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絵本ナビ編集長の気になる1冊

【編集長の気になる1冊】懐かしい未来、いつか見た夢。 『ミライノイチニチ』

 

気が付くと、自分は知らない街にいて。
まっすぐに続く石畳の道を歩いている。
見上げれば漆黒の空。
不思議と迷うことがないのは、ほんのりと光が道を照らしているから。

 

そのまま歩いていると、すぐにその答えが見えてくる。
地平線上に考えられないほどの大きさで「月」が半分顔を出しているのだ。

 

やわらかな黄色い光で浮かびあがる綺麗な半円。
すぐ近くにいるような、いや、ものすごく遠くで浮かんでいるような。
表面はゴツゴツしているけれど威圧感はなく、街全体を包み込む。

 

子どもの頃、いつか見た夢。
その景色は、よく知っているような気もするし、全くあり得ないような気もしてくる。
強烈な違和感があるけれど、どこか懐かしく。


「いつか私もここに帰りたい」

 

この絵本を読んだ後、ふとこんな言葉をもらしながら、
同時に思い出したのでした。
 

ミライノイチニチ

ミライノイチニチ

白い壁に、白い家具。たくさんの緑に、キラキラ光る小物たち。
そこへたっぷりの明るい光が差し込み、「うーん……おはよう」。
ロボットに起こされて、目を覚ますのはミライくん。

ああ、素敵な部屋。
開いた途端、惹きこまれるそのページをよく見ていると、あることに気が付くのです。
……浮いている!
椅子やテーブル、ランドセル型ロボット、水道の水まで。

そう、ここは未来の家。
小学生のミライくんの一日が始まります。
「いってきまーす」
移動型教室のお迎えで登校し、無重力遊泳や宇宙語を習い、惑星や銀河を頭の上に眺めながら理科の授業。お昼ごはんはイマジナリーフード。

絵本全体を覆う美しい色合いの景色に誘われて、読者の気持ちはすぐに「ミライの世界」の住人に。なんてワクワクする光景なのでしょう。だけど、読めばわかっていくのは、そこは「地球ではない」ということ。限りなく今の自分たちの生活の延長線上にあるように見えるけど、決定的になにかが違う。

この絵本がすごいのは、誰の心にも生まれるそんな小さな不安が吹っ飛んでしまうくらい「ミライの世界」が魅力的だということ。漫画家・イラストレーターとして活躍されているコマツシンヤさんが描くのは、 幻想的でどこか懐かしくも、明るく前向きな風景。

「人間の想像力ってすごい」
「こんな未来なら早く行きたい!」

暗くなりがちな大人の心に希望の光を灯し、子どもたちには進むべき道を示唆してくれる。大袈裟でなく、そんな価値のある1冊だと思います。

 

(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

https://www.ehonnavi.net/ehon/125533/%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%83%81%E3%83%8B%E3%83%81/

他人と「イメ―ジ」を共有することって、難しい。みんなが思い描く「ミライ」だって、きっとばらばらに違いない。

 

だけど、その上で。その先に「帰りたくなる」ような世界が広がっていたとしたら、どんなにいいだろう。そう思いながら、自分の見た夢や、読んだ本の中から、そのかけらを拾い集めていくのです。

磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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