『こもれび』から感じる、「生きる」ということ(光村教育図書)
心いっぱいにこもれびを感じることができる、作品の魅力をご紹介します。
個性豊かな春の野に咲く花たち
おはなしの舞台は、暗い木立の下。そこでひっそりと生きているのは、たんぽぽ、しろつめくさ、なずな、つゆくさ、そして、小さな小さなすみれです。
草花たちが焦がれているのは、木の葉の間から降りそそぐ「こもれび」。
物語は、小さな草花たちの会話を通して進んでいきます。ひとりだけこもれびを浴びることのできる場所に咲いているたんぽぽ。 背が高く、遠くのこもれびを見ることができるなずな。めったにこもれびが届かない場所に根を下ろしているしろつめくさとつゆくさ、そして、一番暗い影の中にいるすみれ。
同じ野の花でも、その境遇はずいぶん異なります。
風が吹いたり、小鳥が木々を揺らしたりするたびに、こもれびはその位置を自由に変え、その度に一喜一憂する草花たち。
読者はだんだんと、自分が小さな草花たちになったような気持ちになることでしょう。
岡田千晶さんの描く、光と影の美しさ
『あかり』の命の揺らぎを感じるろうそくの炎や、『ひだまり』の柔らかく包み込むような優しい日の光。
岡田千晶さんの描く光は、ときに切なく、でもあたたかく、読者に物語のメッセージを伝えてくれます。『こもれび』では、特にその影の描写が美しく、暗くなった場所にもしっかりと草花たちが生きている様子が伝わってきます。また、影があるからこそ、「こもれび」の光の柔らかさ、あたたかさをより際立って感じることができます。
ページを閉じて、体の隅々まで日の光を感じたくなる、心地よい読後感が魅力です。
シリーズ3作を通して見えてくる、林木林さんの思いとは……?
『あかり』『ひだまり』、そして『こもれび』。林木林さんはこの3作品を通して、どんなことを読者に伝えているのでしょうか。
ろうそくを通して一生という時間を表した『あかり』。
ひだまりのようなミケーレとのひと時を描いた『ひだまり』。
こずえのすき間から差し込む一瞬の光を待ち望む植物たちの姿を映した『こもれび』。
3作品を読んでいくと、そこには、「光」と「命」そして「時」が共通して描かれているように感じます。
どの作品も美しく、切なく、そして心にポッと優しい灯りを燈してくれます。
手に取った読者の年齢によって、感じ方も様々。読むたびに、自分の心と向き合う時間を絵本から感じることでしょう。
ずっと手元に置いておきたい、そして大切な誰かにそっと手渡したくなる3作品です。
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