【編集長の気になる1冊】きっと必要な大冒険。『ロビンソン』
今日は特別な日。
大きな期待と小さな不安を抱えながら緊張の時間をやり過ごす。
なのに来るはずのお友達が誰も来ない。
私の出番が始まっちゃうのに…。
習いごとの発表会。
「きてね!」「いくいく!」
こんな軽い口約束だげじゃ来られるわけがない。
今ならわかるけど、本番が終わった後も涙がとまらない。
まだ来るかもしれないと、座って待ち続ける私をなぐさめてくれる仲間、とまどいながらも横に座ってくれる父、泣きながら本番を迎えた私を心配してくれる会場スタッフの大人たち。だけど誰が何を言っても泣きやまない。もはや私もなんで泣いているのかわからない。だって、誰も悪くないのだから。
大人になって思い出すのは、その終わってからの数時間。今でも鮮明に記憶に残ってるのです。
ロビンソン
毎日海賊ごっこに夢中なぼくら。
学校の仮装パーティーだってもちろん海賊になる…つもりだったけど。
ママがいうんだ。
「ロビンソン・クルーソーはどう?
大好きなお話のヒーローでしょ?」
そうそう、そうなんだ。ロビンソンは最高にかっこいい。
ママの衣装づくりは本格的。
ぼくは本物のロビンソン・クルーソーになっちゃった、友だちは何ていうかな。
ドキドキして学校に行くと、みんなが……大笑いした。
ショックのあまり部屋に引きこもり、熱を出して寝込んでしまった少年を待っていたのは、大海原からたどり着いた無人島!彼は一人きり、自給自足で生きていかなくてはならない。夢にまでみた大冒険の舞台だったのです。
張り切って、夢中になって、自信にあふれていて。だけどふいに訪れる「かなしみ」。世界が揺らいでしまう「瞬間」。子どもたちの多くが体験するそういう出来事は、大概はまわりから見ると大したことのないことだったりします。だけどそこには、これから大人になっていくまでずっと忘れてはいけない「大切なこと」が沢山詰まっているはず。
この絵本は、作者ピーター・シスの実体験をもとにしているからこそ「個人的な出来事」がとても丁寧に描かれていて、読んでいる人の心を動かします。あの、落ち込んだ心で向かった無人島が彼自身をとても強くしたのでしょう。
表現方法の幅も大きく広がり、ピーター・シスの魅力を存分に味わえる傑作絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
今、同じような経験をしているだろう息子や、小さな子ども達を見ていると、あの時と同じようにキュッと苦しくなる。
でも、大丈夫。それはきっと大人になるために必要な一人きりの大冒険。そうやって、心の底から応援したくなるのです。
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磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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