【編集長の気になる1冊】 これもやっぱり一つの奇跡。 『11ぴきのねこ』
息子が泣いている。
あと一歩というところで涙をのんできたソフトボールチームが、決勝で熱戦を繰り広げた末、彼らのチームワークによって見事優勝を成しとげ、帰ってきた部屋で、ひとり。
嬉し泣きでも悔し泣きでもない。
母にはわかっている。
悲しくて泣いているのだ。
彼にとっての一番の楽しみは、いつか優勝した後にみんなでご飯を食べに行く約束。それがなんとなく流れてしまったのだ。もちろん大したことじゃない。思いがちょっとずれただけ。小学生である以上、親の意見も絶対だ。だけど、やっぱり悲しい。
そう、勝ち負け以外でみんなの気持ちが完全に一致し続けるなんて、結構奇跡的なことなのです。例えば彼らのように……
11ぴきのねこ
とらねこ大将と10ぴきののらねこたち。
それがこの絵本の主人公です。
彼らはいつもおなかがペコペコ。
けれど、見つけた魚はいつも11等分。
これじゃあ、お腹いっぱいにはなりません。
そこで11ぴきのねこは、はるか遠い湖までやってきます。
そこには「怪物みたいに大きな魚」がいると言うのです。
11ぴきのねこは、いかだを作り、帆を張り、なわも積んでいざ出発!
さあ、どんな魚が出てくるというのでしょう?
馬場のぼるさんの大人気絵本「11ぴきのねこ」シリーズの記念すべき第1作目がこの作品。彼らに名前はなく、ただの「のらねこ」たち。だけどなんて魅力的な主人公たちなのでしょう。「お腹いっぱい食べたい」その思い一つでどんな困難にもニャゴニャゴ―っと一致団結。体を張り、知恵を絞り、作戦を実行していくのです。
さて、11ぴきのねこの前に立ちはだかるのは想像を絶する大きさの怪魚。
まるで歯が立ちません。
だけど、そんなことじゃ諦めきれないのが彼らの持ち味。
思いもよらない作戦を考えつき……。
あっと驚く最後の展開は、この絵本最大のお楽しみ。
読んだ途端に彼らのことを大好きになってしまうのでした。
(シリーズはまだまだ続くのでご安心を)
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
こらえきれずに迎える最後の展開に、見事に欲に負ける11ぴきのねこたちの様子に、読者は「あーあ、やっぱりね」とため息をつきながら笑う。
だけど、絵本の中では誰ひとり後悔なんてしていない。全員が満足で幸せそうな様子で終わっているのです。これは間違いなく「ハッピーエンド」。
息子の気持ちを理解して、その後もう一度勝ちを積み重ねてちゃんと約束を実行してくれた仲間たち。こちらも「ハッピーエンド」ですね。
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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