【大人が楽しむ絵本】うろたえすぎでしょ。『おおかみのはなし』
「あ、きた」
まただ、また来てしまったよ。もうダメだ。
あんなに朝から張り切っていたのに。
この日のためにずっと準備してきたのに。
私のやる気はもう皆無。
身体は丈夫な方だけど、胃腸がめっぽう弱い私。
ちょっとした事ですぐお腹が壊れてしまうのだけれど、その察知も異様に早い。
このままだともっと痛くなる。
仕切る気力もなくなって、人に会うのも嫌々のぎりぎり。
姿勢も上着もよれよれ、歩く速度はもう牛歩。
だってなんだか、身体の支柱がなくなった感じ。
「あとは任せた」
今日はもうなんとか時間を過ごしきるだけでいいよ、ごめんなさいね。
心の中でそっと同僚に謝る。
だけど……お昼になれば、ちゃんとお腹は空いてきて。
「今日は、あそこのお店の辛い麻婆豆腐が食べたい!」
当然、ギロリと後輩がにらみを効かせて私のために言ってくれる。
「やめた方がいいですよ」
そうなんだけどさ。でも、なんか刺激を刺激で消したいって言うかさ。
食べた後は、アイスコーヒーなんか飲んじゃったりして。
あれ、でもやっぱりちょっと痛いかな。
「これ、飲んでください」
優しい後輩が整腸剤を差し出してくれ、ひと段落。
すっかり調子が戻ってきて、また仕切り出す。
ああ、いやだいやだ。こんなに分刻みでうろたえる人と仕事なんてしたくないよね……。
だけど、「歯なし」になったおおかみくんはもっとひどい。
その憔悴感ったら見てられない。だからこそ、愛おしいんだけどね。
おおかみのはなし
おおかみと言えば。昔々のむかしから、こぶたを追いかけるのが大好きです。今日もまた、軽やかにこぶたを追いかけていますよ。あれ? このおおかみと3びきのこぶた、どこかで見たような。
そうなんです。13年も前に、早口言葉をしながら壮絶な追いかけっこを繰り広げていた絵本『はやくちこぶた』に登場してくる皆さんなのです。続編ですね。相変わらずの関係のようです。
……なんて思っている間もなく、いきなりおおかみがびたーーん! 派手に転んで「は」が折れた!?
「じまんのキバがー」
そこから一気に落ち込み弱気になるおおかみ。「は」が痛くて何も食べられないし、お腹はすくし、歯医者は嫌いだし……。こぶた達に出会っても、それどころじゃありません。あれあれ、私たちの知っているあの「何があってもへこたれないおおかみ」の姿とはずいぶん違います。思いっきりうろたえています。
その様子をいち早く察知したのは、こぶた達。怖がるおおかみを心配するふりして、なんだか嬉しそう!? ここからが大ドタバタ劇のスタートです。思いもよらない展開へどんどん転がっていくのですが……。
せっかく主役になったのに、情けない顔ばかりしているおおかみくん。だけど可笑しくて仕方ないのです。きっと彼の周りにいるひとたちも同じ気持ちなのかもしれませんね。
このシリーズは、やっぱり声に出して読むのがおすすめ。大迫力でスピード感たっぷりな絵と、臨場感あふれるセリフの積み重ねで、あっという間に「はやくちこぶた」の世界に魅せられてしまうはずですよ。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
そういえば私のまわりの人も、なんだかちょっと笑っていたような…。うろたえてる私はメンドクサイでしょうが、面白がって付き合ってくれたら嬉しいです。お腹さえ治れば、がんばりますので。
あれ、今日思ったより寒い? ああもうダメだ、今日の私はこんなに薄着。
「あとは任せた」
磯崎 園子(いそざきそのこ)
「絵本ナビ」編集長として、おすすめ絵本の紹介、絵本ナビコンテンツページの企画制作・インタビューなどを行っている。大手書店の絵本担当という前職の経験と、自身の子育て経験を活かし、絵本ナビのサイト内だけではなく新聞・雑誌・インターネット等の各種メディアで「絵本」「親子」をキーワードとした情報を発信。
著書に『ママの心に寄りそう絵本たち』(自由国民社)がある。
文:磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
イラスト:掛川 晶子
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