谷川俊太郎翻訳作品も! 絵本好きの大人がハマる“2in1絵本”が今年のトレンドに!?
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
最近話題の新しい絵本、注目の作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
ひっくり返して2度おいしい! 2つの物語が楽しめる絵本
今年の元日、新聞に掲載されたそごうと西武の全面広告「さ、ひっくり返そう。」が話題となりました。皆様、ご覧になられましたでしょうか?
人気力士の炎鵬さまの写真と一緒に、こんな11行の文章が記されておりました。
大逆転は、起こりうる。
わたしは、その言葉を信じない。
どうせ奇跡なんて起こらない。
それでも人々は無責任に言うだろう。
小さな者でも大きな相手に立ち向かえ。
誰とも違う発想や工夫を駆使して闘え。
今こそ自分を貫くときだ。
しかし、そんな考え方は馬鹿げている。
勝ち目のない勝負はあきらめるのが賢明だ。
わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。
土俵際、もはや絶体絶命。
(提供:株式会社そごう・西武)
こちらの文章、今度は下から読んで頂けますでしょうか。
土俵際、もはや絶体絶命。
わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。
勝ち目のない勝負はあきらめるのが賢明だ。
しかし、そんな考え方は馬鹿げている。
今こそ自分を貫くときだ。
誰とも違う発想や工夫を駆使して闘え。
小さな者でも大きな相手に立ち向かえ。
それでも人々は無責任に言うだろう。
どうせ奇跡なんて起こらない。
わたしは、その言葉を信じない。
大逆転は、起こりうる。
いかがでございましょう……
同じ文章なのに、下から読むと意味がひっくり返っております。
こちらの文章を「面白い」と思われた方、今回ご紹介する“2in1絵本”にハマること間違いナッシングでございます。
秀逸な仕掛けが隠された、大人も大興奮の新刊“2in1絵本”
絵本にも、前からも後ろからも楽しめるものがございます。
1冊の絵本で2つの物語が楽しめるということで、“2in1絵本”などと呼ばれております。出版される数としては、1年に1冊出るか出ないかくらいでございます。ところが!でございます。そんな“2in1絵本”が、今年に入って、(わたくしの知る限りだけで)3冊も立て続けに出版されております。
ゴイスーなペースでございます。絵本トレンドライターとしては、見過ごすことのできない現象でございます。
それだけではございません。今回出版された“2in1絵本”は、先ほどの広告にも一歩も引けを取らない秀逸な仕掛けが隠された、絵本好きのパパママも大満足!大人な“2in1絵本”ぞろいなのでございます。
まずは、こちら。
表からと裏から…同じテキストで、違う世界が広がる!谷川俊太郎訳で味わう“2in1絵本”
今年2月に出版されたフランスの絵本でございます。
翻訳は、谷川俊太郎さま。「マザー・グース」や、『スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし』(レオ・レオニ作/好学社)、『ピーナッツ』(チャールズ・M・シュルツ)など、谷川さまの翻訳絵本にハズレはございません。
表紙からは、羊飼いのおじさん、裏表紙からは、羊飼いの天敵ともいえる狼が主人公、それぞれの視点で物語は描かれております。舞台は、お互いが生活をしている山。そのため、一方のお話の中に、もう一方の主人公の姿が見切れる場面もございます。そんな凝った演出もたまりまセブンでございます。
2つの物語は表裏からスタートし、絵本の真ん中(共に8場面目)で出会うのですが、この絵本のゴイスーなところは、双方の8場面の文章(羊飼いとオオカミのセリフ)が全く同じなのでございます。もちろん、双方の8場面の絵は違います。これだけも一見の価値ありかと……。
絵と文章、それぞれに仕込まれた仕掛けが繊細で、それでいて濃厚なのでございます。まさに、舌と目、両方楽しませてくれるフレンチのような絵本なのでございます。
お次はこちら。今年4月に発売になった絵本でございます。
同じ絵から2つの違う物語が見えてくる! 絵にヒミツのある“2in1絵本”
先ほどの『わたしのやま』は、同じテキストに絵が2種類でしたが、こちらは、同じ絵にテキストが2種類でございます。
