。」
これは息子が2歳の頃の朝の習慣。お迎えの時間に、園長先生が教えてくれるのです。そして、しばらく経つといつの間にか楽しそうに、みんなと混ざっておもちゃで遊んでいるのだそう。
私はこのエピソードが大好き。だって、そんなにすんなりみんなの世界に入っていけないよね。よくわかる。これは彼が無意識のうちにあみだした朝のおまじないなのです。
テツコ・プー
いつも機嫌が悪くて、プーーッとしてるからテツコ・プー。
なんだか可愛らしい響きです。
この絵本の主人公です。
でも、今朝はまた特別に不機嫌、プーツとした気持ちでいっぱい。
だから朝ごはんの時に、弟をつねったら、お母さんに怒られて。
ますますプーッとして、あやまらないのがテツコ・プー。
「いつまでもプーッとしていると、
ふうせんみたいにふくらんで、
どっかにとんでっちゃいますよ」
まさか。
そう思っていると、テツコ・プーのからだは本当にふくらんできて、ぷわりと浮いた!
そして、そのまま窓から飛び出して、ふわふわと空高く飛んでいってしまったのです。
どうなる、テツコ・プー!?
こんな風に赤い水玉のパジャマを着て、大好きなぬいぐるみを抱えて、ふわふわな髪の毛のテツコ・プーちゃんは、とってもチャーミング。たとえ、ほっぺたをふくらませて、眉をキリリとあげて、口元をぎゅっとへの字に結んでいたとしてもね。とっても可愛い。
だけどね、困っちゃうのはテツコ・プー。いつも怒ってるのはちょっと疲れるし、だからと言って笑うタイミングは逃しちゃうし、そもそもなんで不機嫌なのかもわからない。そんな時はね、ちょっと深呼吸して力を抜いて。口もとをちょっとだけ上げてみれば……ほーら、誰かが抱きとめてくれるよ。
作者の児島なおみさんから、そんな優しく包み込むような視線を感じるこの作品。「プーッとしている気持ちの下に、どんな心が隠れているのかな。」実際にてっちゃんという女の子からインスピレーションをもらって生まれたのだそう。テツコ・プーな子も、そうでない子も、親子で一緒に笑いながら楽しめたらいいですよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
あたたかくなってきて、朝が園庭遊びで始まるようになっても、彼の習慣は続く。1周、2周……。さらに3周目をまわりながら小枝を拾い、ダンゴムシをつつく、までがルーチンになり。
いつのまにか、保育園ではダンゴムシつつきが大流行することとなるのです。
私もムスコ・グルグルの世界をちょっとのぞいてみたかったな。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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