2つの物語が同じ13枚(場面)の絵の中で表裏双方向から展開しております。
表からは、スピード自慢の自信家のタカが新記録を作ろうと湖からとんがり山を目指す物語。裏からは、仲間とはぐれた気弱なガンがとんがり山から湖に帰っていく物語になっております。
表裏の冒頭に、「こちらから読むと、タカが飛んでいくお話です。絵本の緑色の文字だけを読んでください」、「こちらから読むとガン(雁)の子が飛んでいくお話です。絵本の茶色の文字だけを読んでください」と注意書きがございます。
こちらの絵本のゴイスーなところは、描かれている主人公がひとり(1羽)なところでございます。絵の中に、タカとガン、2羽の鳥が描かれていると思ったら、大間違いなのでございます。
同じ鳥が、見方によってタカに見えたり、ガンに見えたり、まさに“騙し絵”的な仕掛けが仕込まれております。同じ鳥なのに、緑色のテキストではタカ、茶色のテキストではガンに見えてしまうのでございます。
こちらのテキストを担当されたのは、『ながいながいへびのはなし』(小峰書店)、『ぷしゅ~』(岩崎書店)、『たまごのカーラ』(小峰書店)など、たくさんの人気絵本を手掛ける人気絵本作家の風木一人さまでございます。
こちらの『とんでいく』は、その風木さまのデビュー作でございます。
実はこの作品、20年前の「こどものとも」(2000年11月号)の書籍化(ハードカバー化)なのでございます。20年の時を経て今年、ハードカバーとして再出版されたのでございます。
『わたしのやま』『とんでいく』、2冊共に上質な仕掛けが施された、大人が楽しめる“2in1絵本”でございます。
それでいて、読み聞かせにもオススメでございます。
読み聞かせの際には、1冊の絵本だということを気付かれないように、2つのお話を読み聞かせてあげてくださいませ。そして、2つ読んだあと、ネタばらしをして頂ければ…。
1冊の絵本だと気が付いた時のお子様の表情がたまりまセブンでございます。
そして、3冊目の“2in1絵本”がこちら。
『とと姉ちゃん』の人気脚本家の初絵本!
やさしいクックと勇敢なカックは、ふたりでひとつのうわばき兄弟。幼稚園から子どもたちが帰ったあと、絵の具やクレヨン、バケツなどの仲間たちと、いつも楽しく遊んでいます。
幼稚園の道具たちが繰り広げる楽しいお話は、入園前や通園中のお子さんにおすすめ。「もしかしたら、自分のうわばきも動いているかも…!?」と、毎日の通園がちょっぴり楽しくなる絵本です。
こちらは是非お子様にお楽しみ頂きたい“2in1絵本”でございます。幼稚園、保育園に通うのが楽しくなる絵本でございます。
<表からのお話> おとうとクックを あらわなきゃ!
お休みの日の幼稚園。鬼ごっこをして遊んでいたクックは、絵の具のグリーンざえもんにぶつかって、全身絵の具だらけになってしまいました。汚れたままだと、人間に動いているとばれてしまいますが、クックは水が大の苦手! 逃げまわるクックを洗うため、カックと仲間たちは奮闘しますが……。
<裏からのお話> カックにいちゃんと カラス
クックとカックの持ち主のいっちゃんが、お気に入りのキーホルダーをカラスに取られてしまいました。カックはキーホルダーを取りかえそうと、木の上のカラスの巣を見上げます。でもそのとき、カラスが飛んできて、カックをさらっていってしまいました! カックを救うため、クックと仲間たちが立てた作戦とは!?
この絵本は、2つのお話が表裏からスタートして、絵本の真ん中にある共通の場面で終わるオーソドックスな“2in1絵本”のスタイルでございます。
ただし、テキストを担当されたのがこの方!
『とと姉ちゃん』、『怪物くん』など人気ドラマの脚本家、西田征史さまでございます。こちらが絵本デビュー作でございます。
それだけではございません。主人公は、読売テレビの人気キャラクター「うわばきクック」さまでございます。関西圏の方には、たまりまセブンではないかと。
絵は、『ブルブルさんとおばけのあかちゃん』(小学館)などを手がける絵本作家でアニメーターのあさくらまやさまが担当されております。
最後に、こちらの記事、うしろから読んでも何の仕掛けもございません。
そのほかにも! 前からも後ろからも読める絵本
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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